ビジネス特集

なぜ?発祥の地で豚骨“じゃない”ラーメンが急増

福岡と言えば、豚骨ラーメン発祥の地。当然、“豚骨一強”と思いきや、いま意外な現象が起きている。塩やしょうゆなど、豚骨“じゃない”ラーメン店が急増しているのだ。いったいなぜ?徹底取材した。
(福岡放送局記者 福原健)

塩やしょうゆのラーメン店続々

福岡に住んで5年。

塩やしょうゆ、横浜家系や二郎系など、豚骨ラーメン以外の店が増えてきているなと感じていた矢先、ふと、大手口コミサイト「食べログ」を調べてみたのが今回の取材のきっかけだった。

ほかのサイトなども参考にしながら2018年から去年までの新規出店を調べると豚骨専門ではない店が急増していたのだ。

街頭アンケートは豚骨が圧倒なのに

福岡県民のラーメンの好みが大きく変化しているのか。

そんな見立てをもち、繁華街の天神で60人にアンケートを実施した。
「好きなラーメンは?」と問いかけ、ボードにシールを貼って答えてもらった。

その結果がこちら。
豚骨が好き 41人 豚骨以外が好き 19人
豚骨ラーメンが圧倒したのだ。

豚骨“じゃない”を選択した19人のうち、8割の15人が女性だった。

写真映えする「新しいラーメン」を食べたいという若い女性や豚骨特有のにおいやクセが苦手だという女性もいた。

また、県外からの転勤者もいた。

福岡県は、去年まで7年連続で転入超過。

転勤者や移住者が多いため、豚骨以外のラーメンへの需要も出てきていることが垣間見えた。
豚骨“じゃない”を選んだ人の声

「トマトラーメンが好き。豚骨は油っぽいのが気になってしまう〈10代女性〉」

「年をとってこってり系が苦手になってしまった〈70代女性〉」

「去年大阪から福岡に来た。最初は豚骨も食べてたけど、大阪ではしょうゆをよく食べていたので〈20代男性〉」

「インスタグラムとかTikTokで店を探して、時間があれば新しいラーメンを食べに行く。店が増えてくれてうれしい〈20代女性〉」
それでも揺るがなかったのが福岡県民の“豚骨愛”。

新規出店の数にはまるで比例しない結果となった。
豚骨を選んだ人の声

「それは愚問だね、豚骨一択だよ〈50代男性〉」

「余裕で豚骨ですね。ニンニクばーんって入れて食べるのが好き〈20代男性〉」

「福岡で生まれたんだからそりゃそうでしょ〈20代女性〉」

「豚骨しか食べたことがない〈70代男性〉」

安さと伝統の壁

街頭アンケートをしたことにより、当初描いた「豚骨ピンチ!?」のストーリーにつまづいた私。

深まる疑問を解くため、年に400杯のラーメンを食べ歩くという専門家を頼った。

フードジャーナリストの山路力也さんだ。

福岡に来る予定があると聞き、町を歩きながら話を聞いた。
山路力也さん(右)
「豚骨ラーメンの安さが壁になっている」

豚骨ラーメン店の看板の前で立ち止まった山路さんが指摘したのが、新規出店する側が直面する、豚骨ラーメンの“安さと伝統の壁”だった。

まずは価格。

福岡の豚骨ラーメンはとにかく安い。
350円、500円といった価格はまったく珍しくない。

そして、伝統の食文化。

福岡には、全国的にもおなじみの「一風堂」や「一蘭」のみならず、豚骨ラーメンを提供する中規模なチェーンや個人経営の店がたくさんある。

それゆえ、近所に“マイ豚骨ラーメン店”を持つ人も多く、ラーメンと言えば「豚骨」が県民の共通言語とも言える。

つまり、こんな福岡で、新規にラーメン店を出すとなった場合、豚骨ラーメンの分厚い壁は超えられないと、あえて新しい別の味で参入するケースが多くなっているのでは、というのが、山路さんの分析だった。

また、ガス代や、小麦などの食材が高騰する昨今。

新たに店を開くなら、できれば利幅を得やすい価格でラーメンを提供したいという事情も関係していると分析した。
山路力也さん
「しょうゆや塩とか、新しいラーメンの場合、豚骨ラーメンよりもちょっと高くても当たり前みたいな認識が消費者側にもある。まだプレイヤーが少ない味で勝負した方がニーズもあるし、注目もされる」
福岡市に隣接するラーメン激戦区、春日市。

1年半前にラーメン店を開業した店主の森山恭行さんも、「有名なお店が多い福岡の中では、豚骨ではまず勝負にならない」と話す。
森山恭行さん
店で提供しているのは、貝のだしをふんだんに使った塩ラーメンと煮干しの旨味を閉じ込めたしょうゆラーメン(各850円)。
客に声をかけると「いろんな味を食べられるのがうれしい(40代女性)」との声があった。

豚骨ラーメンの福岡でも、毎回豚骨ではなく、たまには別の味も。

そんなニーズがあるのが、豚骨“じゃない”店の新規出店が増えている理由かもしれないと感じた。

羽ばたく豚骨

子どもの時から家には豚骨味のインスタント麺やカップ麺。

小学校の給食でも、豚骨ラーメンが出る。

このラーメン取材を始めてみると、福岡出身者の豚骨文化は根強く、逆に豚骨ラーメンの強さを感じた私。

最後に、豚骨“じゃない”店が増えているこの現状を、豚骨側がどう感じているか、創業60年を迎える老舗チェーン「博多だるま」を展開する河原秀登代表に話を聞いた。
「スープと会話する」と話す河原代表
店は連日大繁盛。

河原代表は、歴史ある「豚骨」を守るため、決まった骨の部位を使用し、麺も湿度や温度によって調合するなど、こだわりを大切にする。

と思えば、SNS時代に合わせて「写真を撮る」時間を逆算して、これまでよりちょっとゆで時間を早めにするなどの工夫もする。

店は全国に9店舗を展開。

さらに海外で日式の豚骨ラーメンがブームになったこともあり、アメリカや台湾など10店舗以上に拡大中。

地域によっては鶏ベースのラーメンも作るなど、豚骨にとどまらず、ラーメン文化を世界発信している。

その河原代表、豚骨以外のラーメン店が増えていることについて、福岡に新しいラーメン文化が発展していけばよいと、優しい笑顔で懐の深い言葉を発した。
河原秀登代表
「今後も福岡のおもてなし、観光資源を守るためにラーメンを作っていきたい。そこに“博多しょうゆ”とか“博多貝だし”とかいろんな味が出てきたらいい」
普段何気なく食べていた豚骨ラーメン。

でもあの白濁のスープには、福岡の伝統、奥深さが詰まっている。

取材を終えて食べたいつもの1杯は、やけに胃の奥にしみわたった。
福岡放送局記者
福原健
平成30年入局
福岡で事件→スポーツ→県政を担当
大阪出身で“しょうゆ派”
飲んだ後は「豚骨一択」

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