人工妊娠中絶の権利訴えデモ行進 50年前の判断覆し全米で対立

アメリカのニューヨークでは、連邦最高裁判所が50年前に示した判断が去年覆された人工妊娠中絶について、女性の権利を取り戻すべきだと訴える大規模なデモが行われました。

1973年にアメリカの連邦最高裁判所が「中絶の権利は憲法で保障されている」とする判断を示した1月22日は、アメリカで女性の権利が最も意識される日とされ、ことしは50年の節目にあたります。

しかし、去年6月に最高裁がこの判断を覆したことで、全米で意見の対立が激しくなっています。

アメリカ各地では22日、中絶という女性の権利を取り戻すべきだと訴える人たちが大規模なデモを行い、このうち、ニューヨークでは、およそ500人がマンハッタン中心部の3.5キロあまりを行進しました。

参加した41歳の女性は「女性の権利は人権にほかならない。権利が攻撃されている現状を容認しないと、声を上げることが重要だ」と話していました。

この週末には首都ワシントンなどで「中絶は全米で禁止されるべきだ」などと規制の強化を訴える集会が開かれるなど、この問題をめぐるアメリカの分断が深まっています。

副大統領「すべての女性の自由を守るために」

ハリス副大統領は22日、南部フロリダ州で行った演説で、この判断が去年、最高裁で覆されたことについて「うんざりしたり、くじけたりするのではなく、すべての女性の自由を守るために立ち上がろう」と呼びかけました。

そして、野党・共和党の中で中絶禁止を加速させようとする動きがあるとしたうえで「すべての州の、すべての女性の権利がかかっている。無関係でいられる人などいない」と述べ、バイデン政権として中絶の権利を守るための努力を続けていくと強調しました。

「何が起きているか調べて」SNSで呼びかけ

ニューヨークで行われたデモには女性の権利を守ろうと若手の女性起業家たちも参加しました。

そのうちの1人、ナディア・オカモトさん(24)。環境に優しい素材でできた生理用品をネットで販売するスタートアップ企業「オーガスト」のCEOです。

オカモトさんは若者に人気のSNS、TikTokを活用。400万人以上のフォロワーに対し、生理用品の特徴などを説明する動画を投稿しています。

人工妊娠中絶について最高裁の判断が去年、覆ったことは、オカモトさんにとって大きな衝撃でした。それ以降、SNSを使って若い世代に今起きていることの問題点を訴えることによりいっそう力を入れています。

オカモトさんは「自分の州で何が起きているのか調べてください。半分ほどの州で、直ちに中絶が禁止されたり、中絶を受けると犯罪になったりするおそれがあります」とSNSで呼びかけたうえで「私には自分が学ぶだけではなく周りの人たちに知識を広めていく責任があります」などと話していました。

中絶の原則禁止は12州に

アメリカでは長年にわたり、人工妊娠中絶は母体の健康が危険にさらされている場合などを除いて違法とされてきましたが、1973年、連邦最高裁判所は「中絶は憲法で認められた権利だ」と判断しました。

それ以降、人工妊娠中絶は女性の権利として広く認められてきました。

しかし、去年6月、保守派の判事が多数派のアメリカの連邦最高裁判所は50年前の判断を覆し、中絶を規制するかどうかの権限が各州に委ねられました。

これを受けて共和党の知事の州を中心に中絶を厳しく制限する動きが相次いでいます。現時点で、原則禁止とされている州は、12州にのぼっています。

アメリカでは人工妊娠中絶をめぐっては中絶は女性の権利だとするリベラル層を中心とした考え方と、保守派に根強い中絶に否定的な考え方で世論は二分されてきました。

去年6月の連邦最高裁の判断について直後に行われた世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」の調査では、62%の人が中絶は合法であるべきだと答えた一方、違法であるべきだという人も36%いました。

望まない妊娠を防ぐ取り組みも

最高裁の判断が覆ったことで中絶を厳しく制限する州が増える中、望まない妊娠を未然に防ごうという取り組みを行っている企業もあります。

ニューヨークのスタートアップ企業、「レダヘルス」は性行為後に服用することで妊娠を防ぐ緊急避妊薬の手配をスマホ1つで迅速に行うことができるシステムを開発しました。

CEOのマディソン・キャンベルさん(27)は大学生の時、みずからが性的暴行の被害にあったことを受けてこの会社を立ち上げました。

アメリカでは緊急避妊薬は処方箋なしで薬局などで購入できますが、キャンベルさんによると性的暴行などを受けた人はショックから薬を買いに行ったり、病院に行ったりすることができず、手遅れになって妊娠してしまう人も多いということです。

大学や地域の支援団体がこの会社とあらかじめ提携していれば、被害者がシステムのサイト上で簡単な質問に答えるだけで緊急避妊薬をすぐに無料で手配し、2時間以内に自宅まで届ける仕組みになっています。

キャンベルさんは、去年、最高裁の判断が覆って以降、このサイトを1人でも多くの人に知ってほしいと、大学生のグループなどに積極的に話をする機会を設けています。

キャンベルさんは「妊娠6週目以降になると、別の州に行かなければ中絶できないケースが増えたため、72時間以内に、無料で緊急避妊薬を飲むことができることが重要なのです。難しい問題の解決にはデジタルがカギになると信じています」と話していました。