「自賠責保険」被害者支援の新たな賦課金 自家用車は年125円に

自動車ユーザーが支払う「自賠責保険」の保険料のうち、事故の被害者支援のため新設される「賦課金」について、国土交通省は自家用車1台当たり年間125円とする方針を固めました。重い障害が残った人の治療やリハビリなどのためおよそ100億円の財源が確保される見込みです。

自動車やバイクを持つ人に加入が義務づけられている自賠責保険をめぐっては、自動車損害賠償保障法などの改正法の施行により、ことし4月の契約分から新たな「賦課金」が設けられます。

従来の賦課金は、ひき逃げなどで保険金を請求できない被害者に国が同等の額を支払うためのものですが、新たな賦課金は、事故で重い障害が残った被害者の支援の充実や、事故防止対策に使われることになっています。

この具体的な額について国土交通省が1年当たり、
▽自家用車は125円、
▽営業用のバスやトラック、タクシーは150円、
▽バイクや緊急車両などは100円とする方針を固めたことがわかりました。

年間およそ100億円が確保される見込みで、国土交通省では脊髄を損傷した人が中長期で入院できる施設の運営費や、親が高齢となり介護者がいなくなった人のためグループホームを新設する際の補助などに充てることにしています。

一方、事故の件数などに応じて毎年見直される全体の保険料は、全車種の平均で1割程度引き下げる方向で検討されていて、金融庁の審議会で正式に決まる見通しです。

なぜ新たな賦課金が

自賠責保険=自動車損害賠償責任保険は、すべての事故の被害者が保険金を得られるよう、自動車などのユーザーが保険会社に保険料を支払うことが法律で義務づけられた強制保険です。

ただ、被害者に介護が必要な重い障害が残った場合、保険金だけでは生活が立ちゆかないとして、国土交通省は介護費用の支給や専門病院の整備などの支援事業を行っています。

費用は毎年およそ150億円で、国の特別会計の積立金が主な財源になっていますが、その残高は来年度末に1411億円となる見込みで、15年ほどで枯渇すると試算されていて、さらに支援を充実すると10年もたずに底をつくおそれがあるといいます。

また、国の財源不足に伴い、1994年度と1995年度に自賠責保険の運用益を一般会計に繰り入れた分がおよそ6000億円残っていて、毎年数十億円が繰り戻されていますが、財政事情が厳しい中で大幅な増額は見込めず、安定した財源を確保するため新たな賦課金を設けた形です。

交通事故で重い障害が残る人は年間1200人前後で推移

国土交通省によりますと、交通事故で亡くなった人は去年は全国で2610人と、10年間で4割減っていますが、介護が必要な重い障害が残る人は長年、1200人前後と横ばいで推移しています。

全国には事故による重い脳の損傷で寝たきりの状態となった人の治療や看護をする専門病院や、専門の病床がある病院が合わせて12か所ありますが、重度の脊髄損傷を負った人については中長期でリハビリや入院ができる専門の施設がなく課題となっています。

また、事故に遭った子どもを支えてきた親が高齢となり、介護者がいなくなったり生活の場がなくなったりする問題もあり、被害者や家族から支援の拡充や対策が求められていました。

専門家「新たな賦課金で20年以上は安定した支援事業できる」

自賠責保険の制度に詳しい日本大学危機管理学部の福田弥夫学部長は「脊髄損傷を負った人はリハビリが2年ぐらい必要だが、今はそこまでは制度の対象になっていない。高次脳機能障害の人も適切なトレーニングを受ければ社会復帰ができることも明らかになってきており、そうした人への支援を手厚くしていこうと考えられるようになってきた」と話しています。

そのうえで、「被害者の家族も制度があと何年もつのかという中では安心して介護ができない。新たな賦課金により少なくとも20年以上は安定した被害者支援事業ができると考えられ、重要な役割を果たしている」と話していました。

そして今後について「自動運転が普及しても完全に事故を起こさない車はおそらく出てこないので、自動車事故の被害者は存在し続ける。新しい技術の発展や社会情勢の変化も踏まえつつ、適時、支援事業について費用対効果などを見ながら検証していくことが重要だ」と指摘していました。