宮台さん「釈然としない」襲撃事件容疑者とみられる男死亡で

東京 八王子の東京都立大学で、教授で社会学者の宮台真司さん(63)が刃物で襲われ重傷を負った事件で、容疑者とみられる41歳の男が事件から2週間余りあとに死亡していたことが警視庁への取材で分かりました。自宅からは、事件前後に防犯カメラに写っていた自転車などが見つかったということで、警視庁が詳しく調べています。

これを受けて宮台さんは1日、インターネット放送局の番組の中で心境を語り「気持ちのふんぎりがつきにくい。動機が分からないので釈然としない気持ちで、問題を解決できたという気持ちにならないまま先に進むのが残念だ」などと述べました。

去年11月29日、東京 八王子の東京都立大学・南大沢キャンパスで、この大学の教授で社会学者の宮台真司さん(63)が男に刃物で切りつけられ、全治6週間の重傷を負いました。

警視庁は殺人未遂の疑いで捜査し、現場周辺の防犯カメラに写った男の映像を公開するなどして情報提供を呼びかけていました。

警視庁によりますと、その後の捜査で、現場からおよそ9キロ離れた相模原市南区の住宅で、男が死亡していたことが分かったということです。

男は無職の41歳で、事件から2週間余りたった去年12月16日に死亡し、自殺とみられるということです。

警視庁が、防犯カメラに写っていた男の自転車を捜査したところ、購入した人物が1月30日に判明し、自宅などを調べた結果、男の死亡が確認されたほか、自転車などが見つかったということです。

また、事件後初めて防犯カメラの映像が公開された去年12月12日ごろから男が「食事をとらなくなるなど様子が変わった」と家族が話しているということです。

警視庁は男が事件に関わった可能性が高いとして、1日に自宅を捜索しました。

室内からは長さが30センチほどのおのが見つかりましたが、一見して血痕のようなものは確認できないということです。

また、遺書も見つかり、事件についての記述はないものの「家族や知り合いの方にご迷惑をおかけしました」などと記されていたということです。

男は事件前後、相模原市や東京 町田市、八王子市などで自転車に乗ったり歩いたりする姿が確認されていて、警視庁が詳しいいきさつを調べています。

容疑者は高校2年生で退学

容疑者とみられる男は昭和56年生まれで、地元の中学校を卒業したあと平成9年に相模原市南区にある私立高校に入学しました。

高校によりますと2年生が終わる平成11年3月末に退学したということです。

記録が残っていないため在学当時の部活動や退学の詳しい理由は分からないということです。

宮台さん「容疑者が亡くなったことは かなり残念」

宮台真司さんは1日夜、都内で開かれた映画の上映イベントに出演したあと報道陣の取材に応じました。

この中で、宮台さんは「朝9時に警察から容疑者の遺体の写真を見せられた。目や眉毛、体型など間違いないと思った。心当たりや接点はない」と話しました。

その上で「今回の襲撃が個人を標的としたものなのか、無差別なのか、大きな議論があるが、それによって問題、事件の筋読みが違ってくる。そういう意味でも容疑者が亡くなったことはかなり残念だ。日本社会にどういう動機を持つ人物がいるのか、どういう人たちが何をどう受け取るのかを分析するのに役立つはずだった。今後、どれだけ動機がわかるのか興味を持っている」と話していました。

宮台さん「動機分からず釈然としない気持ち」

宮台真司さんは、容疑者とみられる男が死亡したことについて、1日、インターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」の自身が司会を務める番組の中で、ともに出演しているジャーナリストの神保哲生氏のインタビューに応じる形で心境を語りました。

この中で、宮台さんは「午前9時ごろに警視庁から容疑者が死亡したと連絡を受けました。家族やまわりの人に危害を加えられる可能性がなくなり、ほっとしている」と話しました。

一方で「気持ちのふんぎりがつきにくい。動機が分からないので釈然としない気持ちで、問題を解決できたという気持ちにならないまま先に進むのが残念だ。もし動機が分かれば表現者がどういうことに気をつけなければならないか教訓を得られたり、世の中にどういう動機を持つ人が分布しうるか新しい情報を得られるが、両方とも不確かになってしまうことはすごく残念だと思ってる」と話しました。

また、事件による自身の活動への影響については「まわりに力をもらい、診断書の退院予定の半分の時間で退院できたことで穴をあけずに番組に出られたことはよかった。表現に関わる襲撃の影響は最小化に近い状況にできたのではないかと思う」と話しました。

そのうえで「今後、動機の情報も不完全ながら出てくると思う。いろいろな人がいろいろな状況で生きている中でことばが社会にどのような影響を与えたり、受け止められるのかが分かるのは僕にとっては非常に重要なことだ」と話しました。

そして、最後に「憎しみよりも悲しい気持ちがある。人が死ぬのはどんな理由があれ悲しい。悲しみを受け止めるにはものごとの背景が分かり、どれが手当てできてどれができないのかがはっきりすることによってだ」とも話しました。

ジャーナリスト 神保哲生さん「宮台さんは淡々と受け止め」

宮台さんと親交の深いジャーナリストの神保哲生さんは、1日午前に宮台さんが警視庁から説明を受けたあとに自宅で会ったということです。

その際の様子について「宮台さんは淡々と受け止めているようだったが、男が死亡したという事実を警察から聞いた直後だったので、自分の中でまだ消化できていないようだった」と話していました。

そのうえで「事件後の2か月間、宮台さんや家族はどこに行くにも安心できなかったので、その状況が終わったことはよかったと思っている。一方で、犯人自身のことばで動機が説明される機会がなくなったことで、宮台さんが事件のことをうまく整理できず、引きずってしまうことにならないか心配だ」と話していました。

東京都立大の学生たち「ほっとした」「動機解明を」

東京都立大学・南大沢キャンパスに通う学生たちからは、容疑者とみられる男が死亡していたことについて、ほっとしたという声もある一方で動機を解明してほしいという声も聞かれました。

1年生の男子学生は「ニュースを聞き驚きました。犯人が近くに住んでいるかもしれないと思って怖かったので安心しました。動機をしっかり解明してほしいです」と話していました。

1年生の女子学生は「犯人が見つからず不安でしたが、ほっとしました。ただ、本人の口から動機を語ったり罪をつぐなう機会がなくなったのは残念です」と話していました。

また、前期に宮台教授の授業を受けていたという1年生の男子学生は「知っている先生だったのでとても驚きました。どうして宮台先生が襲われたのかわからず、納得できませんです」と話していました。

東京都立大 “安全の確保 学生のケアに全力を尽くす”

東京都立大学は1日午後、ホームページに「容疑者とみられる人物が死亡したという報道がありました。引き続きキャンパス内の安全確保策を着実に実施し、開かれたキャンパスにおける安全の確保、学生のケアに全力を尽くしていきます」という大橋隆哉学長のコメントを掲載しました。

大学によりますと、今回の事件を受けて学内では「学校危機対応チーム」を新たに設け、防犯対策や学生の心のケアを強化することを決めたということです。

先月24日にはキャンパス内で刃物を振り回す不審者が出たという想定の訓練を行い、警察の指導のもと大学職員や警備員が初動対応などを確認したということです。

容疑者とみられる男の自宅では

容疑者とみられる男の相模原市南区の自宅には、1日正午ごろに警視庁の捜査員が捜索に入りました。

近くに住む60代の女性は「あの家は人が住んでいる気配がなく、空き家なのだと思っていました。時折、高齢の女性が出入りしているのや、住宅の前に自転車が止まっているのは見たことはありますが、男の人の姿を見たことはありませんでした。去年12月に救急車や警察が来ているのを見て、何があったのだろうと思っていました」と話していました。

近所に住む男性は「息子は背が高い人で、あいさつをしても返してくれない人だった」と話していました。

近所に住む女性は、母親から聞いた話として「息子は高校を出てから引きこもりがちで、将来を心配して5年前に別の家を用意した。ごはんだけ実家に食べにきていたが、それ以外はその家で過ごしていて、3年前から外に出るようになった」と話していたということです。

また、容疑者とみられる男の相模原市南区にある別の自宅の周囲には、午後0時半ごろに規制線が張られ、捜査員が出入りする様子が見られました。

その後、午後2時半ごろに捜査員が家の中から段ボールなどを運び出していました。

近所に住む80代の女性は「住宅には70代くらいの夫婦が2人で住んでいる。以前は娘2人と息子1人の家族5人で暮らしていたが、娘はいずれも独立して家を出た。家族仲はよいようで娘もたびたび両親に会いに来ていた。息子は仕事はせず、病院にかかっていると聞いた。母親は息子が将来暮らせるように近くに家を買ったと話していて、息子は毎日のように晩ご飯などを食べに家を訪れていた。体格がよく、無口で、近所の人と会ってもあいさつを交わすくらいだった」と話していました。

近所の50代の男性は「住宅は夜になると3、4人で談笑する声がよく聞こえてきました。けさ10時前に10人くらいの警察官が家の中に入って写真を撮るなどしていて、報道を見て驚いています」と話していました。

事件の経緯

事件が起きたのは、去年11月29日の夕方4時すぎでした。

宮台さんは、東京 八王子の東京都立大学南大沢キャンパスで4時限目の講義を終え、自宅に帰ろうと駐車場に向かって歩いていたところ、「学生ホール」北側の歩道上で突然、何者かに顔や頭などを刃物で切られ、全治6週間の重傷を負いました。

警視庁は殺人未遂の疑いで捜査を進めましたが、有力な手がかりは得られず、事件からおよそ2週間後、大学や付近に設置された防犯カメラに写った男の映像を公開し、情報提供を求めていました。

防犯カメラの映像には事件当日、宮台さんが襲撃された数分後の午後4時20分ごろ、現場から100メートルほど離れた「中門」のそばの植え込みを乗り越え、大学の外に出て逃走する様子が写っていました。

ただ、大学から500メートルほど離れた住宅街にあるコンビニエンスストアの前を通過したのを最後に、足取りが途絶えていました。

その後、男が自転車に乗って相模原市と町田市の間を流れる川沿いに北上して大学に向かい、事件後、再び川沿いに南下して逃走したことなどが確認されたものの、引き続き特定には至らず、警視庁は1月27日、さらに別の映像を公開しました。

これまでに300件余りの情報が寄せられましたが、男に結びつく情報は得られず、捜査は難航していましたが、1月30日、防犯カメラに写っていた自転車を購入した人物が分かり、詳しく調べた結果、容疑者の可能性が高いと判断したということです。

男は両親と3人暮らしで外部との接触や職歴は確認できず、両親は、映像が公開されたあとも気付いていなかったということです。

警視庁は1日、男の自宅を捜索し詳しいいきさつを調べています。