日本一の“のり”産地でいったい何が?

佐賀県沖の有明海。日本一の養殖のりの産地として知られていますが、今シーズン、異例の事態に陥っています。厳しい不作に見舞われ、生産量が前の年の半分に落ち込んでいるというのです。全国有数ののりの産地で、いったい何が起きているのでしょうか?(佐賀放送局記者 渡邉千恵)
“のり生産量半減”の衝撃
のりを見て「こんなことになるのか」と驚きました。

右側ののり。黒く色づかず黄緑色になってしまっています。さらに食感もゴワゴワして悪く、風味も損なわれています。
いわゆる「色落ち」と言われるもので、今シーズン、佐賀県の各地で被害が出ています。
いわゆる「色落ち」と言われるもので、今シーズン、佐賀県の各地で被害が出ています。

佐賀県沖の有明海は養殖のりの一大産地で、佐賀県は、生産量・販売額ともに19年連続で日本一です。
のりの養殖は、10月から12月、1月から3月ごろの2つのシーズンに分けて行われます。
佐賀県有明海漁協によりますと、前半のシーズンの生産量は2億7563万枚余り。
昨シーズンが5億5128万枚余りだったのに対し、なんと半分しか生産できていないというのです。
のりの養殖は、10月から12月、1月から3月ごろの2つのシーズンに分けて行われます。
佐賀県有明海漁協によりますと、前半のシーズンの生産量は2億7563万枚余り。
昨シーズンが5億5128万枚余りだったのに対し、なんと半分しか生産できていないというのです。
「考えられない事態」
日本一の養殖のりの産地・佐賀県沖の有明海。
いったいここで何が起きているのでしょうか?
いったいここで何が起きているのでしょうか?

1月中旬、のり養殖50年という佐賀市の中島良人さん(68)の船に乗り、取材させてもらいました。
有明海ののり養殖は、あらかじめ海に立てた支柱にのり網を張り、のりの胞子を成長させる方法で行われます。
有明海ののり養殖は、あらかじめ海に立てた支柱にのり網を張り、のりの胞子を成長させる方法で行われます。
有明海の最大6メートルにもなる干潮と満潮の差をいかし、のり網を海につけるだけでなく日光や風にさらすことで、黒く品質のよいのりをつくっています。
この日、後半シーズンの収穫期を迎え、海には黒々としたのり網が広がっているはずでした。
ところが…
この日、後半シーズンの収穫期を迎え、海には黒々としたのり網が広がっているはずでした。
ところが…

中島さんたちの漁場ののり網は、沖に進めば進むほど、育ったのりが茶色く色落ちする被害を受けていました。
今シーズンは色落ちのひどさに加え、のり自体の育ちも悪く、生産量は例年より約40%も減ってしまったといいます。
このところ船の燃料代などコストもあがっていて、中島さんも落胆が隠せない様子でした。
今シーズンは色落ちのひどさに加え、のり自体の育ちも悪く、生産量は例年より約40%も減ってしまったといいます。
このところ船の燃料代などコストもあがっていて、中島さんも落胆が隠せない様子でした。

漁業者 中島良人さん
「色落ちしたのりを見たときはショックで、ことしはもうダメかなと思った。例年ではちょっと考えられない事態だ。今まではシーズンを通して、こう“色が無い”ことは無かった」
「色落ちしたのりを見たときはショックで、ことしはもうダメかなと思った。例年ではちょっと考えられない事態だ。今まではシーズンを通して、こう“色が無い”ことは無かった」
不作はなぜ?
なぜ、のりは不作となっているのか?
要因は、「雨の少なさ」と「赤潮」による、海の中の「栄養不足」です。
要因は、「雨の少なさ」と「赤潮」による、海の中の「栄養不足」です。
のりは海中に溶け込んだ「リン」や「窒素」などの栄養を吸収して黒く成長します。
しかし、栄養が不足すると色が薄くなり、うまみや品質が損なわれてしまいます。
しかし、栄養が不足すると色が薄くなり、うまみや品質が損なわれてしまいます。

海の中の栄養はもともと山などにあり、雨が降ることで川から海に運ばれます。ところが、のりが育つ去年10月以降、雨はほとんど降りませんでした。
さきほどの漁場で「沖に進めば進むほど」被害が顕著だったのは、川に近い場所から離れるほど栄養が少なくなったためとみられます。
さきほどの漁場で「沖に進めば進むほど」被害が顕著だったのは、川に近い場所から離れるほど栄養が少なくなったためとみられます。
そのうえ、「赤潮」が多発。ただでさえ少ない海の栄養もプランクトンに奪われてしまい、のりの生育が進みませんでした。
さらに先月の寒波によって、強風でのり網が破れるなど、さらなる打撃を被る形となりました。
さらに先月の寒波によって、強風でのり網が破れるなど、さらなる打撃を被る形となりました。
平均価格2.5倍 異例の価格高騰
生産量の減少によって、のりの取り引き価格は異例の高値となっています。

1月20日に行われた、のりの入札会。
のりを品定めする人の中に、のり販売大手「白子のり」の原田勝裕社長の姿がありました。
のりを品定めする人の中に、のり販売大手「白子のり」の原田勝裕社長の姿がありました。

東京に本社がある業界トップの会社の社長が、佐賀県の入札会にみずから買い付けに来るのは異例のこと。
取り引き価格が上がっていることで、担当者だけでは買い付けの判断が難しいため、みずから会場に赴いているということです。
この日ののり1枚の平均価格は25円93銭。前の年の同じ時期より28%、値上がりしました。
仕入れるのりがこれほど高くなると、今後、自社の商品の値上げも避けられないと頭を悩ませていました。
取り引き価格が上がっていることで、担当者だけでは買い付けの判断が難しいため、みずから会場に赴いているということです。
この日ののり1枚の平均価格は25円93銭。前の年の同じ時期より28%、値上がりしました。
仕入れるのりがこれほど高くなると、今後、自社の商品の値上げも避けられないと頭を悩ませていました。

原田社長
「出品されたのりの取り合いが起きて、値段がすごく上がっている。とりあえず今は必要なのりを確保しようと動いている。どれぐらい価格が上がるのかを見極めて、ことしについては値上げはせざるをえないという状況だ」
「出品されたのりの取り合いが起きて、値段がすごく上がっている。とりあえず今は必要なのりを確保しようと動いている。どれぐらい価格が上がるのかを見極めて、ことしについては値上げはせざるをえないという状況だ」
さらに、今月3日の入札会では、のり1枚の平均価格が33円12銭と、前の年の同じ時期に比べて2.5倍の高値に跳ね上がりました。
漁協の担当者も「少なくともここ20年では記憶に無い」と話す、異例の事態です。
漁協の担当者も「少なくともここ20年では記憶に無い」と話す、異例の事態です。
すし店 今後を不安視
のりが欠かせない地元のすし店は影響を不安視しています。
佐賀県神埼市にあるすし店。看板メニューは、地元産ののりを使った「巻きずし」です。
佐賀県神埼市にあるすし店。看板メニューは、地元産ののりを使った「巻きずし」です。

店では巻きずしを平均して1日に約80本作っていて、使うのりは1か月で1000枚近く、約8万円分になります。
店長の佐藤大地さんは、のりを安定的に仕入れられるか、さまざまな食材の価格が上がる中でのりも値上がりするのか、懸念しています。
店長の佐藤大地さんは、のりを安定的に仕入れられるか、さまざまな食材の価格が上がる中でのりも値上がりするのか、懸念しています。

佐藤店長
「『のりが使えればいいな』というのが正直なところで、不安はたくさんあります。のり屋さんは『ことし夏ごろまでは今の金額で何とか頑張ります』という一方で、『今の在庫が無くなったら値上げは覚悟してください』『確実にのりが入るか分からない状況』ともおっしゃっていました」
「『のりが使えればいいな』というのが正直なところで、不安はたくさんあります。のり屋さんは『ことし夏ごろまでは今の金額で何とか頑張ります』という一方で、『今の在庫が無くなったら値上げは覚悟してください』『確実にのりが入るか分からない状況』ともおっしゃっていました」
自慢の特産品が…
今も厳しい状況が続くのり養殖ですが、漁業者や佐賀県は対策として、網を張る時期を栄養が改善するまで遅らせる、プランクトンを食べる「かき」を漁場に投入する、などの取り組みも行っています。

のり養殖のシーズンはまだ続きます。
中島さんをはじめ取材した漁業者の皆さんは「産地の責任として、少しでも品質のよいのりを1枚でも多く取ることを諦めない」と話していました。
パリッという歯切れのよさ、ふわっとした口溶け、抜群の香り。佐賀ののりは、地元の自慢の特産品です。
のりの状況が今後どうなるのか。取材を続けて、最新の情報をお伝えしていきます。
中島さんをはじめ取材した漁業者の皆さんは「産地の責任として、少しでも品質のよいのりを1枚でも多く取ることを諦めない」と話していました。
パリッという歯切れのよさ、ふわっとした口溶け、抜群の香り。佐賀ののりは、地元の自慢の特産品です。
のりの状況が今後どうなるのか。取材を続けて、最新の情報をお伝えしていきます。

佐賀放送局記者
渡邉千恵
2019年入局
県政・経済担当 早朝から深夜まで有明海と生きる漁業者を体当たり取材
好きなのりは「塩のり」
渡邉千恵
2019年入局
県政・経済担当 早朝から深夜まで有明海と生きる漁業者を体当たり取材
好きなのりは「塩のり」