魚じゃないのにサカナ?? いま広がる新食材

魚じゃないのにサカナ?? いま広がる新食材
“魚みたいだけど魚じゃない”
大豆など植物由来の原材料を使い、食感や風味を魚介類に近づけた「代替シーフード」。いま、続々と登場しています。そのワケを探りました。(経済部記者 吉田敬市)

日本の大手メーカーも“本気”になって開発

いまやおなじみの「代替肉」とはちがって日本ではまだ聞き慣れない「代替シーフード」。

取材を始めたきっかけは1月中旬、大手食品メーカーが開いた新商品の発表会でした。
発表されたのは“フィッシュフライ”と“ポップコーンシュリンプ”。

主な原材料は大豆やこんにゃくなど。

詳しい製法は特許申請中で秘密だそうですが、魚介類は一切使わず、魚の風味は海藻のエキスなどを使って再現していると担当者から説明を受けました。
見た目に気になるところはありません。

試食をしてみると…。
“フィッシュフライ”の食感はまるで白身魚です。

噛む度に魚の風味が口の中に広がりました。

“ポップコーンシュリンプ”のほうは、適度な弾力やエビのようなぷりっとした食感がありました。
開発した大手食品メーカーの「日本ハム」は、これまでも大豆ミートを使ったハムやソーセージなどを開発してきました。

なぜ肉の次に魚に着目したのか?担当者は次のように話していました。
日本ハム 長田昌之マーケティング推進部長
「漁業資源の枯渇が地球的な課題だと言われています。漁獲量の減少、さらに乱獲などによって、魚介類の値段も高騰しています。こうした問題に代替肉でつちかった技術を生かせないかと思い、今回、開発したんです」

将来、魚が食べられなくなる?高まる懸念

実際にこうした懸念は専門家の間でも強く指摘されるようになっています。

こちらは、FAO=国連食糧農業機関がまとめた調査。
世界全体で食べられる年間1人あたりの魚介類の量は、1961年から2019年までの50年あまりで、およそ2倍に増えています。

特に顕著なのが新興国での消費の増加です。
例えば、中国は50年ほど前のおよそ8倍に。

インドネシアや韓国ではおよそ4倍に。

先進国のアメリカやヨーロッパなどでもおよそ1.6倍になっています。

背景にあるのは人口の増加や新興国などでの経済発展。

魚の消費量は年々増え、このままでは水産資源が枯渇するのではないかと心配されています。

こうしたことを背景に、食品業界に詳しい研究者は代替シーフードはさらに広がりを見せると予測しています。
矢野経済研究所 廣瀬愛研究員
「国連によると世界の人口は2022年に80億人に達したと見込まれていて、2050年にはさらに97億人にまで増加すると試算されています。当然ながら食料需要も拡大し、このままでは十分にまかないきれなくなるのではないかという懸念が強まっているんです」
「特に魚介類は、近年の急激な気候変動で海水温が上昇し、漁獲量にも影響が出るのではないかとも指摘されています。将来的な食料危機に備えるという意味で代替シーフードに注目が集まり、すでに日本でも刺身や缶詰などさまざまなタイプの商品が登場しています」

家庭の食卓にあたりまえに代替シーフードが並ぶ?

とはいえ、スーパーの棚に並んでいる姿は見たことがないし、食材として扱う飲食店もまだ少ないのが正直なところです。

そうしたなか、積極的に展開している店舗がありました。

店側の意図は?買い求める消費者はどんな気持ちなのか?取材に向かいました。
「伊勢丹新宿店」では、去年秋、地下1階の特設売り場で代替シーフードの関連商品を販売しました。

ことし1月末からは常設の総菜売り場の出展者に協力してもらい、新たな商品づくりに挑戦。

2月14日までの期間限定で販売を始めました。
このうちタイ料理店の総菜売り場では、こんにゃく粉などを原料にした代替シーフードを新鮮な野菜と一緒にライスペーパーで包んで、生春巻きとして販売していました。

まぐろやサーモンを再現し、見た目は本物にそっくりで、ピリリと辛いスイートチリソースをかけて味わうと本物にも劣らない味です。
寿司店が出店した総菜売り場では、100%植物性の代替ツナを使った巻きずしを販売していました。

見た目はもちろん、魚の身がほぐれるような食感も再現していて、本物以上にさっぱりとした味わいに。

また本物の魚を使ったほかの巻きずしより価格は数十円ほど安くなっていました。
ほかにも、これから旬を迎えるたけのこと代替ツナを甘塩っぱく煮た土佐煮なども。

こちらも油っぽさがなく、魚のだしの風味もしっかり感じられ、売れ行きは好調だということです。
80代 女性客
「いろいろな総菜屋さんを見て回っているんですが、初めて見ました。あれ?これ何だろう?と思って、ちょっと買ってみたんです。おいしければまた買おうと思います。健康にも良さそうですし」

60代 女性客
「エビにアレルギーをもつ人とかもいるので、もし同じ風味の代替シーフードがあったら食べられるのかな?って思いました。わたし自身もサーモンが苦手なんですが、これだったら食べられるかもしれません」
売り場の男性店員
「本物に比べて薄味ではあるんですが、独自のタレを使用してみたり、味付けを変えてみたりして、工夫をしています。最近ではリピーターのお客さんが増えてきて、何も説明しなくても『これください』と言われることが多くなってきました。最初は『すぐに終わっちゃうのかな』なんて思っていたんですが、今の状況には驚いています。こういうところにお客さんの需要はあるんだなあって改めて感じました」
デパートによると、「高たんぱく」「低脂質」といった面で、実は健康を気にする30代前後の男性にも人気があるとのことでした。
伊勢丹新宿店 久保田浩之バイヤー
「代替シーフードへの関心は非常に高いのですが、どう使ったらいいのか分からない、どう調理したらいいのか分からないという声もあり、最初の一歩をなかなか踏み出せないというお店が多くあります。そこで、それぞれのお店のノウハウを蓄積し、新しい方法も一緒に考えながら商品開発を進めていきたいと思って、協力を呼びかけているところです」
「それに、こういう新しい取り組みを始めると、ふだん百貨店に立ち寄らない若い世代も情報を知り、買い物にきてくれるんです。接点が広がれば、その後SNSなどから意見や指摘をいただき、商品開発をさらに進めていくことができます。わたしたち百貨店としても、お客様が『買ってみたい』と思える商品を取り揃えることが使命ですので、こうした取り組みを重ねてさらに良い商品を提案していきたい」

今後の広がりに期待

食感や風味にはまだ課題も多いと言われる代替シーフード。

取材を進めると、開発や販売が広がる背景には、水産資源の保護など社会的な課題があることがわかりました。

いまや食の世界も、おいしさや安定供給を追求するだけでなく、社会問題や環境問題、人権問題などと深く関わる時代です。

代替シーフードを広げようと動き出す企業や人々の前向きな力を強く感じました。
経済部記者
吉田 敬市
2011年入局
社会部などを経て去年8月から経済部
流通やサービスの分野を中心に取材
好きな魚介類は「サンマ」