おととしの衆議院選挙は合憲 1票の格差めぐる裁判 最高裁

おととし10月の衆議院選挙で、いわゆる1票の格差が最大で2.08倍だったことについて、最高裁判所大法廷は「今回の選挙当時の格差は、人口の異動以外の要因で拡大したとはいえず、格差の程度も著しいとはいえない」と判断し、憲法には違反しないとする判決を言い渡しました。

おととし10月の衆議院選挙では1票の価値に最大で2.08倍の格差があり、2つの弁護士グループが「投票価値の平等に反し憲法に違反する」として選挙の無効を求める訴えをあわせて16件起こし、各地の裁判所の判断は「合憲」が9件、「違憲状態」が7件と、ほぼ半々に分かれていました。

25日の判決で、最高裁判所大法廷の戸倉三郎裁判長は「格差を安定的に縮小させるために2016年の法改正で導入が決まった新たな制度では、人口異動で格差が拡大することを当然の前提としつつ、10年ごとに新たな議席配分の方法を用いて格差を是正することにしている」と述べ、この制度のもとで格差が拡大したとしても、程度が著しく大きいなどの事情がないかぎり、憲法違反ではないという考えを示しました。

そうえで、新たな制度を前提として行われた今回の選挙について「人口の異動以外の要因で格差が拡大したとはいえず、格差の程度も著しいとはいえない」と指摘し、憲法には違反しないと判断して、弁護士グループの上告を退けました。

15人の裁判官のうち1人は「憲法違反」だとする反対意見を述べました。

「憲法違反」と反対意見の裁判官は

15人の裁判官のうち「憲法違反」とする反対意見をつけたのは学者出身の宇賀克也裁判官です。

宇賀裁判官は「国会は1票の価値の格差がない状態を当たり前として制度設計をしなければならない」とした上で、今回の選挙の区割りについて「過去に最高裁が『違憲状態』と判断した方法によって議席配分された都道府県が相当数残っていて、違憲状態を脱したとは言えない」と指摘しました。

その上で「選挙の時点で議席配分が違憲状態だった以上、法律の区割りの規定が憲法違反だと言ってよい」という見解を示しました。

一方、「ゆるやかだが、国会は不均衡を縮小させるための努力を重ねている」として、選挙の無効までは認めませんでした。

訴えを起こしたグループの弁護士 “格差が過少評価され残念”

判決のあと、最高裁判所の前で報道陣の取材に応じた、原告側の升永英俊弁護士は「違憲状態ではないという判決だが、おととしの衆議院選挙については格差を是正をしていない選挙であると認定していて、決して悪い判決ではない」と話していました。

判決について、訴えを起こしたグループの山口邦明弁護士は「最高裁は今後、新たな制度によって是正が予定されているから格差は不平等ではないと判断したが、今回の選挙当日の定数配分が不平等かどうかを考えるべきだ」と批判しました。

また、別のグループの伊藤真弁護士は「格差は改善が見込まれているものの実現しておらず、1300万人を超える有権者が不利益を受けている。判決でそれが過少評価されたことは残念だ。国会は合憲の判決が出たから問題を放置してよいと考えるのではなく、改善の実現に進んでもらいたい」と話していました。

専門家「国会は日頃から選挙制度の検討を」

最高裁の判決について選挙制度に詳しい一橋大学の只野雅人教授は「新たな制度が『アダムズ方式』という議席配分の方法を取り入れ、定期的に格差を是正するとしていることを重視し、2倍を超えることがあっても、その後修正されれば問題ないと判断した。しかし、本来は2倍未満に抑えるために導入された制度であり、評価は分かれるところだろう」と話しています。

また「今後、『アダムズ方式』に基づいて区割りが行われる以上、合憲の判断が続く可能性はあるが、格差を是正できなかったり、是正してもすぐに2倍を超えてしまうことが恒常化すると踏み込んだ判断もありえる」と指摘します。

その上で、現在の人口動態を考えると都市部への集中などが進み、そう遠くない将来に2倍未満を維持することが難しくなると予想されるとして、「25日の判決は国会が努力を怠ってよいというメッセージには決してならない。国会は日頃から選挙制度を検討していくことが必要だ」と述べました。

磯崎官房副長官「合憲との判断がされたと承知」

磯崎官房副長官は、記者会見で「選挙管理委員会側の主張が認められ、原告の選挙無効の請求が棄却されており、衆議院選挙当時の区割り規定が合憲との判断がされたと承知している」と述べました。

また、これに伴い、ことし4月に行われることになった衆議院の補欠選挙の位置づけを問われたのに対し「岸田内閣としては、引き続き、内閣の決定した方針への理解を深めていただけるよう丁寧に説明していく」と述べました。

自民 茂木幹事長「これまでの立法府の取り組みが評価」

自民党の茂木幹事長は記者団に対し「合憲判決は、これまでの立法府の取り組みが評価されたものだと受け止めている。去年、小選挙区の数を『10増10減』する改正公職選挙法が成立し、次回の選挙では1票の格差の是正はさらに進むと考えている」と述べました。

また、4月に行われることになった衆議院の補欠選挙について「自民党として候補者の擁立を急ぎ、態勢を整えて、必勝を期したい」と述べました。

立民 泉代表「都市部の議席増と地方の議席減の問題意識を」

立憲民主党の泉代表は、記者団に対し「判決を重く受け止めたい。次の衆議院選挙は小選挙区が『10増10減』で行われるが、都市部の議席が増えて地方の議席が少なくなる傾向にあるという問題意識を持たなければいけない。各党協議などの中で選挙制度を考えていきたい」と述べました。

維新 馬場代表「制度を抜本的に見直す時期に」

日本維新の会の馬場代表は、NHKの取材に対し「1票の格差は、憲法のもとで保障された平等の観点から、常に是正しなければならない課題だ。そもそも議員定数を削減することが国民との約束であり、小手先ではなく、制度を抜本的に見直す時期に来ている」と述べました。

公明 石井幹事長「投票価値平等に向け不断の努力重ねたい」

公明党の石井幹事長は「高等裁判所の判決では判断が分かれていたが、今回の最高裁判所の判決で司法判断が統一的に示されたことになる。『1票の格差』を2倍以内に収めることは立法府として最重要の課題だったが、去年、小選挙区の数を『10増10減』する改正法が成立して施行された。今後も、憲法が求める投票価値の平等に向け、引き続き不断の努力を重ねていきたい」とコメントしています。

共産 穀田国対委員長「比例代表を中心とした選挙制度に」

共産党の穀田国会対策委員長は、記者団に対し「2倍を超える格差があることは間違っており、選挙のたびに区割りが変わるような矛盾があらわれていることを反省すべきだ。小選挙区制をやめることに踏み出すのが政治の仕事で、民意を反映するために比例代表を中心とした選挙制度に変えるべきだ」と述べました。

国民 古川国対委員長「人口動態変化に合ったあり方議論を」

国民民主党の古川国会対策委員長は、記者会見で「選挙のたびに違憲訴訟が起こされているので、選挙のあり方も含めて検討する必要がある。一刻も早く、選挙制度に関する与野党を超えた協議会を設置して、今の人口動態の変化に合った制度のあり方を議論していかなければいけない」と述べました。