日産 ルノーと“対等な”資本関係 合意までの経緯 背景は?

出資比率を対等な立場に見直すなど新たな提携に正式に合意した「日産自動車」と「ルノー」。どうして今、資本関係の見直しに至ったのでしょうか。両社の提携をめぐるこれまでの経緯を振り返ります。

日産とルノーが資本関係を結んだのは、20年余り前のことです。

当時、深刻な経営不振に陥っていた日産は1999年、ルノーから6000億円を超える出資を受け入れ、経営破たんの危機を免れます。

ルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン元会長のもと、主力工場の閉鎖や大規模な人員削減など徹底した合理化を進めました。

その後、ルノーが日産への出資比率を43%に引き上げると同時に、日産もルノーに15%出資して株式を持ち合うことで両社は関係をさらに強化。

日産は部品の共同調達などの効果で業績がV字回復しました。
日産・ルノーの連合には、2016年、新たなグループが加わりました。

燃費の不正問題で経営が悪化した三菱自動車工業に対し、日産が出資して傘下にする形で3社連合が誕生。

翌年の2017年の上半期には、グループ全体の販売台数がトヨタ自動車、それにドイツのフォルクスワーゲンを上回り世界トップになりました。

世界2位の存在感が低下

日産自動車とルノーの提携は“成功例”とも言われ、グループの年間の販売台数が世界2位となったこともありましたが、その存在感は低下しています。

長年、会社を率いたカルロス・ゴーン元会長のもと、日産は「拡大路線」を進めて販売台数を増やし、2017年には、ルノー、三菱自動車工業とあわせた3社連合の販売台数が1000万台を超え、世界2位の自動車グループに登り詰めました。

しかし、規模を追い求める過程で行ってきた値引きを軸にした販売戦略はブランド力の低下を招き、業績の低迷につながりました。

ゴーン元会長逮捕 連合関係に揺らぎ

さらに、日産とルノー、双方のトップを務め、連合を一手に取りしきっていたゴーン元会長が逮捕されると、連合の関係が大きく揺らぎ始めます。

2019年4月にルノーが日産に対して経営統合を求めたことが明らかになり、両社の対立が表面化。

さらにルノーは翌月、大手自動車メーカー、FCA=フィアット・クライスラー(当時)との経営統合を検討すると発表し、またも波紋が広がります。

日産だけでなく、ルノーの大株主であるフランス政府も慎重な姿勢を示したため、結局、交渉はまとまりませんでしたが、両社の関係を冷え込ませる形となりました。
その後、日産の内田誠社長と、ルノーのルカ・デメオCEOが就任してからは新しいトップのもとで両社の歩み寄りがみられ、関係強化に向けた検討が進められることになりました。

さらなるEVシフトへの対応など、自動車業界を取り巻く急速な環境の変化を受けて去年から資本関係の見直しを含む協議が本格化していました。

資本関係どう変わる?

今回の合意によって、20年にわたって続いてきたルノーに有利な出資比率が見直され、両社の資本関係は大きく変わることになります。
これまで両社がそれぞれ持ち合う株式の比率は、日産の15%に対してルノーが43%となっていて、資本関係ではルノーの支配力が強く、日産にとっては“いびつな関係”となっていました。

今回の合意では、両社が持ち合う株式を15%にそろえます。

ルノーの出資比率が43%から15%に引き下げられることでフランスの法律で制限されていた日産の株式に議決権が発生し、それぞれが15%の議決権を持つ対等な立場となります。

出資比率の見直しにあたっては、ルノーが持つ日産の株式28%をフランスの別会社に信託したうえで、ルノーは、株式を売却できるとする一方、特定の期間内に売却する義務は負わないとしています。

そのうえで、売却先については日産を筆頭の候補にするとしています。

一方、売却されるまでの間の配当金などの権利はルノーが保有します。

信託された株式をどのような形で売却するかは、現時点で決まっていないということですが、仮に日産が全株を買い戻す場合には、数千億円規模の資金が必要になるとみられ、その必要性について、株主などへ明確な説明が求められることになりそうです。

専門家「自動車産業の新たな革新に」

日産自動車とルノーの今回の一連の交渉について自動車業界に詳しい「住商アビーム自動車総合研究所」の大森真也社長に聞きました。

Q.ここにきて、ルノーに有利な資本関係が見直されることになった背景は?

A.2018年のカルロス・ゴーン元会長の事件以降、ルノーが日産に経営統合を打診するなどアライアンスの名目だった「対等」と「経営の自律性」に反する動きが相次ぎ一時は提携解消かという危機にまで至った。

一方、自動車業界で100年に一度の大変革が進み、他のメーカーがさまざまな改革案を打ち出すなかアライアンスの問題に時間を取られ、日産とルノーは立ち遅れていた。そういう周囲の環境が両社の提携関係の見直しを後押ししたのではないか。

Q.一連の交渉では、日産が強みを持つ技術特許の取り扱いを巡り協議が難航したが?

A.今回の交渉以前の問題として、自動車メーカーにとってEV用の電池や自動運転などの技術特許の取り扱いは大変重要な戦略だ。

車づくりの中心がソフトウエアに変わっていくなか、新たなパートナーを招き入れる必要があるものの、技術特許をパートナーに丸投げすれば主導権を握られてしまう。自動車メーカーにとって強みを持つ技術特許をどこまでクローズにしてどこまでオープンにするかというさじ加減は、今後も非常に大事になっていくと思う。

Q.交渉の結果、日産はEV事業やソフトウエア開発を進めるルノーの新会社に出資するが日産にとってのメリットは?

A.大きなチャンスだと思う。

車づくりの中心がソフトウエアに変わっていけば、車をつくって販売するという従来のビジネスモデルから、その車を通じてどれだけすばらしい移動体験、モビリティー体験を提供するかが大事になる。

ルノーの新会社は、ソニーグループとホンダが共同出資する「ソニー・ホンダモビリティ」のような新しい会社のかたちだ。新会社への出資で、日産としては現在の事業を強化しながら、EVの新会社において、イノベーションを展開する「二とを追う」戦略が可能になったと言える。

Q.日産は“悲願”ともしてきた対等な資本関係を手にするが、今後の日産のビジネスはどう変わっていくか?

A.資本関係が対等になることで日産を支えている役職員のモチベーションにつながり、そのことが日産自体の業績にも大きくプラスに影響していくことが期待される。

残された焦点はルノーが手放すことになる28%の日産株の取り扱いだ。

仮に日産がそのすべてを買い戻すことになれば数千億円の資金が必要だが、この28%の日産株を使って戦略上必要なほかのパートナーを新たに招き入れることも可能で、この28%をどう有効に使っていくかが注目される。

日産とルノーが今回の資本関係の見直しを通じてアライアンスを強化し、より巧みに他者を巻き込みながら業界革新のリーダーシップを握ることが求められる。

Q.日産とルノーの新しい提携関係が日本の自動車産業にとってどのような意味を持つか?

A.世界をリードしてきた日本の自動車産業は今、地盤沈下が指摘されている。

日本の自動車産業は日本の国にとっても大きな存在であって、出荷額は60兆円を超えているし、それはGDPの1割強になる。雇用の面でも日本国内で550万人の雇用を生んでいるという大変大事な産業だ。

このため、今回の日産ルノーの合意と新たなスタートが日本自動車産業における新たな革新に結び付くことに期待せざるをえない。新しいどのような絵を両社が描いていくか、どのような具体的な計画が示されるか、ということに注目が集まるものと考えている。