2010年10月、白川総裁の時代に「臨時、異例」の措置としてスタートした日銀によるETFの購入。「いつのまにか恒常化する危険性がある」という当時の日銀執行部の不安は的中し、その後購入額は拡大の一途をたどってきました。
そして購入実績がほとんどなくなった今でも、大規模な金融緩和策の枠組みの1つとして位置づけられています。
日銀が保有するETFの残高は去年9月末の時点で帳簿上の価格が36兆9057億円。これを時価で見ると48兆208億円に上っています。
TOPIX=東証株価指数構成銘柄の時価総額の7%余りを占めているという試算もあります。(ニッセイ基礎研究所の井出真吾上席研究員の試算)
また、この時点で公的年金の積立金を運用しているGPIF=「年金積立金管理運用 独立行政法人」が保有する日本株の時価を上回りました。間接保有という形ですが、日本株の保有者としては世界最大です。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾上席研究員の試算では、日銀が購入したETFの構成銘柄のうち、日銀の実質的な保有比率が20%以上となっているのは2社、10%から20%未満が65社、5%から10%未満は401社だということです。

100年かかる?日銀 積み上がったETF 出口は【経済コラム】
日銀がそれまで“禁じ手”とされたETF=上場投資信託の買い入れに踏み切ってから12年余り。巨額の緩和マネーは長きにわたって株式市場を支え続けましたが、「市場をゆがめている」「官製相場に持続性はない」などという厳しい声もあがっています。そして巨額のETFを抱え込んだ日銀は実質的に「世界最大の日本株保有者」となっています。そこにはどのようなリスクがあるのか。そしてこの先に“出口”は見えてくるのでしょうか。(経済部記者 篠田彩)
積み上がったリスク資産
“もの言わぬ株主”との批判も
ETFという巨額のリスク資産を抱えることとなった日銀。そこにはどのような問題があるのでしょうか。
まず、投資先企業のガバナンスに与える影響です。
日銀は、ETF買い入れの実務を信託銀行に委託しています。ETFに組み入れられた企業の株主名義は信託銀行となり、日銀はその後ろに控える“実質的な株主”という立場です。ただ、株主総会での議決権行使は運用会社の指図に基づいて信託銀行が行っており、日銀自身は議決権行使には関与しておらず、その方針も示していません。
実は日銀には、受託者(信託銀行など)に向けた「議決権行使の指針」があります。ただしこれは、2002年から2004年、そして2009年から2010年にかけて、日銀が金融機関から買い入れた株式を対象とたものです。
これは、保有株の値下がりによって金融機関の経営が不安定になることを防ぎ、金融システムの安定をはかるための特例措置として実施されました。
一方でETFについては、このような「指針」はありません。黒田総裁は、スチュワードシップコードの受け入れを表明した運用会社などによって適切に議決権が行使されることになるので問題はないという認識ですが、日銀が「物言わぬ株主」とも言われ、このまま大量に保有し続けることが企業のガバナンス改革にとってマイナスだという批判もあります。
まず、投資先企業のガバナンスに与える影響です。
日銀は、ETF買い入れの実務を信託銀行に委託しています。ETFに組み入れられた企業の株主名義は信託銀行となり、日銀はその後ろに控える“実質的な株主”という立場です。ただ、株主総会での議決権行使は運用会社の指図に基づいて信託銀行が行っており、日銀自身は議決権行使には関与しておらず、その方針も示していません。
実は日銀には、受託者(信託銀行など)に向けた「議決権行使の指針」があります。ただしこれは、2002年から2004年、そして2009年から2010年にかけて、日銀が金融機関から買い入れた株式を対象とたものです。
これは、保有株の値下がりによって金融機関の経営が不安定になることを防ぎ、金融システムの安定をはかるための特例措置として実施されました。
一方でETFについては、このような「指針」はありません。黒田総裁は、スチュワードシップコードの受け入れを表明した運用会社などによって適切に議決権が行使されることになるので問題はないという認識ですが、日銀が「物言わぬ株主」とも言われ、このまま大量に保有し続けることが企業のガバナンス改革にとってマイナスだという批判もあります。
ついて回る“含み損”の懸念
そしてもう1つ、日銀の財務への影響です。
日銀が保有を続けている間に株価が急落し、年度末の時点で含み損が出るような事態になると、日銀は引当金を積むことを迫られます。その場合、国庫に納付する金額が減り、国民負担につながることにもなりかねません。
それでは、日銀が抱えるETFが含み損となるのはどのくらいの水準なのか。
黒田総裁は2020年3月10日、参議院の財政金融委員会で、損益分岐点を機械的に計算すると日経平均株価で1万9500円程度だと答弁。また2021年1月27日には、参議院予算委員会で、その水準が2万1000円程度だと答えています。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾上席研究員は、先月末時点の損益分岐点を1万9640円と試算しています。2月3日時点の日経平均株価は2万7000円台なので、現在は大幅な含み益の状態だとみられます。
日銀が保有を続けている間に株価が急落し、年度末の時点で含み損が出るような事態になると、日銀は引当金を積むことを迫られます。その場合、国庫に納付する金額が減り、国民負担につながることにもなりかねません。
それでは、日銀が抱えるETFが含み損となるのはどのくらいの水準なのか。
黒田総裁は2020年3月10日、参議院の財政金融委員会で、損益分岐点を機械的に計算すると日経平均株価で1万9500円程度だと答弁。また2021年1月27日には、参議院予算委員会で、その水準が2万1000円程度だと答えています。
ニッセイ基礎研究所の井出真吾上席研究員は、先月末時点の損益分岐点を1万9640円と試算しています。2月3日時点の日経平均株価は2万7000円台なので、現在は大幅な含み益の状態だとみられます。

井出さんによると、一時的に含み損の状態となったこともあるといいます。
決算期末ではありませんが、新型コロナの感染拡大で世界の金融市場が激しく動揺した2020年3月16日には含み損の額が3兆5000億円を超えたと試算しています。
決算期末ではありませんが、新型コロナの感染拡大で世界の金融市場が激しく動揺した2020年3月16日には含み損の額が3兆5000億円を超えたと試算しています。
日銀の出口戦略は?
国債と違って、ETFには償還期限がありません。このままの状態で日銀が保有し続けるとリスクが顕在化するおそれもあり、どこかのタイミングで売却などの処理が必要になります。
ただ、ひとたび日銀が売却へと動けば、株式市場に影響を及ぼすおそれもあります。
実は日銀は、これまで購入したETFを売ったことが一度もありません。ETFの売却、つまり出口に向けた日銀の考え方はどのようなものか。
黒田総裁は、2019年6月20日の会見で次のように述べています。
ただ、ひとたび日銀が売却へと動けば、株式市場に影響を及ぼすおそれもあります。
実は日銀は、これまで購入したETFを売ったことが一度もありません。ETFの売却、つまり出口に向けた日銀の考え方はどのようなものか。
黒田総裁は、2019年6月20日の会見で次のように述べています。

黒田総裁
「ETFの買い入れは、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の一環として行っているので当然2%の『物価安定目標』は達成される・実現されるという状況になったときに、全体として出口の議論が行われるということになる」
つまりETFの政策を切り出して出口の議論をするのではなく、あくまでも今の金融政策全体の出口戦略の中で考えていくということです。
黒田総裁は最近の記者会見でも、ETFの買い入れについて、縮小したり、出口政策に向かったりすることはないという姿勢を示しています。
「ETFの買い入れは、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の一環として行っているので当然2%の『物価安定目標』は達成される・実現されるという状況になったときに、全体として出口の議論が行われるということになる」
つまりETFの政策を切り出して出口の議論をするのではなく、あくまでも今の金融政策全体の出口戦略の中で考えていくということです。
黒田総裁は最近の記者会見でも、ETFの買い入れについて、縮小したり、出口政策に向かったりすることはないという姿勢を示しています。
売却の場合、100年かかるとの見方も
巨額のETFを抱える日銀は今後どのように対応すべきなのか。専門家に聞くと…

野村総合研究所 木内登英エグゼクティブ・エコノミスト
「巨額のETF保有は大きなリスクを抱え続けることを意味し、ある意味「爆弾」を抱えているようなもの。保有し続けるという選択肢はない。株式市場への影響を抑えるため、仮に年間3000億ほどに絞って売却した場合、100年以上かかるため、これも現実的ではない。バランスシートから切り離す『オフバランス』の道を探るのではないか。いずれにしても、険しい道のりだ」
「巨額のETF保有は大きなリスクを抱え続けることを意味し、ある意味「爆弾」を抱えているようなもの。保有し続けるという選択肢はない。株式市場への影響を抑えるため、仮に年間3000億ほどに絞って売却した場合、100年以上かかるため、これも現実的ではない。バランスシートから切り離す『オフバランス』の道を探るのではないか。いずれにしても、険しい道のりだ」

ニッセイ基礎研究所 井出真吾上席研究員
「株価暴落のネガティブショックを避けるため、買い入れ枠を残さざるをえない状況なのではないか。仮に少しずつ売却したとしても、年1兆円の売却で50年、年5000億円売却で100年かかる。長期保有を条件に、ディカウントをして国民に売却するといったアイデアもあるが、コストや手間がかかり、簡単ではないだろう」
「株価暴落のネガティブショックを避けるため、買い入れ枠を残さざるをえない状況なのではないか。仮に少しずつ売却したとしても、年1兆円の売却で50年、年5000億円売却で100年かかる。長期保有を条件に、ディカウントをして国民に売却するといったアイデアもあるが、コストや手間がかかり、簡単ではないだろう」
将来の選択肢とリスク やはり議論が必要では
時価で48兆円にのぼる日銀保有のETF。国民1人当たりで計算するとおよそ40万円とその大きさに圧倒されます。この12年余りで積み上がったETFを売却する場合、「100年かかる」という専門家2人の指摘にも驚きました。
一方で専門家が指摘するように、ETFを国民の資産として活用すべきだという声もあがっています。
この先どのような選択肢があり、そこにはどんなリスクが潜んでいるのか。
将来に向けて幅広い議論を進めていくことが必要だと思います。
一方で専門家が指摘するように、ETFを国民の資産として活用すべきだという声もあがっています。
この先どのような選択肢があり、そこにはどんなリスクが潜んでいるのか。
将来に向けて幅広い議論を進めていくことが必要だと思います。
注目予定

2月8日には、日本の国際収支統計(12月・2022年)が発表されます。巨額の貿易赤字が続くなか、経常黒字の大幅な減少も見込まれ、注目が集まります。
7日にはソフトバンクグループ、9日にはトヨタ自動車、日産自動車など主要企業の決算が発表され、企業業績の動向からも目が離せません。
7日にはソフトバンクグループ、9日にはトヨタ自動車、日産自動車など主要企業の決算が発表され、企業業績の動向からも目が離せません。