それ、NGアクションかも…妻が妊娠 夫は何を?出産の準備は?

それ、NGアクションかも…妻が妊娠 夫は何を?出産の準備は?
“ダメな父親になりたくない”

ネットで「夫の心ない言葉に傷ついた」という書き込みを見ては心苦しくなり、妻への言葉選びも慎重を心がけている。

でも、妻の妊娠・出産では、勉強不足でわからないことだらけ。いったい、どうしたら?

悩める取材班が調べてみました。

「帝王切開が“楽”ですって!?」

今月、ツイッターで拡散された言葉がありました。

 “帝王切開” “楽”

妻が帝王切開したという人が投稿すると、出産を経験したという女性たちから「どの出産も命がけ」、「経験していないのに言うな」などと批判が相次ぎました。

取材班が調べてみると、妊娠や出産をめぐっての心無い言葉については、以前から時折、話題になっていました。

男性以外にも、帝王切開を経験していない女性から「楽でよかったね」と言われたという投稿や、義理の母親からの「帝王切開は楽で甘えでしょ」と心ない言葉にショックを受けたという投稿も見られました。
「私は親子で死にかけましたよ!」

こう反応したのは、同僚の女性記者でした。6年前(2017年)に第一子を出産した秋元宏美記者です。自らの経験を語ってくれました。
当時、つわりがひどく、妊娠7か月に入った頃に破水し、急きょ、NICU=新生児集中治療室のある病院に搬送されました。そして、28週目。
「緊急手術が必要です。今すぐ帝王切開をしましょう」
医師から告げられ、両親や夫に連絡をしましたが、駆けつけてもらう間もなく、たった1人で手術室に移されました。

生まれた娘は1500グラム未満の「極低出生体重児」でした。

“怖かった。独りだった。こんな産み方になるなんて、私がいけないの…?”と、自分を責めることさえあったといいます。

さらに、出産を終えると、体のありとあらゆる所に不調が現れました。

髪の毛が抜け、湿疹も出て、切ったお腹が痛くて立っていられない。目で活字を追うのもままならないし、授乳で寝られないし。

夫が仕事が忙しいのは知っている。でも、寝ているのを見るだけで腹が立っていました。
秋元記者
「この時期は、自分の体が自分であって自分でなくなる不思議な感覚で、ものすごく不安になったり幸せな気持ちになったり、アップダウンが大きくて、まるで体調・感情がジェットコースターのようでした」

妻が、泣いていた

「十分に寄り添えていませんでした…」
こう話したのは取材班の吉村啓記者でした。
3年前、妊娠34週目の検診で、子どもが「さかご」のままだと分かり、帝王切開することになりました。

帰宅後、部屋で妻が1人で泣いていました。

開腹する際の出血や残る傷。合併症のリスク。新型コロナの影響で立ち会えない出産。どんどんと不安を募らせていました。

私(吉村)は恥ずかしながら、理解が足りていませんでした。

出産や赤ちゃんのことについて、自分なりに学んでいたつもりでした。

しかし、妻のことをいたわることができていなかったのではないか。

涙を流しながら私に訴えていた妻の姿を忘れられません。今でも後悔しています。

妊娠・出産期は心身に大きな変化

「妊娠すると、赤ちゃんを敏感に感じられるよう、出産後の生活に向けて体は変化を始め、感情のしきい値も下がります。心身の変動の激しい時期なのです」
妊娠・出産・産後の心身の変化についてこう指摘するのは、母性看護学を研究している東京情報大学の市川香織 教授です。
心身の変化は妊娠の初期と後期、産後など、時期によって異なり、『初期』では、個人差が大きいものの「つわり」によって妊娠を本格的に自覚し、うれしさや戸惑いが入り交じり、『後期』になると出産後の授乳に向けて睡眠のリズムが変わって夜間に熟睡できなくなり、不安を抱えやすくなるといいます。

“陣痛に耐えられるのか”
“自分に子育てができるのか”
“誰がサポートをしてくれるのか”

こうした妊娠の時期の不安が、のちの「産後うつ」につながるリスクもあるということです。
市川教授
「産後うつになる人の半分ぐらいは、妊娠中からメンタル的な落ち込みを感じていて、その意味では“周産期うつ”と言ったほうが正確です。大事なのは、自分の抱えるモヤモヤを吐き出せる機会があること、それに、パートナーがちゃんと自分の言葉を理解してくれて、時には代弁してくれていると思えることです。妊娠中から互いにコミュニケーションを密にやりとりできれば、産後も女性がSOSを出しやすくなります」

相談できない男性たち

重要なのは、パートナーと密にコミュニケーションを取ること。

しかし、ある調査からは、妊娠期間中の女性と男性では意識や行動にギャップがあることがうかがえます。

愛知県を中心に複数の産婦人科などを経営している医療法人が、2017年に2歳以下の子どもを持つ男女400人を対象に実施した調査結果です。

「妊娠中にパートナーのことで悩んだ」と答えた人の割合は、男性は38.5%だったのに対し、女性は50.0%と半数を占めました。
一方で、妊娠期間中に悩みを誰かに相談したかどうかについて、「誰にも相談していない」と答えた割合は、女性が29%だったのに対し、男性は54%、およそ2人に1人にのぼりました。

反省いかし漫画で経験発信

出産に立ち会った時の失敗談など、みずからの経験を役立ててもらいたいと、漫画を通じてSNSなどで発信している男性がいます。
作者のパパコマさんは、今も2人の育児に奮闘しているサラリーマンです。
漫画家・サラリーマン パパコマさん
「出産や入院の準備を妻に任せっきりだったため、当日になって陣痛アプリの使い方やストローキャップの付け方などがわかりませんでした。実際に陣痛が始まると妻は会話をする余裕もなく、意思疎通が難しくなり、腰や背中をさすってあげる加減がうまくいかなくて、妻の希望通りに動けなかったです」
コミュニケーションでの反省も。
「出産は人によってかかる時間も方法も違います。あらゆる事態に対応できるよう、事前に知識を学んでおくことが必要だと思いました。当日はパートナーとコミュニケーションがとりづらくなるので、事前に話し合っておく必要があると思います」
その上で、パートナーどうしで共通の認識を持つことや、相手への感謝の気持ちを行動で示すことが大切だと考えています。
「男性側が『自分事』だと意識し、パートナーの妊娠時から妊娠、出産、育児について調べて、みずから動くという自主性を持つことが必要だと思います。言葉で『頑張る』とか『ありがとう』と言うのは簡単なのですが、知識を持って行動することでその感謝を伝えてもらいたいです」

何が正解なんだろう…

今回の取材班には、1年前に第一子となる長女が生まれた記者(太田朗)もいました。
日頃、ネットで「夫の心ない言葉に傷ついた」という書き込みを見ては「ダメな夫になりたくない」と思い、自分の中に『NGワード』を増やすなど言葉選びには慎重になっているつもりです。

妻の妊娠がわかった当時、パパママ学級への参加や、知識を得るためにネットで調べるなど、出産までの期間にいろいろ取り組んでいました。

ただ、何が正解かわからない。これで本当にいいのだろうか。ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていました。

これからパパになる人の参考になるかもしれない。当時の自分の姿を振り返るため、父親の子育て支援などに取り組むNPO法人「ファザーリング・ジャパン」に話を聞いてみました。

これからパパになる人のためのQ&A

Q:知識がないので本を買っていましたが、多くの選択肢があって当時はどれがよりよいのか迷いました。どのように取り組めばよいでしょうか?
一番は、パパママ学級のような、これから父親になる人に向けて作られている講座などに参加することです。オンライン開催の場合でも、一方的な配信のような形ではなく、質問ができたり、出産直後のパパと交流してリアルな話を聞けたりするほうがいいですね。対面で実技があったほうがいいです。特に、ママが出産して退院したあとからが大変。そこに向けた内容が充実しているものがオススメです。
Q:妻が妊娠中にすぐできることはありますか。
これも産後に向けた準備ですが、ママがやっている家事を同じレベルでできるようにすることですね。1日3回の食事作りと洗濯と掃除。特に食事は大事ですので、出産までに3日分の献立を考えて、買い物して作ることができるようになりましょう。
Q:妊娠中、妻が神経質になってしまうときがあり、接し方が難しかったです。どうすればよいですか?
実はそんなに難しいことではないんです。たとえばママが「きょうは母乳の出が悪かったんだよね」と言いかけたときに、すぐ「病院で診てもらえば」と言っていませんか。絶対にやってはいけません。ママはアドバイスがほしいわけではなく、話を聞いてほしい。話を遮らずに最後まで聞いて「そうだよね」と同意しましょう。理解しようとする姿勢を見せることが大事です。
Q:早く問題を解決したいとだけ思うと、よくないですね。でも、何だかいろいろと大変じゃないですか?とてもじゃないけど、そこまで出来ないという人もいそうですが…。
大変ですよね。パパたちはいろいろなことを考えて気も遣って大変だと思いますし、理不尽だと感じることもあるかもしれません。ただ、その状態がずっと続くわけではないので、そこで「なんで」と考えるのではなく、今はそういう時期だと受け止めるのが一番いいと思います。ママが赤ちゃんと心地よく過ごせるようにサポートすることがパパの役割。しっかり知識をつけて向き合ってほしいですね。パパも大変なときは親や産後ヘルパーなどの助けを借りてほしい。頑張りすぎず子育てをすることが一番です。
事前にしっかり知識をつけて準備を整えておくことで、大変な時期を迎えたときも「ああ、その時が来たのか」と冷静に受け止めて、乗り越えることができるのかもしれません。

NGアクションに注意

ファザーリング・ジャパンでは、子どもが生まれてくる前の「プレパパ」に知ってほしいことをまとめたリーフレットを作成。

具体的にどのような行動をすればいいのか、そこから一例をご紹介します。
<NGなアクション>

妊娠中は…
▽ママが産むのだから「自分にできることはない」と寄り添わない。

▽帝王切開で出産した場合に「手術で楽に産めてよかったね」と言う。

<取るべきアクション>


妊娠中は…
▽医師の説明を一緒に聞きに行く。

▽一緒に出産する気持ちで聞く。

産後は…
▽ママの話を聞く。よけいなアドバイスは不要!ただ聞くだけで十分。

▽ママの睡眠を確保。

パパ専用の妊娠スケジュールアプリも

男性をサポートするアプリも生まれています。

例えばこちら。
出産予定日を設定することで、日々変化する胎児の成育状況をイメージしたイラストが表示されたり、時期に応じて取るべき行動のアドバイスが表示されます。

育児休暇の制度などにまつわる記事なども更新しています。

アプリを開発した会社の担当者によると、利用を開始した7年前は出産や育児に対する男性の理解が今ほど高くなく、妊娠中の女性に配慮が見られない言動が目立っていたといいます。
<例えば…>
▽ママの体調の変化に気付かず飲み会へ。

▽意識の低さを伺わせることばづかい。
例:「つわりは気のせいでは?」
  「育児を“手伝う”よ」
そのため、アプリではこうした失敗談も積極的に共有しているということです。
男性どうしでも悩みを語り、育児の輪が広がる世の中になってくれたら。

わが身を振り返りながらの取材でした。

(ネットワーク報道部 太田朗 吉村啓 杉本宙矢 谷口碧)