これが伝統?部活動の行き過ぎた指導 “シメ” その実態とは…

これが伝統?部活動の行き過ぎた指導 “シメ” その実態とは…
「正座は長い時で1時間以上ありました」
「『死ね』とか『殺すぞ』といった暴言も浴びせられました」
熊本市内の県立高校で、ある部活動の現役部員が、先輩からの「行き過ぎた指導」通称“シメ”の実態を証言しました。
さらに高校のOBを取材すると“シメ”は、いわば「伝統」として長い間、続いていることもわかりました。
「悪しき伝統」がなぜ存在し、高校で受け継がれているのか?その実態に迫りました。
(熊本放送局 記者 太田直希・武田健吾)

表面化した 部活動での“シメ”

去年10月、県立熊本工業高校1年生の生徒がみずから命を絶ちました。

生徒の自殺の原因について、県の教育委員会は記者会見で「生徒が所属していた部活動で人間関係の悩みを抱えていた可能性が高い」などと説明しました。
しかし、これ以上は明らかにされず、現在、専門家でつくる第三者委員会が調査を進めています。

その後、高校が開いた保護者会で部活動の指導をめぐる問題について、保護者からある指摘が出されました。

部活動で“シメ”が伝統的に行われてきた。

これに対し学校側も「悪い伝統が残っていたのであれば、改善を図るための取り組みを進めていきたい」と答え、参加した保護者に対し事実上“シメ”の存在を認めました。

“シメ”とは何か? 現役部員が実態を証言

県内で伝統校として知られる熊本工業。

部活動も盛んなこの高校で行われている“シメ”とは一体何なのか?

取材を進めていくと「先輩から後輩への厳しい指導」のことで、主に部活動で「伝統」として続けられていることが分かってきました。

高校の部活動に所属する現役部員が実態を知ってほしいと、匿名を条件に取材に応じてくれました。

現役部員が語ったのは、令和の時代とは思えない、あまりに理不尽な指導の実態でした。
記者
「部活動の“シメ”とは具体的にどのようなものか?」
生徒
「部の練習以外でも人の目が届かない教室などで長いときは1時間以上、正座をさせられました。主に部活動とは直接関係のない悪口を言われて、時には『死ね』とか『殺すぞ』といった暴言も浴びせられました」
記者
「部活動の顧問や上級生は注意しなかったのか?」
生徒
「顧問は熊本工業の卒業生で“シメ”について重く受け止めている感じじゃない。知っているはずなのに見て見ぬふりをしているような感じがします。現場を見ても自分たちが下級生の時に“シメ”はあったから当たり前という雰囲気があります」
記者
「思い描いていた部活動ができているか?」
生徒
「熊本工業で部活がしたくて入学しましたが、“シメ”があるのを全く知らなくて、実際入ってみたら理不尽なことばかり言われたり、“シメ”られたりして。何のために部活をやっているんだろうと感じました。先輩がいる場所でしゃべってはいけないとか、暑くてもシャツの袖をまくってはいけないといった部のルールもあります。先輩との人間関係で悩んでいる人がたくさんいて、他人からするといじめと十分に思える状況で、本当に必要なのか考えると絶対にいらないと思います」

あいまいな定義 県が初の実態調査へ

現役部員の証言で浮かび上がった実態。

熊本県の教育委員会によると“シメ”については、はっきりとした定義はなく、調査をしたこともありませんでした。
ところが、保護者会のあと、熊本工業から“シメ”について報告があったことで、教育委員会は初めて高校に対し“シメ”の実態調査をするよう指示しました。

“時代に合わない” “礼儀を学ぶ” 寄せられた賛否両論の声

“シメ”とはいったいどんなものがあるのか、その広がりは?

こうした疑問から、私たちは広く県民に、“シメ”に関する情報提供を求めることにしました。

その結果、生徒の保護者や卒業生などからさまざまな声が寄せられました。
卒業生(30代)
“シメ”は10年以上前から、複数の部活動で行われていました。熊本工業の部活動には中学時代にスポーツなどでトップの成績を残した1年生もたくさん入部してきます。“シメ”るのは“てんぐになっている”1年生に対し、先輩と後輩の上下関係を明らかにさせてチームをまとめるためと、当時は考えていました。しかし、“シメ”はもう時代に合わないと思います。
匿名
自分も“シメ”を受けていました。先輩から「熊本市外から通う部員は毎日始発列車で登校しろ」と言われ、毎日午前4時半に起きて登校していました。午後9時ごろ練習が終わっていましたが、練習後に“シメ”があると、帰宅が午後11時ごろになる日もあり、毎日寝るのは午前1時ごろでした。
一方で“シメ”をやむをえないとか、肯定する意見もありました。
卒業生
部活動は全国大会を目指していました。先輩と後輩の上下関係が厳しいのは常識の範囲内で、熊本工業の部活動に入部する子なら多少の厳しさは覚悟しているのでは?
卒業生保護者
私の子は“シメ”のおかげで思いやりがあり、人の痛みが分かるように成長したと考えています。
卒業生や保護者からの意見には、社会人になる前の高校3年間の厳しい指導で礼儀正しさを学んだとか、今になればいい思い出だったという声も寄せられました。

受け止め方や認識は、さまざまだということもわかりました。

学校調査で明らかになった41件の“シメ”

高校が“シメ”の実態調査をはじめて1か月後、結果が公表されました。

調査は、NHKに証言した生徒が所属する部活動の現役部員を対象に、2022年度にあったものにしぼって行われました。

“シメ”を暴力や暴言などの「社会的に容認されない明らかに改善が必要な指導」と定義。

その結果、41件確認されました。

内訳は、
▽「死ね」や「殺す」といった暴言が9件。
▽長いときで3時間立たせたり、1時間正座させたりする指導が8件。
▽「部活動をする資格がない」とか「技術がない」などの理不尽な決めつけが24件。

「死ね」「殺す」という暴言や1時間の正座は、NHKに証言した現役部員が指摘した“シメ”の内容と一致していました。
熊本工業高校 柿下耕一校長
「41件という数に驚いている。生徒は部活動の顧問に相談していたが、高校の管理職にまでは共有されていなかった。顧問は部活動のOBで、自分たちも厳しい指導を受けていたので、まひというか、慣れていた部分があるのではないか」

“シメ”ということば その起源

この“シメ”ということばですが、いつの時代から、どのようして使われてきたのでしょうか?

日本語学が専門の梅花女子大学の米川明彦名誉教授に話を聞きました。
米川名誉教授によりますと、“シメ”とは漢字で『絞める』の名詞形で、「ひどくこらしめる」とか「ぶちのめす」という意味で、古くは18世紀の江戸時代に、芝居関係者が仲間内だけで通じることば、「隠語」として使っていたといいます。
そして、1990年代には漫画などで不良少年や暴走族のことばとして、広く全国で使われるようになったといいます。

さらに今から20年前には、新聞記事で“シメ”ということばが使われていました。

その記事には、茨城県の暴走族では規律を乱すと暴力で制裁を加えられる「シメ会」があり、脱会を希望した15歳の男性がその「シメ会」で死亡したと書かれていました。
梅花女子大学 米川明彦名誉教授
「閉鎖的で上下関係が強い環境では、特定の集団のなかでしか通じない『集団語』が生まれる。いわゆる業界用語というもの。『集団語』は一体感を高めたり、都合よく隠したりする時に使われる。“シメ”はまさに『集団語』として高校の部活動で広く使われるようになったと考えられる」

“強制丸刈り”は“シメ”なのか?訴訟も

熊本では“シメ”をめぐって訴訟に発展したケースもありました。

6年前、県内で伝統校として知られる県立済々黌高校の男子ソフトテニス部の1年生部員が入部直後に、先輩に頭を丸刈りにされて不登校になりました。

その男性が“シメ”は違法だとして、県を相手に熊本地裁に提訴したのです。
《原告の男性が主張した“シメ”とは》
部活動の先輩から「丸刈りはみんなやるから」などと言われて、強制的に頭を丸刈りにされたほか、人目につきにくいコートの端で「あいさつは大声でしろ」、「先輩が全員帰ったあとにコートから帰れ」などと威圧的な指導を受けた。
裁判では男性が主張していた“シメ”は認められませんでした。

しかし、この裁判の後、長年、高校で続いてきた「丸刈りの慣例」は「時代に合っていない」としてやめることになりました。

なぜ、上級生は下級生を“シメ”るのか

熊本県内の2つの高校を取材し、1つの疑問が浮かびました。

なぜ上級生は、自分が経験した“シメ”を、下級生にしてしまうのか?

これについて体罰の問題に詳しい白梅学園大学の増田修治教授は次のように説明します。
白梅学園大学 増田修治教授
「部活動の勝利至上主義のなかで“シメ”に耐えたことが上級生にとっては、部活を続けられた心のよりどころになっている。そして、最上級生になって、思いどおりに下級生を動かせる、支配できることが快感となり自分が受けた過去の“シメ”を忘れてしまう」
増田教授は“シメ”は、生徒個人の人間性が問題ではなく、「伝統」ということばに隠れて、学校に文化として根深く浸透していると指摘しています。
また、全国大会に出場するような強豪校の場合、「退部イコール退学」の側面が強く、部活を辞めたあと、その後の学校生活や就職への影響を気にして部活を辞めたくても辞められない、顧問や保護者に実情を告発しづらい状況が生まれているのではないかということです。

そのうえで、今後求められる改善策について増田教授は、次のように示しました。
白梅学園大学 増田修治教授
「学校は被害者が告発しやすい体制をつくり、加害者を反省させる仕組みを整えること。部活動の勝利至上主義の見直しと、根性論ではなく『生徒に考えさせる』民主的な部活動の運営に転換していく必要があると思う」

“シメ” 早急に対策を

取材を通して、熊本県の高校で私たちが耳にした“シメ”は、令和の時代に行われているものとは信じがたいものでした。
行き過ぎた“シメ”が41件見つかった熊本工業高校では、部活動の顧問に新たに副校長を加え、管理職にも生徒の情報を共有したり、生徒や教職員だけでなく、保護者も加わって新たな部活動のルールづくりを行ったりするなど再発防止に向けた取り組みを始めています。

理不尽な“シメ”をなくすため各学校で早急に対策を考える必要があると思います。
熊本放送局 記者
太田直希
2017年入局
岡山局を経て20年9月から熊本局で警察・司法を担当し、現在は県政を担当
熊本放送局 記者
武田健吾
2019年入局
熊本局が初任地。県警担当、阿蘇支局を経て現在は熊本市政を担当