かつての輸出立国がなぜ? 去年の貿易赤字19.9兆円で過去最大に

財務省が発表した去年1年間の貿易統計は、原油などエネルギー価格の上昇や記録的な円安の影響で輸入額が膨らんだことから、過去最大の貿易赤字となりました。

去年1年間の貿易統計で、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は19兆9713億円の赤字となりました。

赤字額は前の年(2021年)よりも18兆円余り増えて、1年間の貿易赤字としては、比較が可能な1979年以降で過去最大となりました。これまで最大だった2014年の赤字額よりも7兆円以上拡大しています。

ウクライナ情勢を背景に原油やLNG=液化天然ガスといったエネルギー資源などの価格が上昇したことに加えて、一時1ドル=150円を超える水準となった記録的な円安の影響で、輸入額が大幅に膨らみました。

去年1年間の輸入額は、118兆1573億円と前の年よりも39.2%増え、輸出額は98兆1860億円で18.2%増えています。

輸入額、輸出額ともに過去最大ですが、アメリカ向けの自動車などの輸出が増えたものの輸入額の伸びがそれを大きく上回っています。

一方、先月の貿易収支は、1兆4485億円の赤字となりました。去年8月以降、2兆円を超えていた赤字額は、5か月ぶりに1兆円台となりましたが、貿易赤字は1年5か月にわたって続いています。

中小の製造業 仕入れ価格の高騰に直面

貿易赤字が膨らんだ原因は、円安などを背景とした輸入物価の上昇です。

その影響で中小の製造業の中には過去に例のないほどの仕入れ価格の高騰に直面している企業もあります。
製造業などの中小企業が多く立地する東京 大田区。

ここに工場がある従業員40人余りの金属加工メーカーは、この1年、仕入れ価格の高騰に悩まされてきました。

海外から輸入する石炭などの価格上昇で卸売業者から仕入れる鉄鋼の仕入れ価格は去年4月から7月にかけて30%以上、上がりました。さらに電気代などの上昇もあって1か月の固定費は前の年に比べて100万円以上増えたということです。

このままでは経営が立ちゆかなくなるとして取引先の自動車メーカーと交渉した結果、去年10月からは、主力製品の卸価格を引き上げることができました。

また、急速な円安から一転して為替が円高方向に値を戻したこともあって去年の秋以降、鉄鋼の仕入れ価格の上昇は一服したということで、最も厳しい時期は脱することができたと考えています。
ただ、先行きには不安もあります。

さらに円高が進んだり海外経済が一段と減速したりして出荷先の自動車メーカーの輸出に影響が及べば部品の受注が減るおそれがあります。

金属加工メーカーの石渡良平工場長は、「受注自体は好調が続いているので、この先の見通しとしては明るい印象だ。ただ、円高基調になってくるとうちが受注できる数量にも影響してくるのでそこの見通しが難しい」と話していました。

かつては輸出立国も原発事故をきっかけに…

かつて日本は「輸出大国」として国内で生産した製品を輸出することで巨額の貿易黒字を積み上げてきました。

1980年代から1990年代にかけて日本は、半導体や自動車を世界中に輸出し、1981年以降、一貫して貿易黒字を計上。黒字額が10兆円を超える年も多くありましたが、その一方で、アメリカなどとの間で激しい貿易摩擦も引き起こしました。

貿易黒字はリーマンショックの影響で2兆円台まで落ち込みますが、さらに大きな転機となったのは2011年です。
東日本大震災による原発事故の影響で、全国の原発が運転を停止し、火力発電の燃料となる原油やLNG=液化天然ガスの輸入が急増。この年の貿易収支は、2兆5647億円の赤字となり31年ぶりの貿易赤字に転落しました。

その後、2015年まで5年連続で貿易赤字となり、中でも2014年には12兆8160億円とこの時点での過去最大の赤字額を計上しました。

その後は、年間の貿易収支が黒字となった年もありましたが、資源価格が上昇すれば貿易赤字につながるという構図が続いています。

さらに、日本の主力産業である自動車などもアメリカや中国など海外での生産が進み、以前ほど輸出が増えなくなっているという事情もあります。

去年は、原油などエネルギー資源の価格高騰に加えて、外国為替市場で円安が急速に進んだことで円建ての輸入額の増加につながりました。

その一方で、輸出はアメリカ向けの自動車などが増えたものの、輸入に比べると伸びは小さく、この結果、赤字額は過去最大を更新しました。

原発事故以降、去年までの12年間で赤字になった年は合わせて9年となっています。
去年1年間の月ごとの貿易収支を見ると1月以降、毎月赤字となっていて8月には1か月としては過去最大となる2兆8000億円余りの赤字を計上。9月以降も2兆円を超える赤字が続きましたが、先月の赤字額は1兆4484億円と前の月に比べて5800億円余り縮小しました。

海外経済の減速を背景に原油などの価格が下落傾向になっていることや、日銀が金融緩和策を修正したことで為替市場で円高が進んだことなどが要因です。

こうした傾向が続けば、輸入額が減少して貿易赤字が縮小する可能性がありますが専門家の間では、海外経済の減速の影響で輸出が伸びないことも予想されるとして直ちに貿易赤字を解消することは難しいという指摘も出ています。

貿易赤字は日本の企業や個人が経済活動を行って稼いだ富が海外に流出するだけでなく、赤字が続けば海外から資源などを輸入するのに必要なドルを調達するため、円安につながることにもなります。