新型コロナ オミクロン株“XBB.1.5”わかってきたこと【1/23】

新型コロナの「第8波」はようやくピークを越えたようにも見えますが、アメリカで先月末から急拡大している新たな変異ウイルスが国内でも検出されました。これまでの変異ウイルスの中で最もワクチンや感染によってできた免疫が効きにくいおそれがあるとされています。

また感染拡大につながるのか。ワクチンは打ったほうがいいのか。
わかってきたことをまとめました。

“XBB.1.5” アメリカで急拡大

「XBB.1.5」は、オミクロン株のうち、2022年春ごろから広がった「BA.2」の2つのタイプが組み合わさった変異ウイルス「XBB」に、さらに変異が加わっています。
アメリカでは、ニューヨークなど東部を中心に、検出される割合が2022年12月ごろから急拡大し、最も多い変異ウイルスになっています。アメリカのCDC=疾病対策センターによりますと、1月21日までの1週間に新型コロナに新たに感染した人のうち、「XBB.1.5」が検出された割合は推計で49.1%に上っています。

WHO=世界保健機関の1月11日の週報によりますと、これまでに38か国から「XBB.1.5」の検出が報告されています。「XBB.1.5」についてのデータはまだ限られていて、1月19日の週報によりますと、年末の1週間では「XBB」系統全体で世界各国から報告される新型コロナウイルスのうちの8.36%となっています。

WHO“世界的な症例の増加につながる可能性”

WHOは1月11日、「XBB.1.5」のリスク評価を公表しました。それによりますと、感染の広がりについては、アメリカでは比較的、広がりやすい傾向が見られていますが、さらに分析が必要だとしています。

▽過去の感染やワクチン接種で得た免疫から逃れる性質は、予備的な実験のデータでは、これまでのオミクロン株の変異ウイルスと比べて高まっているとしています。
▽感染した場合の重症度については、臨床データはまだ情報がないとしています。
ただ、重症度の変化につながるとされる変異は確認できていないとしています。

その上で、現状ではデータが限定的だとしながらも「世界的な症例の増加につながる可能性がある」としています。

人の細胞にくっつきやすい変異か

東京大学医科学研究所の佐藤佳教授が主宰する研究者のグループ「G2P-Japan」は、査読を受ける前の論文として、「XBB.1.5」の特徴を再現して人工的にウイルスを作り、実験を行った結果を公表しました。

研究グループは、ワクチンの接種後に、2022年夏以降の第7波で主流だったオミクロン株の「BA.5」に感染した人の血液を使って、「XBB.1.5」に対する免疫の反応を調べました。
その結果、ウイルスを抑える中和抗体の働きは「BA.5」に対する場合のおよそ10分の1にとどまり、免疫を逃れる性質がはっきりしたということです。

また、感染力が高まっているのではないかという結果も示されました。

新型コロナウイルスが人に感染する際には、細胞の表面にある「ACE2」というたんぱく質にくっつきます。ウイルスは人の細胞にくっつきやすいと感染力が高まります。

「XBB.1.5」には新たに「F486P」という変異が加わっています。佐藤教授によりますと、この変異があることで、「XBB.1.5」は細胞の表面のたんぱく質に結合する力が、変異が無いタイプの変異ウイルスと比べて4.3倍になっていたということです。

これまでの変異ウイルスでは「中和抗体を逃れること」と「結合力が上がること」は両立しにくかったのが、「XBB.1.5」は両立していて、感染力も高まっているのではないかとしています。

“これまでにほとんどなかった大きな変異”

佐藤教授
「免疫をかいくぐる力が高まり、いわば『完成形』だった『XBB』に、さらに変異が加わることで細胞への感染力も高まって、より広がりやすくなっていると考えられる。これほど大きな変異はこれまでにほとんどなかった」

一方、感染した場合の重症度や病原性については、まだよく分かっていません。
感染した人から取った「XBB」のウイルスをハムスターに感染させても、肺の炎症や損傷を引き起こす度合いは、以前のオミクロン株と同じ程度だったと報告しています。佐藤教授は「XBB」では症状を引き起こす力は高まっていないとみられるとしています。

さまざまなウイルス 併存の状況に

免疫から逃れやすいうえ、感染力も高いとみられる「XBB.1.5」ですが、いまのところ、アメリカ以外の国では大きく広がっておらず、アメリカでも全国で爆発的な感染を引き起こしているわけではありません。
また世界、そして日本でも、これまでのように、ある特定の変異ウイルスがほぼ全てを占めるということにもなっておらず、いわば、さまざまなウイルスが併存する形になっています。

国内では、東京都が1月19日にモニタリング会議で示した資料によりますと、「XBB.1.5」は東京都内でこれまでに22件検出されているということです。1月2日までの1週間では検出される割合は0.3%で、大きく増加している状況ではありません。

東京都のモニタリング会議で出されたデータによりますと、1月初めまでの1週間で検出されている変異ウイルスはいずれもオミクロン株の1つで、多い順に
▽「BA.5」50.6% (2022年夏以降主流)
▽「BQ.1.1」16.2% (「BQ.1」に変異加わる)
▽「BF.7」14.2% (「BA.5」に変異加わる 中国で拡大とされる)
▽「BN.1」10.4% (「BA.2.75」に変異加わる)
▽「BQ.1」3.6% (「BA.5」に変異加わる)
▽「BA.2.75」3.2% (「BA.2」に変異加わる)
▽「BA.2」1.3% (2022年春~夏に主流)
▼【「XBB.1.5」0.3%】
▽「XBB」0.2%となっています。
新型コロナの変異ウイルスの遺伝子などを調べている東京医科歯科大学の武内寛明准教授などのグループによりますと、「XBB.1.5」は東京医科歯科大学病院の入院患者からは検出されていないということです。

1月9日までの2週間あまりの間に入院患者13人の新型コロナウイルスの遺伝子を解析したところ、いずれもオミクロン株の
▽「BQ1.1」が3人から、
▽「BF.7」が3人から、
▽「BN.1」が5人から検出されましたが、
▼【「XBB.1.5」】は検出されなかったということです。

13人の患者は、多くが60歳以上で持病がありましたが、重症化した人はいなかったということです。
武内准教授
「いまのところ、『XBB.1.5』はすぐには広がる状況ではなく、日本での次の感染再拡大の主流になるかは分からない。複数の系統のウイルスが混在する状況が続くのではないか」

感染の再拡大につながるのか

「XBB.1.5」が今後さらに流入するとどうなるのか。京都大学の西浦教授は警戒感を示しています。
西浦教授
「『XBB.1.5』は、これまでのワクチン接種や感染したことによって獲得した、中和抗体による免疫の力を、広く回避する傾向がある。現在、国内の感染は減少傾向に移行しているが、『XBB.1.5』は、再び、新たな流行を起こすリスクがあると考えられる」
海外の感染状況に詳しい東京医科大学の濱田篤郎特任教授は、今後、日本でも徐々に「XBB.1.5」への置き換わりが進む可能性は十分あるとみています。

濱田特任教授
「アメリカでは感染者数が増えているというわけではなく、『XBB.1.5』が検出される割合が増えているという状況だ。最初はニューヨーク州など東部で多かったのが、西部にも広がってきている。拡大する速度はそれほど速くないようだ。広がっていることは確かなので、時間はかかるかもしれないが、ヨーロッパや日本でも『XBB.1.5』に置き換わっていくことは十分に予想される。置き換わりが進むことで感染者数が急激に増えないか、アメリカの様子も含めて、今後も様子を見ていかないといけない」

“オミクロン株対応ワクチンの接種を”

また、今後の感染状況への影響について、感染者数が再び増えることは想定しておくべきだとしています。

濱田特任教授
「日本では第8波がピークアウトしてきているという見方が強くなってきているが、1日あたり数万人の感染者が出る状態は続くだろう。『XBB.1.5』が本格的に入ってくると『第8波』が長引いたり、いったん感染者数が減ったあとで『第9波』になったりする可能性はある。海外の状況を踏まえると、それほど大きな波にはならないのではないかと思われるが、減少傾向だった感染者数が再び増えることは、ある程度、予想しておいたほうがいいと思う。中和抗体があまり効かないようだが、ワクチンがまったく効かないというわけではない。オミクロン株対応ワクチンを接種して、免疫を高めておくことが大切だ。重症化を防ぐためにも、追加接種をまだ受けていない人は早めに接種してほしい」