強制性交罪の構成要件など見直し 刑法改正の要綱案まとまる

性犯罪の実態に合わせた刑法改正の要綱案がまとまりました。
強制性交罪の構成要件として被害者が「同意しない意思」を表わすことが難しい場合を具体的に示したほか、性的な目的で子どもを手なずけ、心理的にコントロールする行為に対応する新たな罪が盛り込まれました。

現在の刑法では、強制性交などの罪は「暴行や脅迫」を用いることなどが構成要件になっていますが、被害者側は「暴行や脅迫」がなくても恐怖で体が硬直してしまうなどの実態があるとして、見直しを求めていました。

3日、国の法制審議会でまとまった法律改正の要綱案は、強制性交などの罪の構成要件として、
▽「暴行や脅迫」のほか、
▽「アルコールや薬物の摂取」、
▽「拒絶するいとまを与えない」
▽「恐怖・驚がくさせる」など、
8つの行為を初めて条文で具体的に列挙しました。

こうした行為によって被害者が「同意しない意思」を表すことが難しい状態にさせ、性交などをすることとしています。

また、最近の性犯罪の傾向を踏まえ、
▽性的な目的でSNSなどで子どもを手なずけて心理的にコントロールする行為に対応する罪や、
▽いわゆる盗撮を防ぐため、わいせつな画像を撮影したり、第三者に提供したりする行為などを取り締まるための「撮影罪」を新たに設けるとしています。

このほか、性行為への同意を判断できるとみなす年齢を、現在の13歳以上から16歳以上に引き上げます。
同年代どうしを除き、16歳未満との性行為は犯罪とするとしています。

一方、強制性交罪や強制わいせつ罪などの時効を5年延長させることも盛り込まれています。

法務省は、今の国会に関連する法律の改正案を提出する方針です。

性犯罪の被害者などで作る支援団体 “評価も さらなる見直しを”

法制審議会の部会がまとめた性犯罪に関する刑法改正の要綱案について、性犯罪の被害者などは一定の評価をしたうえで、さらなる見直しを求めています。

要綱案では、強制性交罪や強制わいせつ罪などの時効を今よりも5年延長するとしています。

これについて、性犯罪の被害者などで作る支援団体「Spring」は、「時効を撤廃するか、より長くするべきだ」と訴えています。

団体の代表理事で、自身も被害を受けた当事者の佐藤由紀子さんは、先月開いた記者会見で、「私自身も4歳のころから性被害にあっていたが、被害だと認識できたのは28歳のときだった。年齢を重ねて被害を認識しても、恥ずかしさや恐怖心から、すぐに訴えられるわけではない。時効は撤廃するか、最低でも15年は延長するべきだと思う」と話していました。

また、今回の案では、性行為への同意を判断できるとみなす年齢を、現在の「13歳以上」から「16歳以上」に引き上げる一方、同年代の恋愛を処罰するものではないとして、13歳から15歳の場合は、相手との間に5歳以上の年齢差がある場合にかぎって適用するとしています。

性犯罪の被害者支援に取り組む、上谷さくら弁護士は、16歳以上への引き上げは評価するとしたうえで、「本来、いちばん守られるべき子どもたちに『5歳差』という条件がつけられたことは、若年層を保護するという趣旨とは矛盾すると思う。このくらいの年頃では、1歳離れるだけでも差は大きいし、同年代であっても、『スクールカースト』と呼ばれる学校やクラス内での序列に起因した性的いじめもある。こうした現状を考慮する必要があるのではないか」と指摘します。

そのうえで、「今回の改正はかなり大幅な変更で、いずれ必ず不都合が生じると思うので、立法にあたっては見直しや検証する規定を設けてほしい」と話しています。

刑事弁護の立場からは懸念の声「えん罪を生むおそれ」

一方、刑事弁護の立場からは、「処罰される対象が事実上広がり、えん罪を生むおそれがある」と懸念する声もあります。

第二東京弁護士会に所属し、刑事弁護を数多く手がける趙誠峰弁護士は、強制性交罪や強制わいせつ罪の要件の見直しについて、「刑法では『何をしたら犯罪か』を明確にすることが一番重要だが、新たに設けられた8項目には、はっきりしているものと、あいまいなものが混ざっている」と指摘します。

例えば、8項目のうち「経済的・社会的関係の地位に基づく不利益を憂慮させること」という要件や、「同意しない意思を表すことが困難な状態」という表現には捉え方にかなり幅があるとして、「今回の改正は、処罰する対象を広げるのではなく、明確にすることが目的だとされているが、実際には、処罰範囲は相当広がると思う。要件があいまいだと、誤った刑罰が科されたり、国民の行動が萎縮したりする危険がある」と懸念を示しています。

また、時効の延長についても、「性犯罪は密室で行われることが多く、犯罪の立証について人の記憶に頼らざるをえない。時効を延ばすことで記憶が薄れるなどして、えん罪の危険が増すと思う」と指摘したうえで、「えん罪は、いつ、誰の身に降りかかってもおかしくない問題なので、どのような行為が犯罪とされるのか、国民自身が関心を持つとともに、国会で議論を尽くす必要がある」と話しています。

議論のポイント

「魂の殺人」とも言われる性犯罪。

被害者の声の高まりを受けて動きだした法改正の議論では、性被害の特徴や実態を十分考慮しつつ、えん罪を生まないよう罪となる要件をいかに明確にするかがポイントとなりました。

検討に関わった人からは「過去に匹敵するものが思いつかないほどの大改正」との声もあがっています。

最近の傾向踏まえた新たな罪

要綱案には最近の性犯罪の傾向を踏まえた新たな罪が盛り込まれました。

まず、性的な目的で子どもに近づき、手なずけて心理的にコントロールすることを取り締まるための罪が新設されます。

近年、SNSの普及などに伴って被害にあう子どもたちが増えていることから、こうした手口の犯罪を防ぐための議論が重ねられてきました。

この結果、16歳未満の子どもに対して、わいせつ目的でだましたり誘惑したり、お金を渡す約束などをして会うことを要求した場合や実際に会った場合、また、わいせつな画像を撮らせてSNSやメールなどで送るよう求めた場合も罪に問えるようになります。

ただし、被害者が13歳から15歳のケースでは、5歳以上の年齢差があることを適用の条件としています。

「撮影罪」の新設

いわゆる盗撮を防ぐため、わいせつな画像を撮影したり、第三者に提供したりする行為などを取り締まるための「撮影罪」も新たに盛り込まれました。

条文を見直すもの

被害の実態を踏まえ、現在の条文を見直すものもあります。

強制性交や準強制性交などの性犯罪について、今の法律では、加害者が「暴行や脅迫」して犯行に及んだことや、被害者が「心神喪失」の状態だったことが罪の成立に必要です。

しかし、明らかな暴行や脅迫がなくても被害を受けることがあるといった被害者の声などを受けて、要綱案では被害者の心身の状態や相手との関係性なども考慮し、具体的な8つの行為を示しました。

要件として示されたのは、
▽これまでの「暴行や脅迫」のほか、
▽「精神的、身体的な障害を生じさせること」、
▽「アルコールや薬物を摂取させること」、
▽「眠っているなど、意識がはっきりしていない状態であること」、
▽被害者が急に襲われる場合なども想定し「拒絶するいとまを与えないこと」、
▽被害者がショックで体が硬直し、いわゆるフリーズ状態になった場合なども想定し「恐怖・驚がくさせること」、
▽被害者が長年にわたって性的虐待を受けてきた場合などを想定し「虐待による心理的反応があること」、
さらに
▽例えば教師と生徒など「経済的・社会的関係の地位に基づく影響力で受ける不利益を憂慮していること」です。

こうした行為によって「被害者が同意しない意思を表すことが難しい状態」にさせた場合は罪に問えるとしています。

議論の途中段階では「拒絶困難な状態」にさせた場合に処罰するという案が示されましたが、「被害者側に拒絶する義務を課している」といった声を受け、表現が修正されました。

一方、被害者などは積極的な同意がなければ罪に問えるよう、さらなる見直しを求めていて、引き続き論点となることが予想されます。

性行為への同意 判断年齢の引き上げ

性行為への同意を判断できるとみなす年齢については、現在の「13歳以上」から「16歳以上」に引き上げます。

議論では、同年代の恋愛までも処罰されかねないという意見も出たことから、相手との間に5歳以上の年齢差がある場合に適用するとしています。

13歳未満に対して、わいせつな行為をした場合は今と同様に罪に問われることになります。

時効の見直し

時効の見直しも盛り込まれました。

被害にあってからすぐに訴え出るのが難しいという性被害の特徴を踏まえ、強制わいせつや強制性交などの罪について時効を5年延ばすとしています。

特に子どもは周囲に被害を打ち明けるのが難しいなどの事情を考慮して、18歳未満の場合は、被害にあった日から18歳になるまでの間は実質的に時効が進まないとする考え方も示されました。