ロシアから中国向けの天然ガス供給拡大 その狙いは?

ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、中国向けの天然ガスの供給を拡大しています。

先月には東シベリアにロシア東部最大のガス田が操業を開始し、中国へのパイプラインが全面的に開通しました。

ロシアの天然ガスをめぐる状況は?
プーチン政権の狙いは何か?

最新の状況などをまとめました。

新たなガス田とは?

ロシアの政府系ガス会社ガスプロムは、去年(2022年)12月21日、東シベリアのイルクーツク州にあるロシア東部最大のコビクタ・ガス田の操業を開始しました。
ガスプロムによりますと、このガス田で採掘可能な天然ガスの埋蔵量はおよそ1兆8000億立方メートルで、計画では、2026年以降、年間270億立方メートルを生産するとしています。
ガスプロムは、式典に先だってコビクタ・ガス田の生産拠点をロシアのメディアに加え、中国メディアやNHKに公開しました。

現場は、冬には気温がマイナス60度まで下がることもある極寒の地にあります。
ガスプロムの担当者は厳しい環境下にもかかわらず、ロシアの技術でプロジェクトを実現できたと強調していました。

ここで産出された天然ガスは「シベリアの力」と呼ばれるパイプラインを通して中国に輸送されます。
「シベリアの力」は、ロシアから中国へ直接ガスを送る一大プロジェクトで、2019年に別のガス田からの供給を始めていましたが、今回、このガス田とパイプラインがつながったことでおよそ3000キロにわたって全面的に開通したことになります。
コビクタ・ガス田の操業開始の式典にオンラインで出席したプーチン大統領は「ロシアのガス業界、経済全体にとって、特別で記念すべき出来事だ」と意義を強調しました。

別のパイプライン計画も

さらに、ロシアは、モンゴルを経由して中国にガスを送るパイプライン「シベリアの力2」の建設計画も進めています。
ロシア国営のタス通信によりますと、2024年から建設が始まる可能性があるとして、完成すれば、年間500億立方メートルの天然ガスをさらに中国に輸送できると見込まれているとしています。

ロシア政府でエネルギー問題を担当するノバク副首相は去年(2022年)9月、国営テレビのインタビューで「シベリアの力2」について、ロシアとドイツを結ぶ「ノルドストリーム2」の年間輸送能力に匹敵するとして「ノルドストリーム2の代替になる可能性がある」と述べ、開発への意欲を示しました。

プーチン大統領は、12月15日に開いた政府の会議で天然資源の供給先について「ヨーロッパよりも有望なパートナーを探していく」と述べ、制裁を科すヨーロッパ側をけん制する一方、中国などとの連携を強調し強気の姿勢を示しています。

ロシアのガスに依存していたヨーロッパは

天然ガスなどのエネルギー供給で、ロシアに大きく依存してきたのがヨーロッパです。
ヨーロッパ最大の経済大国ドイツは、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始める前までは、輸入する天然ガスの50%以上をロシア産が占め、EU=ヨーロッパ連合全体でも2021年の時点でおよそ40%に上っていました。

侵攻後、EUは、ロシアに対して石炭や海上輸送される原油の輸入禁止など制裁を科すとともに、2030年までにエネルギーでロシアに依存してきた状況から脱却する方針を示しています。
一方、ロシアは、ドイツ向けの天然ガスパイプライン、ノルドストリームによるガスの供給を大幅に削減し、ヨーロッパでエネルギー価格の上昇を引き起こしました。

ロシアとしては、制裁を科すヨーロッパに揺さぶりをかけるねらいがあるとみられます。

ドイツやフランスなどユーロ圏の消費者物価指数では、エネルギー価格が大幅に上昇していて、去年の9月から10月には2か月連続で前の年の同じ月と比べ40%を上回る値上がりとなりました。その後、上昇はやや緩やかになっていますが、家計や企業にとって負担となっています。
ドイツの首都ベルリンで市民に話を聞くと「ガス代がこれまでの3倍になりました。光熱費以外はすべての出費を抑えています」という声や「暖房の温度を低くしたり、シャワーの時間を短くしたりして節約しています。この先の天然ガスの確保にも不安を感じます」といった声が聞かれました。

専門家「ロシアと中国、インドなど 連携強まっている」

ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の長谷川雄之研究員はウクライナへの軍事侵攻後のロシアの経済・エネルギー戦略について「欧米側とは違う世界で生き延びようとしている」という見方を示しました。
また「ロシアと、中国やインド、トルコ、中東諸国などとの経済的な連携は、軍事侵攻以降ますます強まっていて、欧米の制裁には一定の限度があることに留意する必要がある」と指摘しました。

またロシアが中国へのガス供給を拡大している状況については「侵攻を受けて、中国は、ロシアから少し距離をとるような態度を示したこともあるが、エネルギーの協力関係をより深めている。ロシアはますます経済的・軍事的な面で、中国への依存を強めている関係にある」としました。

その上で「中国やほかの国とのエネルギーの協力関係が深化していけば、やはりロシアの戦費の確保であったり、さまざまな物品の調達に役立つ可能性がある」として、欧米の制裁強化にもかかわらず、ロシアが軍事侵攻を続ける資金源となる可能性があると指摘しました。

(ウラジオストク支局 高塚奈緒、ベルリン支局 田中顕一、国際部 後藤祐輔)