【詳しく】トルコ・シリア大地震 その特徴は? 日本で起きたら?

東日本大震災以降、世界でも最悪の地震災害となった、トルコ南部のシリア国境付近で起きた大地震。20日で発生から2週間になりました。

専門家の分析で「内陸地震としては世界最大規模」「同じ揺れが襲うと日本でも大きな被害が出る可能性がある」など、その特徴が明らかになってきました。

同じ「地震国」に住む私たちにとっても決してひと事ではない、今回の地震の姿とは?

東日本大震災の死者を超える地震災害に

今月6日、トルコ南部のシリア国境付近で起きた地震では、2月20日時点でトルコとシリアで犠牲者が合わせて4万6000人を超えています。
1900年以降、トルコで地震による死者・行方不明者が最も多かったのは1939年にトルコ東部で起きた地震の3万2962人。今回はそれを上回り、最も多くなりました。

さらに、死者・行方不明者が2万2000人を超えた東日本大震災の発生以降、世界の災害で最も多い死者数です。
(いずれも内閣府調べ)

被害拡大させた2つの要因

この地震で、なぜここまで被害が拡大したのでしょうか。

専門家などに取材を進めると、主に2つの要因が見えてきました。

1.世界最大規模の内陸地震
2.「キラーパルス」が発生

この2つを、詳しく見ていきます。

“阪神・淡路大震災の22倍”

まず1つめの要因「世界最大規模の内陸地震」です。

今月6日の日本時間午前10時過ぎに発生した大地震の規模は、マグニチュード7.8。そのエネルギーは、2016年の熊本地震の16倍、阪神・淡路大震災を引き起こした地震の22倍にのぼります。

さらに衛星データを使った国土地理院の解析では、この地震による地殻変動はおよそ400キロに及びました。

広い範囲で2メートル地盤がずれ動き、大きなところでは断層を挟んで5メートル以上動いた場所もあったとみられています。

地殻変動の規模は2016年の熊本地震の10倍近く、地盤の変動も倍以上の大きさです。
日本地図と並べるといかにその規模が大きいか、よく分かります。

国土地理院 宗包浩志 地殻変動研究室長
「内陸地震としては世界的に見ても極めて大規模なものでことばを失った。ずれ動いたとみられる断層周辺には大きな都市も点在していて、大きな被害になったと考えられる」
2回目の大地震の震源の周辺でも100キロ余りの地殻変動があったとみられ、衛星データからは地表に現れた活断層の一部とみられる地割れなどが確認できます。

プレートの境界が内陸に

それではなぜ、内陸でこれほどの規模の大地震が発生したのでしょうか。

それは、トルコが、複数のプレートがぶつかり合う「プレートの境界」にあることと関係しています。

日本も同じですが、少し違うのがプレートの境界が日本は海底に多いのに対し、トルコは内陸にもあること。

プレートにかかる力が内陸で直接働くため、トルコでは日本より短い間隔で内陸の大地震が発生しやすくなっているということです。
今回の1回目の大地震は、プレートの境界にある「東アナトリア断層」付近で起きました。過去、大地震を繰り返している断層です。

さらに断層の中でも長い間、大きな地震がない「空白域」と呼ばれる場所で発生したとされています。

東京大学地震研究所の三宅弘恵准教授によりますと「空白域」の周辺では大きな地震が発生する可能性が高くなるとされ、複数の専門家が大地震のおそれがあると指摘していたということです。

“キラーパルス”で被害拡大か

内陸で起きたために大きくなった被害。

さらに2つめの要因「『キラーパルス』が発生」したことが被害を拡大させたとみられています。
愛媛大学の森伸一郎特定教授が解析したところ、トルコを襲った揺れは、ある特徴が見られました。

それは、1回の揺れにかかる時間が1秒から2秒程度の、比較的周期の長い揺れだったことです。

こうした周期の揺れは建物に大きな被害をもたらすことから「キラーパルス」とも呼ばれています。
建物の倒壊が相次いだ1995年の阪神・淡路大震災や2016年の熊本地震でも観測されました。

また、山形大学の汐満将史助教の解析では、現地の地震計では、日本の震度で「7相当」の揺れが観測されたということです。

「日本でも大きな被害の可能性」

さらに愛媛大学の森特定教授らのグループが解析したところ「キラーパルス」が発生した領域は、カフラマンマラシュから南西のハタイまでのおよそ170kmに及んでいました。
この図では、赤・橙・黄色の地点の多くでキラーパルスを観測したということです。

複数の専門家が「今回の揺れが日本で起きた場合、日本でも大きな被害が出た可能性が高い」と指摘しています。

“パンケーキクラッシュ”が多数

こうした激しい揺れが引き起こしたのが、建物の倒壊です。

専門家の分析で「パンケーキクラッシュ」と呼ばれる壊れ方が、多くの場所でみられたことがわかってきました。
「パンケーキクラッシュ」では、激しい揺れで建物の柱が強度を失い、建物が垂直に潰れるように崩れます。短時間で建物が崩れるため、中にいる人は逃げる時間もありません。

現地を見た建築の専門家は

なぜ、ここまで多くの建物が倒壊したのか。

現地の救助活動に同行した構造設計一級建築士の一條典さんに話を聞きました。
一條さんは「パンケーキクラッシュ」が起きた建物の多くが柱と柱の間にはりがない「プラットスラブ構造」だったと指摘します。

建物に“はり”がないため床と床が重なるように崩れやすく、崩れたときの「生存空間」が少なくなります。このため、救助活動も難しくなるということです。

さらに、壊れた鉄筋コンクリートの建物を見たところ、鉄筋とコンクリートの付着力が弱いと推定されたといいます。
一條さんは、柱の強度が低かったことが建物の倒壊の原因のひとつだと分析しています。こうした弱い柱は、日本の新しい建物では見られないということです。

一方、東京大学地震研究所の楠教授によりますと、最新のトルコの耐震基準は日本と変わらない水準だということです。

トルコのメディアは、建物の改築時に柱を取り除くなど違法行為が横行しているものの、当局の監視や取締まりが十分ではなかったなどと伝えています。

専門家「決してひと事ではない」

今回の大地震の被害について、愛媛大学の森特定教授は「日本も決してひと事ではない」と警鐘を鳴らします。

1981年より前の古い耐震基準で建てられた建物が、今も多くあり、今回のような揺れが起きると大きな被害が出るおそれがあるためです。
国土交通省の調べでは、2018年時点でその数は住宅だけで700万戸に上ります。

また多くの人が利用する商業施設やビルなどの中にも、大地震による倒壊のリスクのある建物は残っています。

森特定教授は、今回の地震も教訓に、耐震化の取り組みを急ぐよう呼びかけています。
愛媛大学 森伸一郎 特定教授
「トルコやシリアを襲った揺れは、耐震化が済んでいない日本の建物にとってはひとたまりもない揺れだ。『旧耐震』の建物は日本にまだ数多く残っていて、危機感をもって耐震補強や建て替えなどに取り組まなければならない」