【解説】ゼレンスキー大統領イギリス訪問 戦闘機の供与求める

ウクライナのゼレンスキー大統領が8日、去年2月にロシアの軍事侵攻が始まって以来初めてイギリスを訪問して「自由を守るための翼が必要だ」と訴え、さらなる軍事支援として戦闘機の供与を求めました。

ゼレンスキー大統領は、8日、事前の予告なしにイギリスを訪れ、ロンドンの首相官邸でスナク首相と会談しました。

そして議会内のウェストミンスターホールで、スナク首相や議員を前に演説し「すべてのウクライナ人は、勇気を持てば想像を絶する困難を乗り越え、最終的に勝利で報われるということを知っている。イギリスは私たちとともに、生涯で最も大きな勝利に向かっている」と強調しました。

その上で、下院議長にウクライナ空軍のヘルメットを贈り「自由を守るための翼、戦闘機が必要だ」と訴えました。

スナク首相は、ゼレンスキー大統領との共同記者会見で、戦闘機の供与について「あらゆることを検討している」と述べるにとどまりました。

一方、ウクライナ空軍などを対象にNATOの戦闘機を操縦できるように訓練を行うと表明したことについて、有力紙「ガーディアン」は、「スナク首相は戦闘機の供与に布石を打った」と伝えています。

また、RUSI=イギリス王立防衛安全保障研究所は「ウクライナ空軍の訓練は戦闘機の供与をただちに意味するものではない」と強調する一方で、「今後、供与に向けた議論を加速させることになるだろう」と指摘しています。

欧米はウクライナへの戦闘機供与に進むのか

各国の間では温度差も出てきています。

アメリカのバイデン大統領は先月30日、F16戦闘機の供与について記者団から問われ、「ノー」とひと言答えて否定しています。

また、ドイツも強く否定する立場です。

一方、フランスのマクロン大統領は「可能性を排除しない」と述べて「事態のエスカレートにつながらないこと」などを条件に、必ずしも否定しない立場を示しています。
また、そもそも仮にウクライナへの戦闘機の供与が決定したとしても、戦況に影響を及ぼすまでには時間がかかりすぎるという指摘もあります。
たとえば、供与の対象になる可能性があげられているひとつ、イギリス空軍の主力戦闘機「ユーロファイター・タイフーン」。

イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」によりますと、この戦闘機は、経験を積んだパイロットでもおよそ6か月間の訓練が必要で、配備なども考慮するとウクライナの戦場で実際に運用されるようになるのは早くて来年の初めになるということです。

ただ、欧米のウクライナへの兵器供与をめぐっては、事態をエスカレートさせないためとして当初は慎重だったものの、ロシアの攻撃が強まるにつれ段階を上げてきた経緯があります。

そして先月には長い間戦車の供与を拒んできたドイツが、アメリカと協調する形で戦車の供与を決めました。

ゼレンスキー大統領はイギリスに続いて8日、フランスに到着しました。

マクロン大統領とドイツのショルツ首相と会談します。

ロシアが今月中旬以降、新たな大規模攻撃を行うという見方が広がる中、ゼレンスキー大統領はここでも戦闘機の供与を含むいっそうの軍事支援を求めるものとみられます。