コロナ禍で生まれた あの“新習慣”「5類」でどうなる?

コロナ禍の3年で生まれた“新たな習慣”や“生活様式”。「5類」に移行したあと、どうなっていくのでしょうか。

マスク“自由化”のオフィスでは?
飛まつ対策のアクリル板は?
“消えた”ハンドドライヤーは?

最前線を取材しました。

“マスク”着用、個人の判断にしてみたら…?

東京・港区のSNSを活用したマーケティング会社では去年10月に、一足早く社内でのマスク着用の“自由化”を宣言しました。

マスクの着用については、新型コロナの位置づけが「5類」に移行されることが決まり、政府は屋内、屋外問わず個人の判断に委ねることを基本とするよう見直す方針で検討を進めています。

国は去年5月の時点で、距離を確保した上で会話をほとんどしない場合は屋内でもマスクを着用する必要はないと明示しています。
この会社では、当時は比較的、感染状況が落ち着いていたことや、スペースに余裕のある拠点に移ったことなどを踏まえ総合的に判断したといいます。

リモートワークも併用しているほか、社外の人と面会する場合はマスクの着用をルールにしています。

3か月たった現在は、出社する社員の3割から4割がマスクを外して仕事をしていて、自由化したあとも社員の間でも判断が分かれているということです。

私はマスクを外しました

ひとりで作業することが多い30代の男性です。
「暑がりでマスクを外したいと思っていました。任意を表明してくれたので、『あの人外している』という目で見られず気が軽くなりました」

また、人事職の30代の男性です。
「息がしやすいのもありますが、表情から伝わる情報は膨大で、今どういう感情かわかって助かります。一方で、マスクのおかげでかぜを引きにくくなったというメリットも感じているので、今後も脱マスクは強制ではなく個人に委ねたらいいと思います」

私はマスクをつけています

30代の女性です。
「慣れもありますし、小学生の子どもがいるので万が一の感染を考えて着けています。社内ではスペースもあり、好きな場所で作業できるのでまわりが外していても気になりません。感染状況や周囲の着用率を見て考えていこうと思います」

「外さない人も尊重」「顔の見えるメリットも」

ラバブルマーケティンググループ・林雅之社長は「コロナ禍での働き方はデジタル化が強制的に進められたというポジティブな点もあったが、先輩後輩の関係性や見て学ぶという成長機会が失われた問題点も見えた。マスクを外さない人も尊重しますが、顔の見える関係性が育まれるメリットも感じている」と話していました。

マスクの生産はどうなる

こうした中、マスクの生産量はどうなっていくのでしょうか。
全国のマスクメーカーなどでつくる「全国マスク工業会」によりますと、加盟するおよそ250社が国内で生産したり輸入したりした家庭用マスクの量は、コロナ禍の前の2018年度は42億8400万枚でしたが、2021年度は147億5700万枚と感染拡大前の3倍以上に増えました。

需要の高まりにより、新たにマスクの製造や販売に参入する企業が増えて、工業会の加盟社数もコロナ禍前の2.5倍になったほか、24時間体制で増産する動きも相次いだということです。

ただ、工業会によりますと各家庭などでマスクの備蓄を確保するようになり、昨年度をピークに生産量は減少しつつあるということです。

「徐々に減っていくだろう」

今後について「マスクの着用が習慣化したことや、さまざまな場面で使用できる多様化などによって、今後も一定の需要はあると見込んでいて、コロナ禍前に完全に戻ることはないとは思うが、生産量や輸入量は徐々に減っていくだろう」と話しています。

“使用が制限”ハンドドライヤーに変化

新型コロナの感染対策によって一時、使用が制限されたものもあります。

ハンドドライヤーは新型コロナの感染が広がり始めた2020年5月に政府の専門家会議で感染リスクが指摘されると、飲食店や公共施設、企業などで相次いで使用が中止されました。

販売台数 回復はしていないが…

この影響で、神奈川県愛川町のハンドドライヤーのメーカーでは新規の受注がなくなったりレンタル契約が解約されたりしてこの年の夏以降の販売台数は前の年と比べておよそ8割減少したということです。

会社では研究所などに依頼して、使用後に手に残ったり周囲の人に付着したりするウイルスの量を調べる実験を行い「ほとんど付着せず感染への影響はない」という結果を得て、2021年にホームページで公表しました。

その後、経団連も「ウイルスが飛散する可能性は低い」として、ガイドラインを見直して使用を容認し、現在は政府も「使用できる」としていますが、販売台数は回復していないということです。

メンテナンスの依頼が出始めた

しかし、新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に移行されることが現実味を帯びてきた去年12月以降、会社には取引先の飲食店などから使用を停止してきたハンドドライヤーを使うため、メンテナンスの依頼が出始めたということです。

現在は、会社に隣接する工場で、モーターが正常に動くかや交換が必要な部品がないかなどを確認する作業を週に10台ほど行っています。

会社では、2月に都内で行われる宿泊業や飲食業向けの展示会に出展することにしていて、安全性などを発信し、需要の回復を目指していきたいとしています。

「存続のため 新規事業の展開も」

ハンドドライヤーを製造する東京エレクトロン株式会社の井上聖一社長は「コロナ禍で売り上げは壊滅的な状態になった。『5類』になったとはいえ、売り上げが元に戻るにはさらに1年ほどかかるかもしれないので、会社の存続のため需要の回復と合わせて新規事業の展開も考えたい」と話していました。

“アクリル板”はどうなるの?

このコロナ禍で早い段階から、飲食店などの感染対策として設置が求められてきた「アクリル板」。

都内の企業では、今後を見据えて新商品の開発に動き出しています。

東京・葛飾区のアクリル板の加工販売会社では、新型コロナの感染拡大を受け、2020年3月からオフィスや飲食店などの感染対策用に、アクリル板のパーティションの販売を始めました。
その年の下半期に需要がピークに達し、会社全体の売り上げもコロナ禍前の3倍から4倍に伸びたということですが、現在のパーティション自体の売り上げはピーク時の100分の1程度に減っているということです。

会社では、不要となったパーティションが廃棄される可能性が高くなると見て、去年、新たに茨城県にリサイクル用の工場を建設し、店舗などからパーテーションの回収を進めています。
新型コロナの位置づけが「5類」に移行されることが決まる中、現在は回収したアクリル板に絵を印刷するなどの加工を施した新商品の開発を始めていて、早ければことし4月にも生産を本格化させたいとしています。

「喜んでもらえる新商品を」

「はざいや」の菅原慎一工場長は「コロナ禍では、アクリル板を利用してもらい、感染対策の力添えができてよかった。しっかり分別すれば再利用できるので、今後はリサイクルをメインに考え、喜んでもらえる新商品を作っていきたい」と話しています。

飛まつ防止の扇子 ことしは南国ビーチで活躍!?

こうした動きは、ほかにも出ています。

浜松市にある扇子専門店では、主に成人式や結婚式といった冠婚葬祭の記念品や、観光地の土産物として扇子を販売してきましたが、感染が拡大した2020年以降、各地で式典やイベントの開催も制限され売り上げがゼロになった月もありました。
その状況を何とか切り抜けようと、2020年の8月からプラスチック製の感染防止用の扇子の販売を開始。

半透明な扇子で口元を覆うことで顔を見せながら飛沫防止ができるのではないかと考えたといい、2021年の夏は3か月でおよそ7000本が売れました。

しかし、徐々に注文は減り感染対策への意識の変化を感じたといい、去年7月からはプールや海辺で水にぬれても使えるビーチ用の扇子として沖縄で試験販売を開始していて、「5類」への移行が決まる中、販路を広げていきたいとしています。

「コロナ禍は生き方や経営を学ぶ機会」

代表の小栗佑太さんは「海やプールは全世界にあるのでコロナ対策商品から夏向けの新商品として世界中で使ってほしいです。コロナ禍の3年間、打開策を求めて焦った時もありますが、この先の自分の生き方や経営のしかたを学ぶ機会にもなりました」と話していました。

専門家は

コロナ禍の人々の意識を研究している同志社大学の中谷内一也教授に聞きました。

Q.コロナ禍の3年で人々の意識は?

A.この数年間でどう対策をすればいいかが分かってきて未知のものではなくなってきた。『5類』に移行しても季節性インフルエンザのような感染症とすぐに同じ認識になるとは考えにくいが、時間がたてば近づいていくだろう。

Q.マスクの着用は?

A.マスクをつける背景には感染対策に有効なだけでなく、自分だけ浮くのはまずいとほかの人の目を気にする面もある。アルコール消毒や換気などの対策よりも、他人や自分がどうしているか見てすぐにわかる。マスクを外す人が連鎖的に増えていけば、周りが外したらはずそうと思っているボリュームゾーンが一斉に外すようになるのではないか。

Q.家庭や職場の意識はどう変わる?

A.コロナ禍の3年間で行動変容があったり働き方が変わったりして、人と接触して話をするといったごく当たり前のことがすごく価値のあるものだとわかった。
一方で、オンライン会議や在宅勤務などお金だけでなく労力や気遣いなど広い意味でのコストが小さくでも、業務が成り立つとか同じような効用を得られるとわかったものはコロナ後も残ると思う。