“排水から電気を作る”って?

“排水から電気を作る”って?
電気料金の値上がりが、企業にも家庭にも大きな影響を与えています。そんな中、工場から出る“排水”から“電気”を作る技術を開発した会社があります。愛媛にある小さなこの会社、今、海外にも大きなビジネスチャンスを見いだそうとしています。いったいどのような技術なのでしょうか?(松山放送局記者 奥野良 ジャカルタ支局カメラマン 門田真司)

従業員10人余りの企業が

その会社は松山市にある水処理メーカー『愛研化工機』です。創業は1982年。従業員10人余りの中小企業で、工場から出た排水を処理する装置の開発を行っています。
今注目されているのが「ネット・ゼロ・エネルギー型排水処理システム」という最新装置です。排水の処理には大量の電力が必要となりますが、この装置は汚れた水をきれいにするだけでなく、処理過程でエネルギーを生み出し発電するといいます。

捨てられていた排水から電気を作ることができるこの装置で会社は特許を取得し、ことし1月に発表された「ものづくり日本大賞」で優秀賞を受賞しました。
この装置で欠かせないのが「グラニュール」という微生物です。

大きさは1ミリから2ミリほどで、排水に含まれる有機化合物をメタンガスに転換する性質があります。

その仕組みです。
工場から出た排水と微生物を接触させることで排水に含まれる有機化合物がメタンガスに転換されます。メタンガスを装置の中で燃焼させることで、ボイラーとしての利用のほかガスタービンを回転させることで発電できます。

その電気は排水処理装置の動力として再利用するため、工場の電気の使用量を大幅に減らせるというわけです。
工場排水からエネルギーを回収する技術自体はオランダで開発されました。しかし、コストが高いとかエネルギーの回収効率が低いといった課題があり普及しませんでした。

それをこの会社は微生物の研究や装置の改良を続けて、およそ20年かけて製品化にこぎ着けたのです。
岩田社長
「実は愛媛県がある瀬戸内海地域は世界的に見ても水質に関する規制が厳しい地域なんです。長年培った技術は海外でも通用すると思っています。また、最近は電気代が値上がりしているので、装置を導入した後の省エネ効果に関心をもってもらえる企業が増えています」

電気代が約4割安く

装置が実際に使われている愛媛県西予市にある冷凍食品の工場を訪ねました。
業務用冷凍ささみフライは国内シェアが8割以上あり、食品を揚げるために大量の熱を必要としています。

製造を終えた機械は毎日洗浄され、肉の切れ端などが混ざった排水が出ますが、これをエネルギーとして再利用しています。
排水には多くの有機化合物が含まれているため、微生物によるエネルギーの回収効率は高いそうです。
排水は工場の外の装置で浄水されるほか、微生物によってメタンガスに転換されます。そして熱エネルギーとして油の加熱に利用しています。

工場によると、装置を導入したことで排水処理にかかる電気代はおよそ4割安くなったということです。
上田工場長
「製造で必要な蒸し工程や油の熱を上昇させるためのエネルギーとして再利用しています。これまで処理するためにコストがかかっていた排水からエネルギーが得られるのは驚きました。コストも削減され、大変助かっています」
排水から電気を生み出し、自らの動力もまかなう完全自立型の装置は5年前に販売を開始し、今は国内5か所の食品工場で導入されています。

食品だけでなく「今治タオル」で有名な愛媛県今治市のタオル工場でも導入される見込みです。

ねらうは海外市場

岩田社長は海外にも目を向けています。ターゲットとする国はインドネシアです。

ことし1月、インドネシア中部に位置するゴロンタロ州を訪問しました。
インドネシア中部に位置するゴロンタロ州の人口は約120万人。農業や水産業など1次産業が盛んでココナツやトウモロコシなどの畑が点在しています。

ところが町の中心部を歩くと、用水路には空き缶やペットボトルなどのゴミが捨てられていて、汚水から鼻につくような臭いがします。
インドネシアでは人口が増加し、経済成長が続く一方で、家庭から出る生活排水や工場排水は処理が不十分なまま流されているため、用水路だけでなく川や湖の水質汚染が課題となっています。

排水処理には大量の電気が必要です。ところがこの州では電力不足も課題となっているため対策が進んでいないのです。

インドネシアの工場も関心

岩田さんはココナツをミルクなどに加工している食品加工工場に向かいました。

排水は敷地内で処理してから川に流していますが、処理能力が低いため電気代がかさむことが経営の重荷になっています。
岩田さんがココナツ加工の排水から得られるエネルギーを試算したところ、現在、工場全体で使用している電力の約9倍の電力を発電できることが分かりました。
岩田さんが試算結果を伝え、日本では余った電力を販売している会社もあることを伝えると、会社の担当者も関心を示し、装置の導入に向けて協議を行うことになりました。
現地企業のCEO
「私たちには排水を処理する最新技術がありません。廃棄物だった排水がエネルギーとして再利用できることに驚きました。一緒に仕事をしたいのでぜひ、商談を進めたいです」
岩田さんは、この会社への導入を手がかりに、インドネシア市場を開拓したいと考えています。
岩田社長
「国内市場は縮小傾向にありますが、東南アジアは経済成長が続いています。その中でも環境面で課題を抱えているインドネシアはわれわれの技術がフィットしやすいと思いました。実際に現地の状況を見て、貢献できると確信しています」

「愛媛で鍛えた技術は世界で通用する」

きれいな瀬戸内海もかつては工場や家庭からの排水の影響で赤潮が頻発し「ひん死の海」とまで呼ばれた時代があります。

それを愛媛の企業は技術力を磨いて水質を改善させ、今では風光明美な海として海外の観光客にも人気のスポットとなっています。

「愛媛で鍛えた技術は世界で通用する」

岩田さんのことばが力強く聞こえました。
松山放送局記者
奥野良
2019年入局
警察・司法取材を経て現在、行政取材を担当
趣味はサッカー観戦で、国内だけでなくヨーロッパのスタジアムにも足を運ぶ
ジャカルタ支局カメラマン
門田真司
2006年入局
沖縄局や福島局などを経て現所属
これまで多くの洞窟、山岳、海外取材を経験