日本上空の偵察用気球「撃墜可能」に? 政府 ルール見直す方針

中国の偵察用気球への対応で、政府は正当防衛などに限られている自衛隊の武器使用のルールを見直す方針です。

無人の気球について国民の生命や財産を守るために必要と認められれば武器による撃墜を可能にする方向で調整に入りました。

防衛省「中国の無人偵察用気球と強く推定」

今月、アメリカなどで気球などの飛行物体が相次いで確認されていますが、日本でも過去に気球のような飛行物体が各地で目撃されていました。

これについて、防衛省は14日夜、「2019年11月と2020年6月、それに2021年9月のものを含め、過去に日本の領空内で確認されていた気球型の飛行物体について分析を重ねた結果、中国が飛行させた無人偵察用気球であると強く推定されると判断した」と発表しました。
防衛省によりますと気球型の飛行物体は、
▽2019年11月に鹿児島県薩摩川内市などで、
▽2020年6月に仙台市などで
▽2021年9月に青森県八戸市などで確認されているほか、
▽2022年1月には、九州西方の公海上で所属不明の気球を確認しているということです。

アメリカ軍が今月4日に撃墜した中国の気球について、アメリカ側から情報が寄せられ、総合的に分析した結果、今回の判断に至ったということです。

政府 対応“見直し”へ調整に入る

防衛省が14日、過去に日本上空で目撃された気球型の飛行物体を中国の偵察用気球だと強く推定されると発表したことをめぐり、自民党内からは、今後、外国からの偵察気球による領空侵犯があった場合は、撃墜すべきだという意見が出ています。

ただ、今のルールでは、自衛隊が撃墜のために武器を使うのは、領空侵犯した機体による攻撃から身を守るための正当防衛や緊急避難に該当する場合に限られているため、政府は、内容を見直す方針です。

具体的には、無人の気球については、ほかの航空機の安全な飛行を阻害する恐れがあるなど、国民の生命や財産を守るために必要と認められれば、正当防衛などの要件を満たさなくても、武器による撃墜を可能にする方向で調整に入りました。

政府関係者は、「これまでは主に有人の戦闘機などを想定し、撃墜すれば搭乗者の命に関わることも考慮して厳格な要件を設けていたが、無人の気球については、そうした要件は必要ないと判断できる」としていて、今後、与党と協議を進めることにしています。

小野寺 元防衛相「日本の国防に穴」

中国の偵察用気球への対応について自民党の安全保障調査会の会長を務める小野寺 元防衛大臣は自民党の会合で、「今まで中国のものということを把握できていなかったのであれば、大変大きな問題だ。仮に把握していたのに、今まで抗議していなかったということであれば、さらにもっと大きな問題だ」と指摘。

そのうえで、「わが国の防衛にとって、もしかして大きな穴があるのではないかと心配をもたらす事例だ。浜田防衛大臣は今後、必要な処置をとるとしており、アメリカと同じように撃墜を含めたきぜんとした対応をとると受け止めているが、今後の対処のことも政府側から話を聞きたい」と述べ、政府に説明を求めていく考えを示していました。

首相「領空侵犯は断じて受け入れられない」

岸田総理大臣は衆議院予算委員会で、「分析を継続してきたところ、中国の無人偵察用気球であると強く推定される。その上で外交ルートを通じて中国政府に対してこのような事態が生じないよう強く求め、領空侵犯は断じて受け入れられないと申し入れた」と述べました。

中国外務省「確かな証拠もないまま中国を中傷、攻撃」

これに対して中国外務省の汪文斌報道官は15日の記者会見で「日本が確かな証拠もないまま中国を中傷し、攻撃したことに断固反対する」と強く反発しました。

そのうえで「日本はアメリカの大げさな宣伝に追随せず、客観的で公正な立場を堅持し、不可抗力によって想定外の事態が起きたことを正しく取り扱うべきだ」と述べ、日本をけん制しました。

一方、汪報道官は中国の領空を違法に飛行したと主張しているアメリカの気球について、新疆ウイグル自治区やチベット自治区などの具体的な地名を挙げ「中国の領空を少なくとも10回余り違法に飛行している」と改めて反論しました。

そのうえで「アメリカの気球に対し中国は冷静に対処したのに、アメリカは中国の気球に過剰反応した。アメリカは中国と国際社会に釈明するとともに反省すべきだ」と重ねて批判しました。

米 エマニュエル駐日大使 気球めぐり中国を批判

一方、アメリカのエマニュエル大使は、都内で会見し防衛省が過去に日本の上空で目撃された気球型の飛行物体は中国の偵察用気球だと強く推定されると発表したことについて問われ、「気球だけに限ったことではなく、善隣外交の体裁をなしていない」と述べ、中国が各国に対して行っている威圧的な行為の一環だと批判しました。

そのうえで、「中国が国際社会の一員であるならば適切な前提にのっとるべきだ」と述べ、中国はこうした行動を控えるべきだと指摘しました。

なぜ仙台や鹿児島・青森に偵察用の気球が?

中国の偵察用の気球が飛行したと推定される鹿児島県薩摩川内市には原子力発電所があるほか、仙台市や青森県八戸市、それに隣接する三沢市には自衛隊の駐屯地やアメリカ軍の基地があります。

中国の安全保障の専門家「電波情報などの収集が目的か」

中国の安全保障に詳しい笹川平和財団の小原凡司上席研究員は「やはりアメリカ軍や自衛隊の運用に関する情報が取りたいのではないか。北の方だと、アメリカ軍三沢基地や航空自衛隊三沢基地、あるいは海上自衛隊八戸航空基地などの情報を取ろうとした可能性はある」と話しています。

そのうえで情報収集の内容については「どのような施設がどこにあるかは衛星でも詳細はつかんでいるはずだ。気球のように何時間も上空にいて、とりたい情報は何かというと、電波情報などが考えられる。例えば、航空機や艦艇が活動するときには無線で連絡をしたり、センサー機器が電波を発したりする。こうした電波や通信を捉えることによって、運用の状況を把握する情報が欲しいのではないか。平時からそうした運用を電波でとらえていれば、通常とは異なる運用が始まったときにはすぐに察知することができることにもつながる」と指摘しています。

また、こうした情報収集について「通常は他国の領空や領海、領土などは侵入しないで情報を取るというのが原則だ。無人の気球であるとはいえ、他国の領空に侵入して情報を取るということは、やはり主権の侵害に当たる」と話しています。

航空自衛隊 元空将「偵察目的だった可能性」

また、航空自衛隊で司令官を務めた元空将の武藤茂樹さんは「領空を飛行する場合は当該国への通知をしなければならないが、通知がないことを考えると、やはり偵察目的だった可能性が考えられる」と話しています。

さらに、中国の偵察用気球への対応をめぐり、防衛省が武器使用のルールを見直す方針を示したことについては「自衛隊機などで撃墜することを考えたときに、やはり地上への被害を考えなければならないので、場所や天候なども考慮しながら対応するとなると難しい面はある。また気球の速度が非常に遅いのに対して、戦闘機は時速1000キロぐらいで飛行しているので、高速で接近しながら撃墜するのは非常に難しい」と話しています。

そのうえで、武器を使用して気球を撃墜する場合について、「何を根拠とするのか明確にしなければならない」と述べ、法的な根拠や武器使用の要件を明確にする必要があるという認識を示しています。

アメリカで撃墜の気球 「米当局が打ち上げ直後から追跡」と報道

アメリカの有力紙、ワシントン・ポストは14日、アメリカ軍が今月4日に撃墜した中国の偵察用の気球について、中国南部から打ち上げられた直後からアメリカ当局が1週間ほどにわたって追跡していたと報じました。

ワシントン・ポストはアメリカ当局の関係者の話として中国人民解放軍はグアムやハワイにあるアメリカ軍の施設を監視する目的で気球を打ち上げたとしています。

しかし、気球は東に向かう飛行ルートの途中で強い風の影響で予想外に北に向きを変え、グアムから数千マイル離れたアリューシャン列島、カナダ、そしてアメリカ本土に入っていったということです。

そのうえで中国側はアメリカ本土の領空に侵入する意図はなかった可能性があると伝えています。