WEB特集

女子学生が足りない!? 大学入試に「女子枠」の動き

まもなく大学入試を迎えるという受験生のみなさん、あと一息がんばってください。
実はいま、一部の工学部で「女子枠」をもうけて、女子学生に入ってもらおうという動きが広がっています。

それって不公平では…と賛否両論なのですが、背景には日本のものづくりが抱える、待ったなしの危機感がありました。
(おはよう日本ディレクター 中村隆介)

「工学部には女子がいなくて…」悩む高校生たち

村松彩音さん
高校2年生の村松彩音さんは、いま工学部の建築学科を目指して受験勉強に励んでいます。

将来の夢は建築士。

幼いころからエンジニアとして働く父親の姿を見てきた村松さんは、自然とものづくりの魅力に惹かれてきました。
村松彩音さん
「最初はただの板だったのが、自分で切る作業も楽しいし、それが立体になってできるのがすごくおもしろい。いずれは工作じゃなくて、人の役に立てるものを楽しんでつくれたらいいなって感じです」
村松さんが作ってきた工作
ただ、村松さんには不安もあります。実は学校で工学部を目指す友人の多くが男子生徒なのです。

工学部を卒業したあとの就職先についても、”男性中心”というイメージを持っていました。
村松彩音さん
「大学生活が大丈夫かなって思うところは少しあります。男女比の部分がやっぱり大きいと思っていて、女子が少ないから、その女子と友達になれなかったらどうしようとか。人間関係で難しいなと思う人が多いんだと思います。工学部を卒業したあとも、力を使ってものを直接作る工場は男性が働いているイメージが大きいです」
実際、工学部の女子学生の比率は他の学部と比べてかなり低くなっています。

文部科学省によると、去年全国の大学の工学部に所属する学部生のうち、女子学生の比率はおよそ15.8%。文学部を含む「人文科学」や、経済学部・商学部を含む「社会科学」などに比べると半分以下です。
しかもこの15%ほどという数字は、20年以上変わっていないのです。

海外と比べてみても、2019年にOECD(経済協力開発機構)が行った調査によると、日本の大学で理系分野に進む女子学生の比率は主要先進国38か国の中で最下位というデータがでています。

求む!女子学生 「女子枠」を導入へ

こうした状況を変えようと、一部の大学が踏み出したのが「女子枠」の導入です。
東京工業大学の場合、2024年4月入学者向けの入試から、全体の募集定員は変えず、一部の選抜試験に女子枠を設置します。

来年は58人、2025年入試は143人の女子の募集枠を設けるというものです。

その割合は全体の約15%にあたります。
名古屋大学工学部で開かれたシンポジウム
「女子枠」導入の動きは各地で広がっていて、名古屋大学や島根大学、富山大学でも来年度から同様の取り組みが予定されています。

名古屋大学工学部では、女子高校生と保護者を対象にしたシンポジウムを開いて工学の魅力を伝えていました。
名古屋大学工学部 鈴木達也 副研究科長
名古屋大学工学部 鈴木達也 副研究科長
「やはり入試制度で女子枠を設けて、将来のキャリアプランもしっかり描けるということが伝えられた。ぜひそのことを受け止めていただいて、工学部を志望していただきたい」
国も「特に女子の割合が低い理工系の分野では、女性活躍のための取り組みを強化する必要がある」として、女子学生を積極的に確保しようとする大学には交付金や私学助成で支援することを予定しています。

女子枠については、「導入の意義と性差別にならないことの合理的な説明をした上で、社会の理解を得る必要がある」としています。

「賛成だが、受験は公平であってほしい…」受験生たちの賛否両論

工学部に入学枠をもうけて、女子学生をいわば“優先的に”入学させようという取り組み。当の受験生たちはどう考えているのでしょうか。

私たちは大手予備校の協力の下、男女2400人にアンケート調査を行いました。
結果は、女子枠に賛成が65%、反対が35%。

賛成の理由には、女子学生の増加でキャンパスでの生活に安心感が生まれることや、多様な意見が期待されることがあげられました。
女子枠 賛成の理由
「女子が工学部を受けやすくなるきっかけになると思った。こうした制度は変化の引き金となると思う」
「まとまった人数の女子がいれば入学後に孤立しにくくなり、女子の学生生活に安心感が生まれる」
「男性優勢だった世界に新たな価値観を発見できたり、問題を浮き彫りにできたりすることができるかもしれない」
一方で、制度の意義を理解しつつも、男子学生にとっては不公平だという意見や、男女という「分け方」への疑問も寄せられました。
女子枠への疑問の声
「女子の意見も大切だというのは確かに分かる。けれど受験は公平であってほしいなとも思う」
「女子枠を導入している大学の工学部に入学した女子に対して、偏見の目が向けられるかもしれない」
「男女関係なく実力で選ぶべき。LGBTQに向かう現代において、男女という枠組みに当てはめて考えているのには遅れを感じる」
実際に話を聞いてみると、女子生徒にとっても「反対ではないけれど賛成でもない」「女の子ばかりが優先されるようになったら本末転倒だ」など、単純に賛成とはいえない声が多く聞かれました。

「必要なのは“積極的な変化”」東工大学長の決意

東京工業大学
賛否両論がありながらも、あえて女子枠を導入するのはどうしてなのか。

東京工業大学の益一哉学長が強調したのは、大学が社会に貢献してこられなかったことへの大きな反省でした。
東京工業大学 益一哉学長
益学長
「大学としては研究成果を上げて、それを社会実装につなげて、新しい産業を作って社会に貢献するということが必要になる。よく平成の停滞した30年と言われますけれど、新しい産業が本当に日本で生まれたんだろうかと大きな反省をわれわれはしていました」
半導体や造船など、かつて日本の産業は世界的に大きなシェアを誇っていました。

しかしこの30年間で、外国製品の台頭などによりそのシェアは縮小。経済、社会全体が大きく停滞しました。

その間、大学は新たな産業を生み出すことに貢献できなかったのではないかと益学長は考えています。
再び社会に貢献するために何ができるのか。

女子枠の導入は、積極的な変化のための手段だといいます。
益学長
「どうイノベーションを生むのか。研究のやり方を抜本的に変えなければいけない。さらにそれに伴うわれわれ学生も含め教職員、研究者を含めて、今のままの構成員でやっていけるのだろうかということを考えました。現状は、正直に言ってあまりにジェンダーバランスが悪い。男ばかりの空間でイノベーションを生むことができるのか。思い切ったことをしないと閉塞感を打ち破ることができない。ポジティブアクション(積極的な変化)としての女子枠導入を決めました」
たとえ賛否があったとしても、大きな変化のためには、「女子枠」のような積極的な改革が必要だ。

益学長のことばからは、それだけ現状に対する強い危機感があるということが感じられました。

「女子枠」は1つの手段 社会全体で議論を

多くの大学を取材して強く感じたのは、どこの工学部も女子比率の低さに悩み、多様な人材を必要としているということでした。

「女子枠」の導入はそのためのかなり強い手段ですが、それだけ現状に切迫感があるのだと思います。
益学長の指摘するとおり、最終的な目標は単に女子学生を増やすことではなく、多様なアイディアや価値観をものづくりの現場に生かしていくことだと感じます。

工学部の中には、女子中高生に工学の魅力を伝えるため、大学と同じ授業を体験してもらう取り組みをしているところもありました。

女子枠の賛否だけではなくて、女子生徒が工学やものづくりに興味を持てるようにどうすればよいのか、社会全体で議論し、仕組み作りを考えていく必要があると思いました。
おはよう日本 ディレクター
中村 隆介
2022年入局しおはよう日本で勤務。
大学では商学部で経営学を学んでいました。

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