“コロナ感染者が立ち寄った店名公表” 25日午後判決 徳島地裁

3年前、徳島県が、新型コロナの感染者が立ち寄ったラーメン店の名前を公表したことをめぐり、店側が風評被害を受けたとして、県に賠償を求めた裁判の判決が、25日、徳島地方裁判所で言い渡されます。店側は、クラスターの発生など緊急性がないのに公表したのは不当だと訴えたのに対し、県側は注意喚起のためで正当だと反論していて、裁判所の判断が注目されます。

全国で新型コロナの感染が第2波に入った2020年7月、徳島県は、県内で確認された20人目の感染者が、20分ほど立ち寄っていたラーメン店の名前を公表しました。

これについて店側は、同意のないまま店名を公表され、深刻な風評被害を受けたとして、県に1100万円の賠償を求める訴えを徳島地方裁判所に起こしていました。

裁判で、店側は「クラスターが発生するなどの緊急性や必要性はなかったうえ、店名を公表した際、従業員が陰性だったことに触れないなど、風評被害への対策も取らなかった」と主張しました。

これに対し県側は「店に居合わせた不特定の客に感染の可能性を注意喚起し、感染拡大を防止するためで正当だ。店の同意も必要ない」と反論しています。

この裁判の判決が、25日午後、言い渡されます。

感染者が立ち寄った飲食店の名前を行政が公表したことや、その方法について妥当性を問う異例の訴えに、裁判所がどう判断するのか注目されます。

最もつらかったのは いわれもない店への中傷

徳島県が、新型コロナの感染者が立ち寄った先として名前を公表したラーメン店「王王軒」は、行列ができることもある地元の人気店でした。

経営者の近藤純さん(50)は、店名を公表されたとたん、地元の客足がぱたりと止まり、売り上げが激減したといいます。

最もつらかったのは、いわれもない店への中傷でした。

インターネットの掲示板には、「店に行ったら感染する」とか「コロナラーメン始めました」「コロナ軒」などの心ない書き込みが相次ぎ、店を閉じることも考えました。

当時について、近藤さんは「私は感染していないのに感染しているとか、誤った情報が大きくなり、『無いことも、有ること』になってしまっていて、とても危険な店という印象を持たれていると感じた。お客さんが全く来ない重苦しい時もあり、半年から1年はつらい状況が続いた」と振り返ります。

判決を前に近藤さんは、「店名の公表は重大なもので、店にとって死活問題になる。今後、私が経験した本当につらい時間を、ほかの飲食店に経験してほしくないので、県や保健所は、当時の対応に非があったなら認めてほしい。判決に、ひと言だけでも、行政に対応を見直すよう書かれていればいいと思っています」と話しています。

徳島県 店から同意を得られたので公表したと説明

徳島県が原告のラーメン店の名前を公表したのは、全国で新型コロナの感染の第2波に入った2020年7月でした。

この年の1月に、国内で初めて感染が確認され、徳島県でも2月に1人目の感染者が確認されました。

その後、県内の感染者は、多くても月に1人か2人で推移していましたが、7月下旬には連日、感染者が確認されるようになっていました。

こうした中、7月31日に行われた飯泉知事の記者会見。

前の日に発表された県内20人目の感染者に関する「追加の情報提供」という形で、食事に立ち寄った原告のラーメン店の名前を口頭で発表しました。

その際は、店から同意を得られたので、公表したと説明していました。

双方の言い分が対立 裁判所が和解を勧告も成立せず

この公表について店側は、同意はしていないと反発しました。

店名が公表された後、ぱたりと客足が途絶えたということで、店側は深刻な風評被害を受けたと主張して、おととし、県に1100万円の賠償を求める訴えを徳島地方裁判所に起こしました。

裁判では、県の当時の公表やその方法が妥当だったかどうかが争われました。

店側は、感染者がわずか20分立ち寄ってラーメンを食べただけで、店では感染者の発生やクラスターも起きておらず、店名を公表する必要性や緊急性はなかった。

さらに、店名を発表するだけで、従業員が陰性だったことに触れないなど、風評被害などへの対策が講じられなかったとして、県の対応は不当だったと主張しました。

これに対し、県は、店内に居合わせた不特定の客に感染の可能性があることを注意喚起し、感染拡大を防ぐ目的があった。

当時の新型コロナをめぐる社会情勢などを考えれば、公表に問題なかったと主張してきました。

また、店名の公表に同意があったかどうかについては、店側は「公表はやめてほしいと繰り返し伝えていた。絶対に同意していない」と訴えました。

一方、県は、事前に公表の可能性を伝えた際、「店側が『しょうがない』と言ったため、同意を得たと理解した。そもそも感染症法上、店名の公表するのに同意は必要とされていない」と主張しました。

双方の言い分が対立する中、裁判所は去年8月、和解を勧告しました。

店側の弁護士によりますと、店側が賠償請求を放棄するかわりに、県は店に対し、店名公表という負担に協力したことへの感謝と、明確な同意を得ずに公表したことへの遺憾の意を表明するという内容を盛り込んだ和解案が示されたということです。

しかし和解は成立せず、判決を迎えることになりました。