上野動物園「シャンシャン」返還まで1週間 ファンが別れ惜しむ

上野動物園のジャイアントパンダ「シャンシャン」が中国に返還されるまで1週間となりました。動物園には多くのファンが訪れ、最後の様子を動画や写真に収めるなどして別れを惜しんでいます。

上野動物園のメスのジャイアントパンダ「シャンシャン」は6年前、上野動物園では初めて自然交配で生まれ育ちました。

繁殖の適齢期の5歳となり、所有権を持つ中国と結んだ協定に基づいて今月21日に返還されます。

返還まで1週間となった14日、動物園には抽せんで選ばれたおよそ2600人が次々に訪れています。

シャンシャンを見られるのはおよそ2分間で、訪れた人たちは名前を呼びかけながら手を振ったり、時間ギリギリまで動画や写真を撮ったりして別れを惜しんでいました。

14日のシャンシャンは、施設の中を歩いたり、木組みの台にのぼったり、座り込んで長いささを折ってかじったりと愛らしい様子を見せながら過ごしていました。

都内に住む40代の女性は「元気に正面を向いてささを食べてくれていて、すごくかわいかったです」と話していました。

また、神奈川県の50代の女性は「最後にかわいいところを見られてよかったです。ありがとう。元気に過ごして頑張ってねと声をかけました」と話していました。

シャンシャンの上野動物園での観覧は、今月19日が最終日となります。

パンダ専門誌の編集者「中国に行ってもずっと幸せに」

「パンダ自身」という雑誌をご存じでしょうか。大手出版社が2年前から発行するパンダの専門誌です。最新号はシャンシャン返還日に合わせて「シャンシャン自身」として発売されることになり、シャンシャン愛あふれる編集者が作業に追われています。

「パンダ自身」は累計およそ18万7000部のパンダ専門誌で、内容の9割はパンダファンからの写真や情報を基に作られています。

今月21日のシャンシャンの返還日には特集号が発売される予定で、表紙にはシャンシャンが手を挙げ、目線を向けている写真が選ばれました。さらに、表紙の見出しも「シャンシャン自身」とすることになり、出版を間近に控えた編集部では原稿や写真の最終確認に追われています。

編集部によりますと誌面は128ページにわたってシャンシャンの写真およそ8000枚がちりばめられ、中国に帰る理由やお母さんの『シンシン』と過ごした記録も掲載されるなど、まるごと1冊シャンシャンになるということです。

創刊から編集部に所属する編集者は「ファンから集まった数百通のメッセージを読むと涙が出そうになります。シャンシャンがくれた楽しい思い出、うれしかった思い出を忘れずに、中国に行ってもずっと幸せに過ごせますようにと願いを込めました」と話していました。

この女性編集者は編集部に来るまでパンダのことを全く知らなかったものの、2年間のシャンシャンの取材が自身の仕事の幅を広げてくれたと言います。

今後のシャンシャンについて「お母さんになってたくさんの子どもがいるシャンシャンを取材したい。住むところも変わってしまって大変だと思いますが、パンダを世界に増やしていくための大きな役割を担っているので頑張ってほしいです」とエールを送っていました。

生まれた当時の飼育責任者「中国で次の命をつないで」

上野動物園で生まれ育ったシャンシャンが中国へ返還されることについて、生まれた当時の飼育責任者は「中国で次の命をつないでほしい」と今後に期待を寄せています。

6年前の2017年6月12日、シャンシャンは上野動物園で自然交配で生まれ育ちました。

当時の飼育責任者で現在、多摩動物公園で園長を務める渡部浩文さんは、生まれた際、産声は聞こえたものの、シャンシャンの姿をすぐに確認できず、現場は緊張感に包まれたと言います。

というのも、ジャイアントパンダの赤ちゃんは大人のおよそ1000分の1という小ささで生まれるため、親に潰されてしまうことがあるためです。

1985年に生まれた上野動物園で初めてとなる赤ちゃんは、生まれて2日後に死んでいるのが見つかり、動物園によりますと、親が赤ちゃんを下敷きにして死んだ可能性があるということです。
渡部さんはシャンシャンの姿が無事に確認された当時を振り返り「かわいいというよりは育てることが大事なので無事に育つようにしっかり飼育していかなければいけないと思った」と、生まれたことの安どよりも、今後の飼育への責任感のほうが強かったと話しました。

その後、渡部さんら飼育スタッフは3交代制で3か月間、シャンシャンと母親のシンシンのすべての行動を、1分ごとに絶え間なく観察し続けました。

母親がシャンシャンをどの位置に抱いているか、餌を食べているのか、それとも寝ているのかなど、観察するポイントは多岐にわたったということです。

渡部さんは「職員、スタッフ含めて、あの3か月の緊張感は相当なものでした。本当に、元気に育ってほしいという思いだけでした」と当時の思いを話していました。

一方、シンシンもシャンシャンを大事に育てていたと言います。

パンダの赤ちゃんは肌が弱いため、少しのけがが原因で感染症にかかって弱ってしまい、最悪の場合死んでしまうケースもあり、そうした肌を清潔に保つため母親が赤ちゃんをなめることがあるということです。

シャンシャンの当時の毛は白黒ではなくピンク色にもなっていて、これは母親のシンシンが念入りになめていた証拠だと言います。

こうして飼育スタッフや母親、それに多くのファンに愛されたシャンシャンが来週中国へ帰ることについて、渡部さんは「シャンシャンはしっかり育ちました。無事に中国に戻って環境に早く慣れて、パンダの保全のために、次の命をつないでいく役割を果たしてほしい」と今後に期待を寄せています。