【詳細】北朝鮮 弾道ミサイル2発を発射 EEZ外に落下か

防衛省は、20日午前7時ごろ、北朝鮮から弾道ミサイル2発が発射されたと発表しました。いずれも日本のEEZ=排他的経済水域の外側に落下したとみられるということです。
一方、北朝鮮は、600ミリ口径の「超大型ロケット砲」と呼ぶ短距離弾道ミサイルの2発の射撃訓練を行ったと、国営メディアを通じて発表しました。

防衛省によりますと、20日午前6時59分ごろと午前7時10分ごろ、北朝鮮西岸付近から合わせて2発の弾道ミサイルが東の方向に発射されました。

1発目は最高高度がおよそ100キロ、飛行距離がおよそ400キロで、2発目は最高高度がおよそ50キロ、飛行距離がおよそ350キロとみられるということです。

いずれも、日本のEEZ=排他的経済水域の外側の朝鮮半島東側の日本海に落下したと推定されています。

今回、海上保安庁は3回にわたって発射の情報を発表しましたが、実際に発射されたのは2発で、現時点で船舶や航空機への被害の情報は確認されていないということです。

北朝鮮は18日にもICBM=大陸間弾道ミサイル級のミサイル1発を発射していて、北朝鮮による発射はことし3回目です。

防衛省が引き続き情報の収集を進めるとともに、警戒と監視を続けています。

国連安保理 緊急会合開催へ

北朝鮮による弾道ミサイル発射を受けて国連の安全保障理事会では、日本などの要請に基づいて、対応を協議する緊急会合を20日午後(日本時間21日午前)に開催することになりました。

岸田首相 “国連安保理の緊急会合の招集を要請”

北朝鮮による弾道ミサイルの発射を受けて、岸田総理大臣は20日午前10時半ごろ、総理大臣官邸に入る際に記者団に対し「おとといのICBM=大陸間弾道ミサイル級に続く弾道ミサイルの発射なので、国連安保理に緊急会合の招集を要請している。引き続き情報収集や警戒監視、日米、日米韓の連携を深めていかなければいけないと認識している」と述べました。

松野官房長官「理事国として責任果たせるよう努力」

松野官房長官は午後の記者会見で「国連安全保障理事会が、北朝鮮によるたび重なる決議違反に対して行動できていないことは大変遺憾だ」と指摘しました。

そのうえで「理事国として、中国やロシアを含め、安保理が国際平和や安全の維持という本来の責任を果たせるよう努力していく。同時にアメリカをはじめとする国際社会と協力しながら、北朝鮮に対し、決議のもとでのすべての義務に従うよう求めていく」と述べました。

「さらなる挑発行為に出る可能性」

松野官房長官は午前の記者会見で「関連する国連安保理決議に違反するもので、北京の大使館ルートを通じて厳重に抗議し、強く非難した。わが国と地域および国際社会の平和と安全を脅かし、断じて容認できない」と述べました。

そのうえで「北朝鮮が今後、ミサイル発射や核実験の実施を含め、さらなる挑発行為に出る可能性があると考えており、アメリカや韓国とも緊密に連携しながら必要な情報の収集、分析および警戒・監視に全力を挙げ、わが国の平和と安全に万全を期していく」と述べました。

そして松野官房長官は、20日朝に発射されたミサイルは2発だったにもかかわらず海上保安庁から3回、情報が発表されたことについて、内閣官房から海上保安庁への情報送信に重複があったことを明らかにし「2回目の発射情報が海上保安庁に到達しているか直ちに確認できなかったため、再度送信を行い、結果的に3回目の情報発出になった」と述べました。

さらに午後の記者会見では、「内閣官房から海上保安庁に対する情報提供は、情報が送信されたことがシステム上、分かる仕組みとなっているが、2回目の発射情報は、その確認が直ちにできなかったため再度送信を行った。今後、点検を行い、必要であれば改善する」と述べました。

なお、18日に発射されたミサイルについて、日本政府としてもICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星15型」と同型のものと推定していると説明しました。

北朝鮮「超大型ロケット砲の射撃訓練」と異例の早さで発表

韓国軍の合同参謀本部は、北朝鮮が20日午前7時ちょうどから11分ごろにかけて、西部のピョンアン(平安)南道スクチョン(粛川)付近から日本海に向けて、短距離弾道ミサイルを2発発射したと明らかにしました。

2発の飛行距離はおよそ390キロと、およそ340キロだったとしています。

ことしに入ってからの発射は、元日の短距離弾道ミサイル1発と、18日のICBM=大陸間弾道ミサイル級のミサイル1発に続いて3回目です。

これについて、北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは、朝鮮人民軍の西部前線の長距離ロケット砲部隊が、20日午前7時に、600ミリ口径の「超大型ロケット砲」と呼ぶ短距離弾道ミサイルの射撃訓練を行ったと伝え、20日正午に発射の写真を公開しました。

訓練では、発射地点の先、395キロと337キロの日本海上に設定された目標に向けて2発発射したとしています。

そのうえで、「戦術核として攻撃手段となる超大型ロケット砲を動員した訓練によって、航空優勢を自慢するアメリカと南に対し、わが軍の準備態勢を誇示した」と強調しました。

北朝鮮がミサイルの発射から1時間余りで発表するのは異例で、空軍による共同訓練を19日に実施した米韓両国への強い反発を示した形です。

「超大型ロケット砲」とは

北朝鮮が、600ミリ口径の「超大型ロケット砲」と呼ぶ兵器は、複数の発射管が、移動式の発射台に搭載され、短距離弾道ミサイルを連続して発射できるとされています。

600ミリ口径の「超大型ロケット砲」をめぐっては、去年の大みそかに行われた贈呈式でキム・ジョンウン(金正恩)総書記が「南の全域を射程に収め、戦術核の搭載が可能だ。将来、わが戦力の核心的な攻撃型兵器になる」と述べ、韓国の軍事拠点や在韓アメリカ軍基地などを攻撃する戦術核兵器として使用する可能性に言及していました。

また国営メディアは贈呈式の中で、北朝鮮の核・ミサイル開発を主導する国防科学院と核兵器研究所が「ロケット砲は、4発で、敵の作戦に使われる飛行場をまひさせることができると明らかにした」と20日、伝えました。

北朝鮮は、去年の大みそかとことし元日の2日連続で短距離弾道ミサイルを発射していて、これについて北朝鮮の国営メディアは発射したのは、いずれも「超大型ロケット砲」だったと伝えていました。

政府は緊急参集チームを招集

政府は、総理大臣官邸の危機管理センターに設置している官邸対策室に関係省庁の担当者をメンバーとする緊急参集チームを招集し、情報の収集などに当たっています。

岸田総理大臣は、情報の収集と分析に全力を挙げ、国民に対し、迅速・的確な情報提供を行うこと、航空機や船舶などの安全確認を徹底すること、不測の事態に備え万全の態勢をとることを指示しました。

自民 茂木幹事長「安保理含め厳しい対応を」

北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイルの発射を受けて、自民党は茂木幹事長や萩生田政務調査会長ら幹部が出席して合同会議を開きました。

この中で茂木幹事長は「北朝鮮は挑発の水準をエスカレートさせており、断じて容認できない。わが国は安保理の非常任理事国を務めており、政府には緊急会合の開催をはじめ、国際社会と連携した厳しい対応を求めていきたい。党としてもきぜんと対応していきたい」と述べました。

また、党の安全保障調査会長を務める小野寺元防衛大臣は、北朝鮮が再び太平洋に向けて弾道ミサイルを発射する可能性を示唆していることを踏まえ、政府に対し警戒監視に万全を期すよう要請しました。

一方、小野寺氏は20日朝に発射されたミサイルが2発だったにもかかわらず、海上保安庁から3回、情報が発表されたことについて「このような混乱があると政府の信頼に関わる。しっかりと精査をして、ないように対応してほしい」と苦言を呈しました。

北朝鮮 金総書記の妹が米韓共同訓練を非難する談話

北朝鮮のキム・ジョンウン総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)氏は、国営メディアを通じて、アメリカ軍のB1爆撃機などを投入し、19日行われた、米韓の空軍による共同訓練を非難する談話を20日朝、発表しました。

談話は、20日朝の弾道ミサイルの発射とほぼ同時に発表されていて、共同訓練について「最近、朝鮮半島地域でアメリカ軍の戦略的打撃手段の動きが活発になっていることを知っている」と指摘しています。

そのうえで「わが国の安全に及ぼす影響との関係を緻密に検討していて、直接もしくは間接的な憂慮があると判断した場合は相応の対応を取る」と米韓両国の訓練や演習に応じて対抗措置を講じる考えを強調しています。

そして、キム・ヨジョン氏は「太平洋をわれわれの射撃場として活用する頻度は、アメリカの行動いかんにかかっている」として、再び日本列島を越える形で、太平洋に向けて弾道ミサイルを発射する可能性も示唆して、アメリカをけん制しました。

一方、18日のICBM=大陸間弾道ミサイル級の発射をめぐり、韓国側から、技術的な課題があるとの指摘が出ているとし「他人の技術を疑ったり、心配したりするのではなく、自分たちを防御する対策をより深刻に悩むべきだ」と批判しています。

米韓は軍事演習で対抗 北朝鮮を強くけん制

北朝鮮が核・ミサイル開発に一段と拍車をかけているのに対し、アメリカと韓国は、抑止力の強化を図る姿勢を示して北朝鮮を強くけん制しています。

北朝鮮は、今月8日の軍事パレードで、ICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星17型」などのほか、片側9輪の移動式発射台に搭載された新型ミサイルを公開し、専門家からは、固体燃料式のICBMの開発を進めているとの見方が出ています。
また、今月17日には、米韓両国が過去最大の規模で軍事演習を実施しようとしていると非難する談話を発表し「前例のない強力な対応に直面する」として両国を強くけん制しました。

さらに19日、キム・ジョンウン総書記の妹、キム・ヨジョン氏が米韓両国を非難する談話を出し「敵のあらゆる行動を注視し、敵対的なものすべてに応じて極めて強力で圧倒的な対応を実施するだろう」と強調していました。
これに対し、米韓両国は19日、北朝鮮がICBM級のミサイル1発を発射したのに対抗する形で、北朝鮮が強く警戒するB1爆撃機を投入した空軍の共同訓練を行いました。

また、米韓両国は22日、北朝鮮の核の脅威を想定した図上演習を予定しているほか、来月中旬には定例の合同軍事演習を行うことにしていて、北朝鮮へのけん制を強めています。

日米韓の高官 3か国で緊密連携を確認

北朝鮮による弾道ミサイルの発射を受けて、外務省の船越アジア大洋州局長は、アメリカ国務省のソン・キム北朝鮮担当特別代表、韓国外務省のキム・ゴン(金健)朝鮮半島平和交渉本部長と電話で対応を協議しました。

協議では、18日のICBM=大陸間弾道ミサイル級に続き、20日も含め北朝鮮が前例のない頻度と方法でミサイルの発射を繰り返していることは地域の安全保障にとって差し迫った脅威であり、国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦だという認識を改めて共有しました。

そのうえで、国連安保理決議に沿った北朝鮮の完全な非核化に向けて、地域の抑止力強化や安保理での対応などについて、引き続き日米韓3か国で緊密に連携することを確認しました。

韓国では“核武装議論すべき”という声も

韓国では、北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させる中で、核武装について議論すべきだという声が出ています。

韓国は1991年に朝鮮半島の非核化に関する共同宣言に署名し、在韓アメリカ軍に配備されていた戦術核は撤去されました。

ただ一部の国会議員や専門家からは、核・ミサイル開発に拍車をかける北朝鮮に対じするためにも、独自に核を保有したり、アメリカ軍の戦術核を再配備したりすることを議論すべきだという声が出ています。

各種の世論調査では、核武装に肯定的な意見が7割程度と軒並み高い状況で、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領も先月、「戦術核の再配備や、わが国による核の保有もあり得る」と言及しました。

北朝鮮が18日と20日、相次いで弾道ミサイルを発射したことを受けて、韓国の与党「国民の力」のトップ、チョン・ジンソク(鄭鎮碩)非常対策委員長も20日、「北の無謀な挑発が続けば、韓国での核武装論も一層力を得ることになる」と強調しています。

一方で、専門家からは「核武装は国を左右するほどのリスクを抱える事案だ」として慎重な議論が必要だという主張が出ているほか、核戦力などの抑止力で同盟国を守る「拡大抑止」を提供するアメリカも、韓国の核武装論には慎重な立場です。

米インド太平洋軍「地域の不安定化をもたらす」

アメリカのインド太平洋軍は19日、声明を発表し「今回の発射はアメリカの国民や領土、それに同盟国に差し迫った脅威を与えるものではないと判断しているが、北朝鮮による違法な大量破壊兵器と弾道ミサイル開発が地域の不安定化をもたらすことを示すものだ」と非難しました。

そのうえで「アメリカによる日本や韓国の防衛への関与は揺るぎない」と強調しました。

北朝鮮 去年からことしにかけての動き

北朝鮮は去年、かつてない頻度で弾道ミサイルなどの発射を繰り返し、1年間で過去最多の37回、少なくとも73発に上りました。

このうち、去年9月から10月にかけては「戦術核運用部隊」の訓練だとして、中距離や短距離の弾道ミサイルなどを相次いで発射し、合わせて10回に上りました。

去年11月には、アメリカと韓国の空軍による大規模な共同訓練に対応するなどとして、ICBM=大陸間弾道ミサイル級を含む発射を繰り返し、この月の発射は6回に上りました。

去年12月にも、18日に準中距離とみられる弾道ミサイル2発、23日に、短距離弾道ミサイル2発、31日に短距離弾道ミサイル3発を日本海に向けて発射していました。

さらに、ことしに入ってからは、元日に短距離弾道ミサイル1発を発射したほか、18日にもICBM級の「火星15型」1発を発射していました。