【動画】“炊き出し”並ぶ人は3年前の2倍に 若者も 東京 池袋

「きちんと歩んできたのに踏み外してしまったら、いままで積み上げてきたものも関係なく落ちてしまう」。

ある30代の女性のことばです。彼女に出会ったのは生活が困窮した人に弁当などを配る“炊き出し”の会場でした。彼女は大学院を卒業しこれまでコツコツ真面目に働いてきました。しかし新型コロナウイルスの影響で職を失い、“炊き出し”に並ぶようになったといいます。

私は新型コロナウイルスが流行した2年前の年末から東京・池袋の“炊き出し”会場を取材してきました。並ぶ人は増え続け昨年11月には最多となる542人が列を作りました。

長く続く列を見ていて気付いたことがあります。「スーツ姿に革靴のサラリーマン」「身なりを整えた女性」「元気な若者」この1年は物価高の影響もあり、以前は見られなかった働き盛りの世代や女性が並ぶようになっていたのです。

いったい何が起きているのか。コロナ禍3度目の冬。“炊き出し”の現場から聞こえる声に耳をかたむけました。

(報道局映像センター・カメラマン 小玉義弘)
※動画は5分9秒、12月に放送したものです。データ放送ではご覧になれません。

表情を変える池袋の公園

11月下旬。池袋のランドマーク、「サンシャイン60」の隣にある東池袋中央公園ではアニメのコスプレイベントが開かれていました。公園に響くアニメソングのなか鮮やかな赤や青の衣装をまとったコスプレイヤーたち100人余りが楽しむ池袋らしい休日の風景です。
しかし雰囲気が一変する日があります。「最後尾はこちらです。弁当は全員に配りますので慌てずに並んでください」。午後6時、暗くなった公園が数百もの人影で埋め尽くされます。

集まった人たちの並ぶ先にあるのは「弁当」。
NPO法人が月に2回行う“炊き出し”です。

並ぶ人は増え続けている

昨年11月。気温が5℃と冷え込んだ日に並んだのは過去最多の542人。
ボランティアからもらったカイロを握りしめ順番が来るのをじっと待っていました。

NPOが炊き出しを始めて20年。市民からの寄付や行政の支援金などで活動しています。元はこの場で調理をしてふるまっていましたが、感染対策のため弁当に切り替えました。

並ぶ人は年を追うごとに少しずつ増え続け、新型コロナウイルスの影響でさらに急増。3年前のおよそ2倍に膨れ上がっています。

街に少しずつにぎわいが戻ってきたこの1年ほどの間にも、この場に集まる人は増え続けています。

なぜなのでしょうか?

若い世代も“炊き出し”に

並ぶ人たちを見て気付いたのは、スーツに革靴、スカートにコートなど身なりを整えた、一見すると生活に困っているとは感じられない30代から40代の若い世代が増えたことです。

<40代男性>
キレイな白のスニーカーに人気ブランドの洋服を着た男性。炊き出しには3か月前から通っているそうです。炊き出しに並ぶ理由を聞いたところ意外な答えが帰ってきました。

「仕事はしています。正社員です」。

炊き出しのイメージはその日食べるものがないくらいに困窮した人が並ぶと思っていた私は驚きました。弁当は必要ないのでは?と聞いてみたところ、「この3年間、少しずつ少しずつ給料が減り続けています。どこまで減るのか全く先が見えない」と話してくれました。

男性は1人暮らしです。最初は給料が減るのはしかたないと感じていましたが、3年たっても減り続ける現状に将来への不安を感じています。
「いまも厳しいです。でもこの先さらに厳しくなったらと考えると、生活していくためには今のうちから節約しなければならない」。

<30代女性>
高齢の両親と暮らしパートで働く女性は、受け取った弁当を親と分けて食べているといいます。「いまは私のパート代と親の年金でなんとか暮らせています。この先、いつリストラされるかわからない。今後、高齢の親の介護もあるかもしれない。毎日、不安でビクビクしながら生きています」と話してくれました。

<40代夫婦>
夫婦で並んでいる人もいました。結婚して数年の夫婦は、派遣として働く夫の職が安定しないことを心配しています。「派遣で働いていましたが急に契約を切られました。派遣を切られるたびに生活が苦しくなる。弁当は生活費の足しですよね。貯蓄を増やして家族に安心した生活を送らせたい」。

事情を話してくれた人の多くは、仕事をしていても給料が減ったことや、リストラへの不安を口にしていました。長引くコロナ禍や物価高に不安を感じている現役世代が、炊き出しへと足を運んでいるのです。

転職を目指したのに…

生活への不安を乗り越えようと、転職を目指した人が“炊き出し”に訪れる場合もあります。

<Aさん 35歳女性>
会場の片隅でNPOの職員と話す女性に出会いました。この日初めて公園を訪れたAさん、35歳です(仮名)。
4か月前に仕事を辞め、知人の家に居候していました。この日たまたま公園を通りかかり相談に訪れたといいます。弁当を受け取るつもりはありませんでした。「私はまだ仕事を選ばなければ再就職できると思っています。私よりせっぱ詰まった人は多くいるのでそのような人が受け取るべきだと思います」。

きちんと歩んできたはずなのに

Aさんは国立大学の大学院を卒業し、化粧品メーカーで研究職として働いてきました。しかしマスクの着用で化粧品の売り上げが減り会社の業績が悪化、給料が減少し、貯蓄を切り崩す生活が続きました。まだ余裕があるうちに生活を持ち直そうと転職を決意しました。

出費を抑えるために住んでいたマンションを解約し、知り合いの家に身を寄せ再就職先を探していました。感染拡大にも影響が少ない業種を中心に再就職先を探していますが、経験がない仕事で、なかなか採用につながらずにいました。

そんなAさんに相談員がかけたのは厳しいことばでした。

「もう貯金がなくなったら生活保護ですよ。」。

思いもよらなかった生活保護ということばにとてもショックを受けている様子でした。

「すぐにでも再就職を決めて生活を立て直します。もうこの公園には来ないと思います。」そう言って帰って行きました。

その後Aさんにメールを送っても返信はなく、連絡はとれなくなりました。

同じ境遇を体験したボランティア「再び僕が並ぶかも」

Aさんと同じような経験をした人がいます。炊き出しのボランティアをしている服部さん(29)です。服部さんは一昨年の夏まで炊き出しの列に並ぶ1人でした。「もらえる弁当がとても温かくて。それがすごうれしくて。恩返しがしたいとボランティアに参加しています」。
飲食店で店長を任されていた服部さん。新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化し客が全く来ない状況が続くなか、不安から異業種への転職を決意し退職しました。しかし体調を崩して半年間療養、その後、再就職に向けて動きだしました。

まだ20代の働き盛り、すぐに仕事が見つかると思っていたといいます。
「100社は受けました。でも全く受からない。自分を否定されたようで落ち込みました」。

3か月後、ようやくIT関係の会社に契約社員として働くことになり、“炊き出し”に並ばなくても暮らせるようになりました。

ここ最近、感染が再拡大するなかで服部さんは並ぶ人たちをみて感じることがあると言います。「列には僕と同世代の人が増えてきている。いまは誰でも並ぶ可能性があるんです。普通に暮らしていた人が弁当をもらうために列に加わるんです」。

この日の“炊き出し”のあと、残った弁当を見ながら服部さんが話しました。「次の“炊き出し”には再び僕が並んでいるかもしれない。一度並ぶとその不安は一生拭えません」。

1か月後の炊き出しで

去年の12月24日、クリスマスイブで池袋の街はにぎわっていました。

一方、“炊き出し”を行う公園にも500人を超える人たちが列を作っていました。そのなかに「もうここには来ない」と話していたAさんの姿もありました。
声をかけるとこわばった表情で「まだ仕事は決まっていません。居候させてもらっている知り合いが引っ越すことになり数日以内に出て行かなければなりません」。

貯蓄は残りわずか。NPOが用意するシェルターと呼ばれる期限付きの住宅に住むことになりました。

弁当を受け取り駅へと向かう帰り道。Aさんは力なく話しました。
「きちんと歩んできたのに踏み外してしまったら今まで積み上げてきたものも関係なく落ちるんだな」。

別れ際、Aさんにいま一番欲しいものは何か尋ねました。
「ずっと居ていい場所。追い出されない場所が欲しい」。