ウクライナ市民 8割が「心身に不調がある」と回答 NHK意識調査

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってまもなく1年となるのにあわせてNHKは、ウクライナの調査機関と共同で市民の意識調査を行いました。

その結果、およそ8割が「心身に不調がある」と回答し、軍事侵攻の長期化が人々の心と体に大きな影響を及ぼしていることがわかったほか、G7=主要7か国の議長国を務める日本が果たす役割としては、「復興支援」を求める声がもっとも多いことも明らかになりました。

NHKとウクライナの調査機関の共同調査

NHKは、ウクライナの首都キーウを拠点に活動する調査機関「レーティング」と共同で2月6日から2日間、東部のドンバス地域と南部クリミアを除くウクライナ各地の18歳以上の市民を対象に携帯電話で意識調査を行い、1000人から回答を得ました。

心身への影響は?

このうち「絶望的な気持ち」や「不眠症」になるなど心や体への影響について尋ねた質問では
▽「心身の不調が大きくカウンセリングや医師の診察などを受けた」が8%、
▽「心身に不調があり日常生活に支障を感じることがある」が35%、
▽「心身に不調はあるが日常生活に影響はない」は35%で
何らかの不調を感じているとした人は78%に上りました。

一方、▽「特に影響は感じない」と回答した人は21%でした。

戦争で失ったものは?

また、「戦争によって何を失ったか」を尋ね生活の変化について探ったところ
▽「健康状態の悪化」が33%、
▽「収入が減った」が31%、
▽「家族との離散」が26%、
▽「仕事を失った」が18%、
▽家族や親類など「近しい人を失った」が17%、
▽「移住などを強いられた」が15%となりました。

地域別では、「健康状態の悪化」や「仕事を失った」それに「移住などを強いられた」と回答した人は、戦闘が激しい東部で多くなっています。

また、およそ半年前の去年7月にこの調査機関が行った結果と比較すると今回「収入が減った」と答えた人の割合は7ポイント減少しましたが、「近しい人を失った」と回答した人の割合は2倍近くに増えています。

地域によっては復旧などが進む一方で戦闘の長期化によって多くの人が犠牲になるなど人々の生活に大きな影響を及ぼし続けている現状がうかがえます。

G7議長国日本の役割は

また、2023年にG7=主要7か国の議長国を務める日本がウクライナを支援するため国際社会で何ができるか尋ねたところ、
▽「復興支援」が33%でもっとも多く、
▽「欧米からの軍事支援の強化を促進する」が27%、
▽「ロシアへの制裁強化」が19%、
▽「停戦交渉の仲介」が13%となりました。
一方で、日本がウクライナに対して行っている人道支援について知っているか尋ねた質問では
▽「聞いたことがある」が31%
▽「よく知っている」が7%だったのに対し、
▽「はじめて聞いた」が61%ともっとも多く、日本が進めている人道支援があまり知られていない実情も明らかになりました。

停戦か戦闘継続か

ロシアとの戦争に関してウクライナ政府に何を期待するか尋ねた質問では、
▽「クリミアやドンバス地域を含む旧ソビエトから独立した時点の状況になるまで戦闘を続ける」が73%、
▽「軍事侵攻が始まる前の去年2月23日の時点に戻るまで戦闘を続ける」が11%と領土を奪還するまで徹底抗戦すべきだと回答した人があわせて84%にのぼりました。

一方、「停戦し、和平交渉を始める」と回答した人は全体では12%にとどまりました。

ただ、地域別では、東部と南部ではいずれもおよそ2割の人が停戦や交渉を支持していて戦闘が激しい地域でその割合が大きくなっています。

専門家「氷山の一角にすぎない可能性が高い」

意識調査の結果について、ウクライナをめぐる情勢に詳しい筑波大学大学院人文社会科学研究科の東野篤子教授は「ウクライナの人々が被ったメンタル面でのダメージが非常に深刻であることがわかる。この結果だけでも十分に悪いが、より深刻な被害を受けて国外に出て行った人たちが含まれていないことも考えると氷山の一角にすぎない可能性が高い」と指摘しました。

そのうえで、日本のウクライナ支援の取り組みについて、「心理カウンセラーに対する支援など、日本としてどのように手を差し伸べるか専門家などを巻き込みながら深刻に考えていく必要がある」と述べました。

また、意識調査で日本の人道支援があまり知られていない実情が明らかになったことについて「評価してもらうには実際に手に渡るところまで頑張らないといけないのだと思う」と述べました。

そのうえで、横浜市がウクライナの姉妹都市の自治体に浄水器を送ったように、地方都市のレベルで行われている支援を、政府が後押しすることも考えられると指摘しました。

一方、領土を奪還すべきだと回答した人が合わせて84%に上ったことについては、「領土について絶対に妥協しない、ロシアにこれ以上何も奪われたくない、というウクライナの人々の強い意志の表れだ」と分析しました。