なぜ人は、雪に向かってしまうのか

なぜ人は、雪に向かってしまうのか
予想される大雪に猛吹雪。

10年に一度と言われる低い気温に、さまざまな機関が警戒を呼び掛けています。

でも、振り返るとこれまで大雪のたびに車は立ち往生し、雪の中での悲劇も起きています。

なぜ、人は危険に向かってしまうのか。
どうも、ふだんは安静のために働く心の動きが、影響しているようです。

(ネットワーク報道部 斉藤直哉 土方薫/奈良局 平塚竜河/おはよう日本 橋本亮)

「冗談じゃなくて本当にそう思う」

「今回は学校・会社休みにしないと危ないかもしれないレベル」
「冗談じゃなくて本当にそう思う。予定、仕事…よっぽど急ぎじゃないなら日にち変えるべき」

先週末、東日本高速道路新潟支社が出したツイッターの投稿に次々と声が寄せられました。
投稿には「今シーズン最大級の寒波」、「広域かつ長時間」「一般国道と同時」の通行止めが起きる可能性があると強い言葉が並びます。
同じような呼びかけは、国土交通省や他の高速道路会社もSNSなどで発信していました。
(東日本高速道路新潟支社 広報担当)
「当時の対応について重く受け止めている」
背景には過去の苦い記憶があります。

3年前、関越自動車道で最大で15キロに渡って一時およそ2100台が立ち往生。

解消までには丸2日間以上かかり、立ち往生している車を回って給油するといった対応に追われました。
強い言葉での発信はこれを教訓に行うようになったそうです。
(東日本高速道路新潟支社 広報担当)
「今回の寒波はめったにない大雪が予想されている。不要不急と言わず出来る限り外出を控えて命を守る行動を取って欲しい」

“10年に一度”

24日以降に予想されるこの冬一番の寒気。

広い範囲で大雪や猛吹雪となる予想で、短時間で積雪が急激に増えるおそれがあります。
国土交通省と気象庁は23日に「大雪に対する緊急発表」を行い、「全国的に10年に一度程度の低い気温になる見込み」だとして、不要不急の外出を控えるよう呼びかけました。

“白い闇”と“10年前”

しかし、これまで警戒を呼び掛けても、大雪の中で車を出しての事故やトラブルは繰り返され、人の命に関わるケースも起きてきました。

2年前には大雪の中、宮城県大崎市の東北自動車道で車やトラックおよそ60台が絡む多重事故が発生。

男性1人が死亡し、重軽傷者も24人にのぼりました。

一時、およそ140台が1キロ近くにわたって動けなくなっていて、事故の原因のひとつに「ホワイトアウト」があげられています。

強い風が降り続く雪を巻き上げ、視界を白く覆ってしまう現象で、一瞬で方向や地形が分からなくなることから、“白い闇”とも呼ばれています。
また、今回の気象状況が「10年に一度」とされていることから、ネット上では10年前に起きた悲劇を思い出したという声も多くあがっています。

10年前の3月、急速に発達した低気圧の影響で北海道が暴風雪に見舞われ、9人が死亡。

その中には、小学生の娘を軽トラックで迎えに行ったまま行方不明になった父親もいました。

親子は翌朝、車から300メートル余り離れた道路脇で父親が娘を抱きかかえるように覆い被さっている状態で見つかりました。

娘は軽い凍傷でしたが、父親は死亡が確認されました。

親子の友人のもとには、「吹雪で車が動かなくなった。車を置いて避難したい」と連絡があり、親子は車から降りて、歩いて近くの知人の家に向かっていたところでした。
また先月、日本海側を中心に、積雪が平年の3倍に達するところも出た記録的な大雪でも、新潟県で雪に埋もれた車の中で20代の女性が死亡しているのが見つかっています。

大雪の中での事故は繰り返されています。

なぜ、雪に向かうのか 3つのバイアス

なぜ、人は大雪など危険が待ち伏せてしまう状況でも、外に出たり車で出かけたりしてしまうことがあるのか。

防災心理学の専門家は、人間が持つ3つの心理的な癖が関係していると言います。
ひとつは正常性バイアスです。

ふだんと異なることが起きていても、それを正常(ふだんと同じ)の範囲内ととらえ、心を平静に保とうとする心の動きのこと。

今は雪が見えるけど、そうたいしたことじゃないよ、などと思って、安心しようとする心の動きです。

日常生活を送る上では、いつもと異なることが起きた時に、心の状態を保つために大事な動きではあるのですが、これが災害時だと危険と隣り合わせとなります。

専門家はまだ大雪になっていない時に、この心の癖が出ると指摘しています。
(兵庫県立大学 木村玲欧教授)
「特にまだ大雪でなくて、路面が凍結しているくらい、ちょっとうっすら積もっているくらい、外をちらっと見ただけではその変化に気付かないようなときに、こうした『正常性バイアス』というのが起きやすいのです」

「(情報があっても)多分大丈夫だろう、日常と一緒だろう、という考え方の癖が出てしまう傾向があるんです」
そして、楽観主義バイアス

過去の経験から今回だって大丈夫!と経験に基づいて思ってしまう、心の動きです。
「『楽観主義バイアス』は、今までの自分の人生、例えば大雪とか路面の凍結でそれほど大きなけがや事故などに巻き込まれていない、それなら今回だってまあ多分大丈夫だろう、と思ってしまうことです」

「過去の経験をもとに楽観的に判断してしまう、そういう考え方の癖です。そう考えてしまいがちな傾向の人がいるとも言えます」
さらにもうひとつ、同調性バイアスという考え方の癖もあると言います。

周囲の人に合わせてしまう心の動き、集団の中にいるとついつい周りの人たちと同じ行動をとってしまう心の動きです。

これも日常生活では、多くの人とうまくやっていくための協調性につながり、異なる意見でも、それについていくことがあります。

ただ災害時では、他の車も雪の中を走っているから大丈夫と考えてしまうと危険で、様々な情報から本当に安全なのかどうか、よく考えないと時として命の危険が迫ることもあるのです。
「『同調性バイアス』が働く時、ほかの人もやっている、だから自分も一緒にやってしまわないと不安だ、自分も大丈夫だろうと思ってしまうこともあります。こういうことも考え方の癖なんです」
木村教授はこうした人間の心理の特性を踏まえた上で、今回は、これまでの経験が役に立たないと考えることが命を守るためにも大切だとアドバイスしていました。
「今回はまれに見る寒波がきているわけで、私たちの日常生活での経験というのが役に立たない可能性があります」

「今回は、もしかしたらけがをしてしまうかもしれない。交通事故に巻き込まれてしまうかもしれない。このように『今回は、もしかしたら』という心の危機管理でしっかりと対策を取り、もし外出しなくてもいいようなときにはなるべく外出をしないで、今回の大雪の危機を乗り越えていただきたいと思っています」
気象の状況はわずかな時間で大きく変わることがあります。

いまは大丈夫だから、前は大丈夫だったから、みんなも行っているから。

そう思って自分を安心させないことが大切な対策のひとつです。