グーグルもメタも失速? NEXT GAFAはグリーンテックか

グーグルもメタも失速? NEXT GAFAはグリーンテックか
アマゾンやグーグル、旧フェイスブックのメタなど世界を席けんしてきたGAFAと呼ばれるアメリカの大手IT企業。しかし、今、景気減速懸念などから相次いで大規模な人員削減に踏み切っています。ではGAFAを辞めた社員たちはどこに再就職するのか。注目されているのが最新の技術とアイデアで環境問題を解決しようという「グリーンテック」です。NEXT GAFAをうかがうシリコンバレーの新しい動きを追いました。(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

大規模な人員削減は20年ぶり

「2022年はおよそ7.5倍に急増」

これ何の数字か分かりますか?

実はアメリカのIT企業による人員削減数の対前年比です。

アメリカの再就職支援会社、チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの最新の調査で判明した、2022年のアメリカのIT企業による人員削減の数は、9万7171人で前の年と比べておよそ7.5倍に急増したというのです。
これは、ITバブルがはじけた2002年以来、実に20年ぶりの高い水準というから驚きです。

旧フェイスブックのメタは、2022年11月に1万1000人以上の人員削減を発表。

アマゾンは、当初1万人規模としていた人員削減をことしに入って1万8000人を超える規模に拡大すると明らかに。

そして、グーグルも2023年1月20日に1万2000人を削減すると発表しました。
景気減速懸念から企業がインターネット広告の配信を控えていること、コロナ禍の巣ごもり消費で好調だったネット通販の売り上げが経済の正常化にともない減少、さらにインフレの影響で人件費のなどのコストが増大していることが要因とされています。
サンノゼ州立大学 アハメド・バナファ教授
「グレート・リセットが起きています。IT企業はコロナ禍が過ぎても消費者がネットを長時間使い、需要が続くと期待しましたが、そうではない現実に気づき、余剰人員を削減し始めているのです」

NEXT GAFAはグリーンテック

失速するGAFA。

では次なる元気のいいIT企業はどんなものなのか。

その答えの1つが2023年の1月にラスベガスで開かれた世界最大規模のテクノロジー見本市、CESの会場にありました。

ひときわ存在感を示していたのが「グリーンテック」、環境問題を解決する最新の技術や製品です。
例えば、食べ残した食材をスキャンするだけで、画像から瞬時に、食材の種類と量を認識し、どの食材をいつ、どれくらい捨てているのか、フードロスをデータ化してくれるシステム。

レストランなどに導入することでフードロスを減らそうというねらいです。

天井に太陽光パネルが付いていて、太陽光による充電で最大25キロの距離を走行できる小型の電気自動車。

さらに、地球上で農作物を作れなくなった場合、海底で野菜などを育てようという海底農場のシミュレーションまで。
グリーンなテクノロジーがめじろ押しでした。

ことしはCESとして初めて「人の安全や安心」というテーマを設けたことで、地球温暖化や食料危機など地球規模の問題解決にテクノロジーを使うべきではないかという機運がこれまで以上に高まりました。

グリーンテックにGAFA人材殺到

GAFAを含め、アメリカのIT企業を辞めた人たちの多くがこうしたグリーンテック業界に移っているといいます。

グリーンテックに特化した求人サイトを運営している、スタートアップの「クライメートベース」。

1週間から2週間に1回程度の頻度で、グリーンテック分野への転職を目指す人たちを対象にしたオンラインイベントを開催しています。

この2年ほどで利用者は、100万人近くにのぼっています。

最近特に目立っているのが、アマゾンやグーグルなどからのGAFA人材だといいます。
クライメートベース ジェシー・ハインズ共同創業者
「GAFAなどからグリーンテックへと移行する大きな流れがあります。私たちの求人サイトでは数か月間この流れが続いているんです。人員削減が進む中、多くの優秀な人材が環境問題にみずからの経験を生かそうと考え始めています」
2022年12月、私もオンラインイベントに参加して取材してみました。

すると、平日の早朝にもかかわらず400人近くが参加。
集合住宅における再生可能エネルギーの活用を進める企業や、次世代リチウムイオン電池の量産化を目指す企業など、グリーンテック6社が事業内容などについてプレゼン。

その後の質疑応答では、それぞれの企業が求める人材像や、今実際に求人が出ている職種の詳細について参加者たちから質問が相次いでいました。

会社にないしょで、こっそり転職活動をしているという女性に話を聞くことも出来ました。
女性は、アメリカのライドシェア大手、リフトに勤務していますが、会社は従業員全体の13%にあたる700人の人員削減を発表。

もしかして自分も解雇されるかも?という不安が、以前から興味のあったグリーンテック業界への転職を模索する後押しになったと話してくれました。

マネーもグリーンテックに向かう

グリーンテックには、投資家も注目しています。

創業から間もないグリーンテック企業に特化して投資を行っているシリコンバレーの投資家、トミー・リープさん。
いち早く、ネクストGAFAは、グリーンテックだと考え、過去3年間で24社、これまでにおよそ9億円を投資してきました。

リープさんは、1人で活動しているため、投資の意思決定が格段に早い、ソロベンチャーキャピタリストとして知られています。

リープさんが、投資したスタートアップにビジネスの進ちょくを聞きに行くというので同行させてもらいました。

向かったのは、サンフランシスコに拠点を置く、ロボットの開発企業です。

いま開発しているのは、ゴミ処理場などで、ゴミを自動で分別できるロボット。
AI=人工知能を活用し、形や色などの特徴から選ぶべきゴミを瞬時に認識して仕分けることができ、リサイクルに役立つとしています。

2022年は2か所の施設で導入されましたが、2023年はさらに6か所でこのロボットの採用が決まっていると説明を受けました。

リープさんによれば、事業を拡大していくにはさらに資金が必要になるため、会社の現状を定期的に把握しておくことで、次にどのタイミングで追加投資を行うべきか、きちんと判断できるのだそうです。

1週間以内に投資決定も

リープさんは、投資家仲間などから紹介されたグリーンテック企業のCEOたちと頻繁に、オンラインで面談しています。

事業内容を聞いて、将来性があると判断すれば、最も早い場合、1週間以内に投資を決めることもあるといいます。

アメリカの調査会社、アライド・マーケット・リサーチによると、2019年に87億ドルだったグリーンテックの市場規模は、2027年には5倍以上の483億ドル、日本円でおよそ6兆3000億円に達すると見込まれています。
シリコンバレーの投資家 トミー・リープさん
「グリーンテックにかつてないほど資金が集まっていてわくわくしています。すべての企業にとって、環境への配慮は欠かせないものになっています。今後も多額の投資が続くとみています」

背景にIT人材の意識の変化

人材も投資も、グリーンテックに集まっているのはなぜなのか。

取材したサンノゼ州立大学のバナファ教授、グリーンテック求人サイトのハインズさん、投資家のリープさん3人がこぞって指摘したのが、IT人材の意識の変化です。

彼ら彼女らは、より多くの人にインターネット広告を見て、クリックしてもらい、商品の購入につなげようということではなく、本当に必要とされる地球温暖化などの環境問題に、自分の能力を使いたいと思う傾向が強いといいます。
特に、Z世代と飛ばれる若い世代にはその傾向が顕著で「よいことをしてお金を稼ぎたい」という考え方なのだそうです。

ネット広告などを中心としたビジネスモデルには限界があるのでないかという見方もあります。

ネクストGAFAは、アマゾンやメタ、グーグルのように、1社で巨大な影響力を持つ企業にはならないのかもしれません。

1社1社の取り組みは小さく見えるものの、それが集まると大きな影響力を発揮しそうなグリーンテック、今後、どのような事業が生み出されるのか、楽しみです。
ロサンゼルス支局記者
山田奈々
2009年入局
長崎局、経済部、国際部などを経て現所属