移住して先生になりませんか?「教員不足」に教育委員会は…

「新学期に担任の先生がいない。教頭が代理担任をやることに」
「教科の先生が足りない。しばらく自習が続いている」
学校現場を取材する中で聞こえてきた、切実な「教員不足」の影響。
地域の学校の存続をかけて、各地の教育委員会では教員を確保するために「初任給アップ」「研修の充実」「他の自治体での採用活動」など必死の取り組みが行われています。
そもそもなぜ教員不足は起こるのか?
行われている対策は教員不足の解消につながるのか?
現場の模索を取材しました。
(社会番組部 ディレクター 藤田盛資/社会部 記者 能州さやか)
「教科の先生が足りない。しばらく自習が続いている」
学校現場を取材する中で聞こえてきた、切実な「教員不足」の影響。
地域の学校の存続をかけて、各地の教育委員会では教員を確保するために「初任給アップ」「研修の充実」「他の自治体での採用活動」など必死の取り組みが行われています。
そもそもなぜ教員不足は起こるのか?
行われている対策は教員不足の解消につながるのか?
現場の模索を取材しました。
(社会番組部 ディレクター 藤田盛資/社会部 記者 能州さやか)
移住して教員になろう!徳島県教委が都内イベント

「徳島県で教員になろう!」
東京・渋谷にあるホテルの一角で、徳島県教育委員会主催のイベントが2日間にわたって開かれました。
徳島県で2022年度に実施した教員採用試験の志願者数は、過去10年で最小の1175人。
10年前と比べ25%減少した志願者数や、教員不足に危機感を覚えた県教委は、新たな担い手を発掘すべく今回初めて都内でイベントを開催することにしました。
徳島出身者だけでなく、徳島にゆかりのないの人、さらには現時点で教員免許を持っていない人も含めて、幅広く参加を呼びかけました。
イベントの冒頭には、徳島の魅力を知ってもらいたいと、県教委の人事担当者自らが「阿波踊り」を披露。
東京・渋谷にあるホテルの一角で、徳島県教育委員会主催のイベントが2日間にわたって開かれました。
徳島県で2022年度に実施した教員採用試験の志願者数は、過去10年で最小の1175人。
10年前と比べ25%減少した志願者数や、教員不足に危機感を覚えた県教委は、新たな担い手を発掘すべく今回初めて都内でイベントを開催することにしました。
徳島出身者だけでなく、徳島にゆかりのないの人、さらには現時点で教員免許を持っていない人も含めて、幅広く参加を呼びかけました。
イベントの冒頭には、徳島の魅力を知ってもらいたいと、県教委の人事担当者自らが「阿波踊り」を披露。

徳島では体育の授業で阿波踊りを教えるため、教員は初任者研修で踊りを練習するという地域の特色を、体を張ってPRしていました。
2日間のイベントには、教育学部で学ぶ徳島出身の大学生、社会人で転職・移住を考えている夫婦、徳島にゆかりのない人も含め50人が参加していました。
2日間のイベントには、教育学部で学ぶ徳島出身の大学生、社会人で転職・移住を考えている夫婦、徳島にゆかりのない人も含め50人が参加していました。
徳島県出身で都内在住の女性
「今は英会話の講師をしているが、いつか地元で教員になりたいと思っていたから、良い機会だった。将来同僚になるかもしれない人たちと話ができて安心感が湧いたし、モチベーションも上がった」
「今は英会話の講師をしているが、いつか地元で教員になりたいと思っていたから、良い機会だった。将来同僚になるかもしれない人たちと話ができて安心感が湧いたし、モチベーションも上がった」
これまでも県内や隣県で大学生向けの採用イベントを実施してきましたが、厳しい現状に危機感を抱き、より積極的な施策を打とうと今回の企画に動いたと言います。

徳島県教育委員会 教職員課(小中学校人事担当)鎌田秀幸 統括管理主事
「人口減少がどんどん進む地方の小さな県で、教員のなり手をただ待っているだけでは厳しい。近隣の県から徳島の採用試験を受けてくださる人もいるんですが、他の自治体との“志望者の奪い合い”になってしまい、合格を出しても辞退者が多いという現実もありました。
首都圏であればそういった奪い合いの心配は少なく、優秀な人材を掘り起こせるのではと期待しています。希望者には、県の移住施策も案内しながらスムーズに徳島に迎え入れたいと思っています」
「人口減少がどんどん進む地方の小さな県で、教員のなり手をただ待っているだけでは厳しい。近隣の県から徳島の採用試験を受けてくださる人もいるんですが、他の自治体との“志望者の奪い合い”になってしまい、合格を出しても辞退者が多いという現実もありました。
首都圏であればそういった奪い合いの心配は少なく、優秀な人材を掘り起こせるのではと期待しています。希望者には、県の移住施策も案内しながらスムーズに徳島に迎え入れたいと思っています」
“将来は教員に” 現役の中高生に呼びかける地域も

静岡県では10年前から、中高生を対象に教職の魅力を伝えるセミナーを開催しています。
若手の教員をパネリストにディスカッションを行ったり、一日をどんな風に過ごしているか話したりして、教員の仕事に理解を深めてもらおうとしています。
教員になるには教員免許状を取得する必要がありますが、そのためには大学等で教職課程を履修しなければなりません。
大学進学を控えた世代に、進路を決めるに当たって教職を検討してもらいたいという取り組みには、これまで約2300人の生徒や保護者が参加してきました。
教員になるには教員免許状を取得する必要がありますが、そのためには大学等で教職課程を履修しなければなりません。
大学進学を控えた世代に、進路を決めるに当たって教職を検討してもらいたいという取り組みには、これまで約2300人の生徒や保護者が参加してきました。
少子化の時代、なぜ「教員不足」が起きる?

そもそもなぜ教員不足が起きているのか。
これにはいくつかの理由があります。
国や自治体の調査によると、近年、ベテラン教員が大量退職しています。
1970年代前半に生まれた第2次ベビーブーム(団塊ジュニア)世代の就学に合わせて大量採用された教員が、定年を迎えているためです。
その穴を埋めるように新規採用も増加し、学校現場は“若返り”が進んでいます。
これにはいくつかの理由があります。
国や自治体の調査によると、近年、ベテラン教員が大量退職しています。
1970年代前半に生まれた第2次ベビーブーム(団塊ジュニア)世代の就学に合わせて大量採用された教員が、定年を迎えているためです。
その穴を埋めるように新規採用も増加し、学校現場は“若返り”が進んでいます。

現在、そうした若い教員が産休・育休をとる時期にさしかかっていることや、病気で休職する教員が増えていること、特別支援学級のニーズが高まっていることも重なり、教員不足が起きていると文部科学省は説明しています。
学校現場のピンチヒッター「講師」が足りない
とはいえ、これまでも何らかの理由で休職する教員はいたはずなのに、今まで教員不足が問題にならなかったのはなぜか?
専門家などに取材すると、そこには「講師」と呼ばれる非正規教員の存在と、教育界独特の慣習があるといいます。
公立学校の教員になりたい人は、教員免許を取得した上で、各自治体が実施する「教員採用試験」を受験します。
受かれば、正規の教員として採用され教壇に立つことができます。
一方、試験に落ちた人は、各自治体の教育委員会から「講師」として登録するよう促されます。
学校現場で欠員が生じた場合に、期限付きで非正規の教員となる、いわば“ピンチヒッター”です。
教員採用試験の倍率が高かった時代は、試験に落ちる人が多く、結果として講師登録者も大勢いました。
ある日突然、教育委員会から「すぐに働いてほしい」と電話がかかってきても、教壇に立てるならと応じる人がそれなりにいたのです。
専門家などに取材すると、そこには「講師」と呼ばれる非正規教員の存在と、教育界独特の慣習があるといいます。
公立学校の教員になりたい人は、教員免許を取得した上で、各自治体が実施する「教員採用試験」を受験します。
受かれば、正規の教員として採用され教壇に立つことができます。
一方、試験に落ちた人は、各自治体の教育委員会から「講師」として登録するよう促されます。
学校現場で欠員が生じた場合に、期限付きで非正規の教員となる、いわば“ピンチヒッター”です。
教員採用試験の倍率が高かった時代は、試験に落ちる人が多く、結果として講師登録者も大勢いました。
ある日突然、教育委員会から「すぐに働いてほしい」と電話がかかってきても、教壇に立てるならと応じる人がそれなりにいたのです。

現在は採用試験の倍率が低下⇒不合格者が減少⇒講師登録者が減少している状況で、欠員が生じても対応が難しくなっています。
それが「教員不足」という形で、学校現場へのさらなる負担となり、子どもたちへの影響も心配されているのです。
それが「教員不足」という形で、学校現場へのさらなる負担となり、子どもたちへの影響も心配されているのです。
教員確保への模索「初任給アップ」「連休中の採用活動」
去年、全国で採用された公立の小中学校や高校などの教員の採用倍率は3.7倍で過去最低となりました。
「教員不足は2000人以上」という国の調査結果もあるなか、各教育委員会による教員の獲得競争は加速しています。
「教員不足は2000人以上」という国の調査結果もあるなか、各教育委員会による教員の獲得競争は加速しています。
【岡山市】初任者の給与アップ 毎月2500円×5年間支給
かねてから労働環境の改善に取り組んできた岡山市。
この春から初任者の教員に対して、採用後の5年間、給与に加え毎月2500円を支給することが決まりました。
また、講師に対しても45歳の年度末まで、毎月1000円が支給されます。
【島根県】大型連休や年末にU/Iターン者向けの特別試験
島根県では去年初めて、大型連休中にU/Iターンの社会人向けの「特別選考試験」を実施しました。
かねてから労働環境の改善に取り組んできた岡山市。
この春から初任者の教員に対して、採用後の5年間、給与に加え毎月2500円を支給することが決まりました。
また、講師に対しても45歳の年度末まで、毎月1000円が支給されます。
【島根県】大型連休や年末にU/Iターン者向けの特別試験
島根県では去年初めて、大型連休中にU/Iターンの社会人向けの「特別選考試験」を実施しました。

春の大型連休の試験は、受験者24人のうち17人が合格。
受験者からは「新卒で試験を受けた当時は倍率が高く、島根県で教員になりたくてもなれなかった」という声もあり、担当者は「非常に成果があった」と話していました。
合格者の平均年齢は40歳台。
こうした即戦力となる教員を確保しようと、引き続き特別選考試験を実施する予定です。
【神戸市】大学最後の春休みに「研修」
神戸市では、教員不足に対応するため、この春、前年と比べて約2倍の451人を採用。
倍率は7.1倍から3.6倍に下がりました。
大学を卒業したばかりの新規教員が増えることへの対応として、神戸市教育委員会は、就職前の2~3月に、希望者限定で座学や模擬授業などの研修を初めて実施することにしました。
この期間は時給で給与も支給。
対象者のうち9割が参加する盛況ぶりだといいます。
受験者からは「新卒で試験を受けた当時は倍率が高く、島根県で教員になりたくてもなれなかった」という声もあり、担当者は「非常に成果があった」と話していました。
合格者の平均年齢は40歳台。
こうした即戦力となる教員を確保しようと、引き続き特別選考試験を実施する予定です。
【神戸市】大学最後の春休みに「研修」
神戸市では、教員不足に対応するため、この春、前年と比べて約2倍の451人を採用。
倍率は7.1倍から3.6倍に下がりました。
大学を卒業したばかりの新規教員が増えることへの対応として、神戸市教育委員会は、就職前の2~3月に、希望者限定で座学や模擬授業などの研修を初めて実施することにしました。
この期間は時給で給与も支給。
対象者のうち9割が参加する盛況ぶりだといいます。
担当者
「これまでも“初任者研修”という研修制度はありましたが、学校での仕事が始まる前に受けたいというニーズも多く、少しでも新人の先生方の不安を和らげることができればと考えています」
「これまでも“初任者研修”という研修制度はありましたが、学校での仕事が始まる前に受けたいというニーズも多く、少しでも新人の先生方の不安を和らげることができればと考えています」
教員不足は解消できるのか?専門家に聞く

こうした対策は教員不足の解決につながるのか?教育研究家で、国の中央教育審議会委員なども務めた妹尾昌俊さんに聞きました。
妹尾さんは「様々な取り組みをして対応しようとしているのは興味深いが、いずれも効果のある施策か明言が難しく、まずは実態や原因を、教育委員会も国も正面から見つめるべきではないか」と指摘。
そのうえで、問題の背景のひとつである“志願者数の減少”について、教員を目指す人がその道を諦めるタイミングはいくつかあるとして、主に4つを挙げています。
妹尾さんは「様々な取り組みをして対応しようとしているのは興味深いが、いずれも効果のある施策か明言が難しく、まずは実態や原因を、教育委員会も国も正面から見つめるべきではないか」と指摘。
そのうえで、問題の背景のひとつである“志願者数の減少”について、教員を目指す人がその道を諦めるタイミングはいくつかあるとして、主に4つを挙げています。
1 教職課程に進むも、「難しい」「忙しすぎる」などで修了できない
2 教員免許をとっても、教員採用試験を受けない(民間等に就職する)
3 試験に不合格となり、講師登録には至らない
4 教員として働くが、労働環境や処遇の問題などで辞めてしまう
2 教員免許をとっても、教員採用試験を受けない(民間等に就職する)
3 試験に不合格となり、講師登録には至らない
4 教員として働くが、労働環境や処遇の問題などで辞めてしまう
教育研究家 妹尾昌俊さん
「一例として、教員免許は取得したものの教員にならなかった人の約30%が教育実習を経験して志望度が低くなったという調査結果があります(下図参照)。その原因は何なのかを調べ、対策を打っていくことが必要です」
「一例として、教員免許は取得したものの教員にならなかった人の約30%が教育実習を経験して志望度が低くなったという調査結果があります(下図参照)。その原因は何なのかを調べ、対策を打っていくことが必要です」

教員の産休などの期間を講師がカバーするシステムも、限界に来ていると妹尾さんは指摘しています。
妹尾さん
「以前は教職はとても人気があって、倍率が10倍以上という時期もあり、不安定な講師の立場でも教壇に立ちたい人は多くました。ただ、“試験は不合格だけど、教員として働いてほしい”と頼まれ、合格者と変わらない仕事をするという状況は、一般的にはなかなか理解しがたいことだと思います。
最も致命的なのは、講師として働く場合、研修を受ける機会が基本的にはないことです。正規採用された教員は“初任者研修”といって手厚い指導を受けられますが、講師の場合は、たとえ新人であっても、教育委員会から何のフォローもないまま現場に立たされるということが少なくありませんでした。講師を活用するならば、自治体の努力として彼らへの支援も必要だと考えます」
「以前は教職はとても人気があって、倍率が10倍以上という時期もあり、不安定な講師の立場でも教壇に立ちたい人は多くました。ただ、“試験は不合格だけど、教員として働いてほしい”と頼まれ、合格者と変わらない仕事をするという状況は、一般的にはなかなか理解しがたいことだと思います。
最も致命的なのは、講師として働く場合、研修を受ける機会が基本的にはないことです。正規採用された教員は“初任者研修”といって手厚い指導を受けられますが、講師の場合は、たとえ新人であっても、教育委員会から何のフォローもないまま現場に立たされるということが少なくありませんでした。講師を活用するならば、自治体の努力として彼らへの支援も必要だと考えます」
最も必要なのは“いま働いている先生たちの環境改善”

さまざまな要因が重なって顕在化してきた「教員不足」。
その対応策として最も大事だと妹尾さんが強調するのは、いま学校現場で働いている教員たちに目を向けることです。
文部科学省によると、昨年度、精神疾患で休職した公立学校の教員は5897人にのぼり、健康に働き続けられる環境を整えることが重要だと言います。
その対応策として最も大事だと妹尾さんが強調するのは、いま学校現場で働いている教員たちに目を向けることです。
文部科学省によると、昨年度、精神疾患で休職した公立学校の教員は5897人にのぼり、健康に働き続けられる環境を整えることが重要だと言います。
妹尾さん
「産休・育休の取得増加が教員不足の一因といわれますが、産休・育休の取得は当然の権利ですし、減らすことはできませんよね。定年退職する人を減らすこともできません。できることは教員志望者を増やすことと、今働いている教員の離職を防ぐことです。職場環境をよくすることは、病休の人を減らすことと、志望者にとって魅力的な職場に近づくことの、2つの意義があり、効果的です。
ただ現状は、そもそもどんな理由で病休・離職になっているのか、その原因追及もあまりできていません。それゆえ、適切な施策が打てない。教員不足に歯止めをかけるためにも、実態を把握することが肝要です」
「産休・育休の取得増加が教員不足の一因といわれますが、産休・育休の取得は当然の権利ですし、減らすことはできませんよね。定年退職する人を減らすこともできません。できることは教員志望者を増やすことと、今働いている教員の離職を防ぐことです。職場環境をよくすることは、病休の人を減らすことと、志望者にとって魅力的な職場に近づくことの、2つの意義があり、効果的です。
ただ現状は、そもそもどんな理由で病休・離職になっているのか、その原因追及もあまりできていません。それゆえ、適切な施策が打てない。教員不足に歯止めをかけるためにも、実態を把握することが肝要です」
取材後記
今回、各地の教育委員会から話を聞き、綱渡りの学校運営を何とかしたいと必死の模索が続いている様子が伝わってきました。
ただ、教員不足の背景は非常に複雑で、必要な対策も多岐にわたります。
取材に答えた教育関係者が共通して語っていたのは「先生への投資は、子どもたちへの投資、そして日本の未来への投資でもある」ということ。
その意識をもって、教員の処遇や労働環境の改善に取り組んでいく必要があると感じました。
ただ、教員不足の背景は非常に複雑で、必要な対策も多岐にわたります。
取材に答えた教育関係者が共通して語っていたのは「先生への投資は、子どもたちへの投資、そして日本の未来への投資でもある」ということ。
その意識をもって、教員の処遇や労働環境の改善に取り組んでいく必要があると感じました。
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社会番組部ディレクター
藤田盛資
2011年入局
金沢局と首都圏局を経て現職
「教員の働き方」や「校則改革」など学校現場を取材
藤田盛資
2011年入局
金沢局と首都圏局を経て現職
「教員の働き方」や「校則改革」など学校現場を取材

社会部記者
能州さやか
2011年に入局
秋田局と新潟局を経て2017年から社会部
現在は教育や子どもの取材を中心に行う
能州さやか
2011年に入局
秋田局と新潟局を経て2017年から社会部
現在は教育や子どもの取材を中心に行う
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