女性のひきこもり 見過ごされてきた声

女性のひきこもり 見過ごされてきた声
「高齢者施設の利用者に体を触られ、仕事が続けられなくなり、ひきこもるようになりました」
「結婚=ゴール、子どもを持つ=幸せ。それができない人は普通の女性として生きていけないのか、いつも疑問に思います」
長い間、主に男性の問題と考えられてきた「ひきこもり」。
しかし最近、支援機関には、ひきこもりの女性から切実な声が寄せられるようになっているといいます。
その声に耳を傾けると、誰にでも起こりうる状況、そして社会の“ゆがみ”ともいえるものが浮かび上がってきます。
(仙台放送局 ディレクター 野口紗代)

「まだ実態が見えていない」女性のひきこもり

今回、私が取材を始めたきっかけは、仙台にある支援機関に女性からの相談が増えていること、そして、ひきこもりの女性を対象にした支援の取り組みが行われていることを知ったことでした。

相談にのる支援機関の担当者は、女性のひきこもりの背景には、社会的な役割の変化があるのではないかと指摘します。
仙台市 ひきこもり地域支援センター 秋田麻美子さん
「女性が社会に出ていくとか、女性も仕事をして輝いていくということもプラスされた世の中になったと思います。その中でもともと生きにくさを持っている女性たちが、その生きにくさプラス仕事もしないといけないとか、自立のプレッシャーをすごく感じる世の中かなと思います」
女性のひきこもりについて、実態はよく分かっていません。

平成30年度、国は40歳から64歳を対象に調査を行いました。
すると、ひきこもりの定義(「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人と交流せずに6か月以上続けて自宅に引きこもっている状態」厚生労働省)に当てはまる人のうち、専業主婦(夫)が12.8%、家事手伝いが6.4%と、女性のひきこもりの一端が浮かび上がりました。

しかし、支援にあたっている人たちの中からは、専業主婦や家事手伝いだけではなく、学生や仕事はあるのに家から出られない人など、女性のひきこもりにはさまざまな状況があるという指摘も出ています。

きっかけは仕事、家族 寄せられた声

当事者の皆さんは、どんな体験からひきこもるようになったのか。

そして、どんな思いを抱えて日々を過ごしているのか。

今回、私たちは専用の投稿フォームや支援機関を通じてアンケートを依頼する形で、その声を集めることにしました。

なるべく多くの体験や思いを共有し、そこに一つでも多くの共感が集まってほしいと考えたからです。

呼びかけると、30人ほどの方が声を寄せてくれました。
(宮城県 30代)
「20代の時、専門学校に通って猛勉強し、福祉関係の資格を取得しました。その後、高齢者施設で働き始めましたが、ミスをすると利用者の命に関わるというプレッシャーに次第に押しつぶされるようになりました。加えて男性利用者から体を触られる被害にもあい、仕事を続けることができなくなりました。せっかく頑張って資格をとったのに…絶望感からひきこもるようになりました」
(山形県 40代)
「19歳の時に母が亡くなってから10年間ひきこもりました。母は教育熱心で、私がテストで98点を取ってもなぜ2点取れなかったのかと怒るタイプでした。母との関係が苦しかった。もっと自分を認めてほしかったし、愛されたかったし、抱き締めてほしかった」
(宮城県 60代)
「職場で昇任試験が始まってチャンスだと思って勉強しましたが、受かって出世するのは男性が多く、女性は評価されないのではないかと疑心暗鬼になりました。これ以上頑張っても上にはいけないという“ガラスの天井”を感じ、気力を失い、ひきこもるようになりました」
家族との関係、職場でのハラスメント、将来への不安、女性が活躍しにくい古い体質の社会…

ひきこもりのきっかけは、それぞれが異なっていました。

また複数の要因が絡み、心と体のバランスを崩した方もいました。

ひきこもりの女性が“集える場所”を

今回寄せていただいた声に一緒に向き合い、「女性のひきこもり」について意見をもらったのが、「ひきこもりUX会議」の代表理事で、自身もひきこもりの経験がある林恭子さんです。
2016年から「女子会」と題した、ひきこもりの女性が気兼ねなく参加できる会を開いてきました。

これまで全国170か所余りで開催し、延べ5000人近くが参加しています。

まず林さんが触れたのが、当事者が抱える孤独な思い、そしてそれが見過ごされてきたのではないかという危機感でした。
ひきこもりUX会議 代表理事 林恭子さん
「女子会を開いてみて、最も多いのが『自分だけじゃなかったんだ』『同じような思いを抱えている人がこんなにたくさんいたんだ』というものです。私もかつてそうでしたが、『こんなバカなことをしているのは世界中で私ひとりだけだ』と、当事者の方は思うんです。“女性のひきこもり”は、非常に増えてきたという感覚はありますが、それは人数が増えているという意味ではなくて、これまで見えてこなかった姿が見えてきた、ということだと思います」
そのうえで、ここ数年はコロナ禍で夫やきょうだいがテレワークなどで自宅にいる機会が増えたことで、家族の緊張が高まるケースがあること。

それがDVにつながり、つらい思いをしている女性もいることを指摘しました。

“20年ひきこもり” 当事者が直接訴えたかったこと

今回、投稿フォームから声を寄せてくれた人の中の1人が、50代の専業主婦「はむたさん(仮名)」です。

2000年ごろから最近まで、ひきこもりだったといいます。

そのはむたさんと番組の収録の中で電話をつなぎ、林さんとともに、その声に耳を傾けました。
はむたさん(50代)
「ずっと結婚しているんですけど、周りに誰も知っている人もいなくて、ずっと家にいて、家から出られない感じが続いてきました。でも外には出ようとするんです。例えば、アルバイトしたいと思って応募すると、『主婦はダメだから』みたいなことを言われるんです。『主婦は世間知らずだから』みたいな。弱い立場にいると思って、たたきやすいんでしょうね。それで、ああ、自分はダメだと思っちゃって」
林さんは静かにうなずきながら、自身のひきこもり体験を交えて、はむたさんに語りかけました。
林恭子さん
「周りの人って普通を押しつけてくるというか。あるべき姿みたいなものを、自分だけじゃなくて、その周りの人にも求めてくることがあるんです。私も20代30代の時、今のはむたさんのように感じていたことがあったんです。その時、ああ、この人たちが私の人生の責任をとってくれるわけじゃないんだって思った瞬間があったんです。いろんなことをいろんな人が言ってくるけれども、結局この人たちは私の将来の面倒を見てくれるわけではない。そう思えた時に、少し周りを気にしないで行こうと思えるようになりました」
さらにはむたさんが話したのは、夫以外の人とつながることができず、孤立した自身の現状。

「どこにも属していない、寄る辺のない状態」だといいます。
はむたさん(50代)
「結局、誰ともつながっていないし、誰からも助けもないし、寄る辺がない感じがすごくあるんです。どれだけ夫との仲が悪くても、結局そこでどうにか踏みとどまるしかなくて。本当に最終的に夫と別れるっていうことになったら、私ホームレスになるんじゃないかと思ったんです。孤立しちゃうと、どんどん無力感が募るんです。誰も頼る人がいなくて、どんどん挫折していって、結局声を上げる力も失っていく。それで、存在が見えなくなっていく。見えないから、問題はないものとみなされていくというのはすごく感じます」
はむたさんのひきこもりは、2000年ごろから最近まで20年ほど続いたといいます。

しかし引っ越して、新たな土地で暮らし始めたことがきっかけで、今では少しずつ外に出られるようになったといいます。

それを聞いた林さんが、ゆっくりとことばをかけました。
林恭子さん
「よくここまできてくださったと思います。生きて、生き延びて、私たちとここで、こうやってお話できてうれしいです」
そして電話の最後、はむたさんはひきこもりの当事者の人たちに伝えたいことがあると、声を詰まらせながら、話してくれました。
はむたさん(50代)
「声をあげようって。みんな声をあげようよって言いたかったです。今、その、何も言えなくなってる人たち、なんとか声をあげようよって。その一心です」

「普通に接してほしい」“ひきこもり100万人時代”に私たちは…

国の推計で、全国に100万人以上いるとされるひきこもりの人たち。
「私は関係ない」と思っている人でも、親しい人がひきこもったり、自分自身が何かをきっかけに、そうした状態になったりすることもあるかもしれません。

今回の最後、林さんはこう話してくれました。
林恭子さん
「ご家族や地域の方も含めて、ひきこもりの当事者の方にはできるだけ普通に接してほしいと思います。ひきこもりであるということは実はその人の一部にすぎないんです。ですからひきこもりの人に相対するんだ、と思うのではなくて、なになにさんと話しているだけだという形で、普通におはようとか、どこか出かけていくの?というような、ごく普通の声かけをしてくれるのがいちばんありがたいんじゃないかなあと思います」
そして、今、ひきこもっている一人一人が、必死に自分自身の心と向き合い続けていることを知ってほしいと話しました。
ひきこもりUX会議 代表理事 林恭子さん
「ひきこもりの状態にある人は、頑張って頑張って頑張って、これ以上無理だっていうところまで頑張ったはてに、自分の命を守るためにひきこもっているんだと私は思っているんです。それをわかっておいていただけると、プレッシャーをかけるような働きかけや声がけはできないと思うんです。ギリギリまで頑張っている人なんだっていうことがわかれば、周りの人から出てくることばもおのずと変わってくるのではないかなという気がします」

一人一人異なる状況 決して“自己責任”ではない

今回、NHK仙台のホームページや支援団体を通じて、当事者の皆さんからの声を寄せてもらいました。

そのすべてに目を通し、改めて強く感じたことは、「ひきこもり」を取り上げるときに必ず聞く“自己責任”ということは、決してあたらないということです。

だからこそ、寄せられた声には「共感」がある。

ひきこもっているのは、自分だけではない、こうした思いを抱えているのは私だけではないのだと。

それがゆっくりと「共有」され、広がっていくことを目指して、引き続き取材に取り組んでいきたいと思います。
仙台放送局 ディレクター
野口紗代
2020年入局
生きづらさを抱えた若者、不登校の問題などを継続的に取材
東日本大震災に関連する番組も数多く制作