受験生に手を出すな!

受験生に手を出すな!
いよいよ始まる大学入学共通テスト。
それを前に、SNS上に飛び交っているのが「痴漢チャンスデー」「痴漢日和」などという卑劣なことばの数々です。

でも、受験生のみなさん、みなさんを守ろうというたくさんの人たちの思いも、ちゃんと広がっているんです。

(ネットワーク報道部 野田麻里子 松本裕樹 鈴木彩里 土方薫)

弱みにつけこむ その卑劣さ

「共テは痴漢日和」
「共通テストの日は痴漢チャレンジ!」
「共通テスト当日は痴漢チャンスデー」

これらはすべて、今月、ツイッターに投稿された文言です。

試験会場に向かう途中の受験生は「遅刻できない」という気持ちが強いため、被害にあっても訴えづらい。

また、共通テストの朝、制服を着ていると、受験生である可能性が高いと簡単に分かってしまう。

こうしたことから、共通テストの日は受験生が狙われる危険性が高いと考えられています。

「私が広げたるわ!」

でも、SNSへの投稿は、痴漢をあおるものだけでは決してありません。

いま、じわじわと拡散しているのが今月、「広がれ!#共通テスト痴漢撲滅」というメッセージとともに投稿された短い漫画です。
投稿したのは大阪のイラストレーターの女性。

漫画では、去年1月、地元で受験生を狙った痴漢対策の強化を鉄道会社に申し入れる動きがあったことを紹介しています。

関西では阪神電鉄や神戸市営地下鉄が去年1月から、痴漢防止につなげようというアナウンスを始めていて、各社はSNS上などでの対策強化を求める声の高まりが背景にあるとしています。

投稿した女性は、痴漢抑止に取り組む大阪の団体でも活動していて、この冬は鉄道会社などへの対策強化の申し入れにみずからも参加。

そしてツイートでは、全国各地での被害を防ぐための取り組みや受験生にとって役立つ情報をみんなでシェアしようと呼びかけています。
イラストレーターの女性
「今までは“痴漢はよくあること”と片づけられてしまっていた部分があると思うんです。でも、“痴漢は犯罪なんだ”という声が大きくなれば、それが社会を動かすことにつながる。漫画をかけば、その声はもっと大きくなるかもしれないなと思いました。『広がれ!』というコメントをつけたので、みなさん、『私が広げたるわ!』って思ってくれたんでしょうね」

#痴漢撲滅 みんなで考える

「#共通テスト痴漢撲滅」がつけられた投稿を見ると、こんな力強いことばの数々が。
「痴漢するな!みているぞ」
「電車に乗る時は気にかけていようと思う」
「見つけたら痴漢の鞄を掴み、逃がさない」
卑劣な言葉をたくさん見ただけに、私たちもホッとしました。

そうした「思い」を表現したものだけでなく、具体的な対処の方法についてアドバイスする投稿もみられました。

そのうちの1つは、近くにあるスマートフォンどうしで画像ファイルなどのデータを直接やりとりできる機能を使う方法。

投稿した人は「痴漢されています 助けてください」と書かれた送信用の画像も用意していました。

電車の中ではいま、多くの人がスマートフォンを見ています。この方法なら「声をあげるのが怖い」という人も声を出さずに被害にあっていることを伝えられます。

「受験生の皆さんが安心して試験会場に向かえるように」

ハッシュタグに込めたイラストレーターの女性の思いは、しっかりと広まっていました。

後輩たちも応援しています

痴漢を決して許さない。

そのために自分が持っているスキルを生かした高校生もいます。
名古屋市にある愛知工業大学名電高校の2年生と1年生、あわせて3人は、警察から依頼を受けて、ある動画を作成しました。

その名も「ちかんから身を守るために今日からできる3つの対策」
1.電車に乗るときは混雑する時間を避ける

2.扉付近や連結部といった死角が生まれやすい場所に注意する

3.女性のいる場所を選び味方になってもらう
この3点を1分あまりのアニメーションでわかりやすく伝えています。

担当したのは、部活動でふだんからパソコンを使ったアニメーションや動画の制作を続けている3人。

愛知県警が定める「痴漢撃退10か条」の中から実行しやすいと思うものを選び、制作したそうです。
動画担当:小島凛久さん(2年)
「動画を見た人がすぐに行動できるよう、分かりやすくシンプルに見せることを意識して制作しました」
音楽担当:網田幸奈さん(2年)
「痴漢という許されない行為をどう音楽で伝えるか悩みましたが、動画の内容を邪魔せず耳にスッと入ってくるようなBGMにしました」
ナレーション担当:伊藤実栞さん(1年)
「痴漢から身を守る方法がしっかりと聞き取れるように、早口にならず、ポイントが伝わるよう、何度も撮り直しました」
動画は、こう締めくくられます。

「まわりに被害に遭っている人はいませんか?」
「みなさんの目が被害を防ぎます」

動画は、去年秋にYouTubeで公開されましたが、内容が評判を呼び、今月からは、高校生や大学生の利用者が多い名古屋市内にある地下鉄の3つの駅の構内でも、流されています。

3つのポイントごとにそれぞれ10秒あまりに短くしたものです。
制作チーム
「私たちの先輩も共通テスト、そしてそのあとの大学ごとの試験を受けます。あす、あさって、そしてそのあとも、大人は受験シーズンに電車に乗るときはいつも以上に周囲に気を配り、先輩たちを守ってもらえれば私たちもうれしいです」

痴漢の被害は追試験の対象になりえます

痴漢は犯罪です。絶対に許されない行為です。

もし、受験当日、その痴漢の被害に遭ってしまったら…

心配なのが警察などに被害を届け出た場合、事情聴取などで試験に間に合わなくなることではないでしょうか。

もし、間に合わなかったら、追試を受けることはできるのか。

共通テストの場合、追試の対象者として「試験場に向かう途中の事故」や「その他やむをえない事由」で受験できない人が挙げられていて、大学入試センターの広報担当者は痴漢の被害にあって事情聴取を受けるなどするケースは、「追試の対象になると考えられる」としています。

では、「間に合いそうにない」となったら、受験生はどうすればいいのか。
まずは、実施主体の大学に電話で連絡してください。そこで、追試を受けるために必要な手続きについて説明されますので、指示に従ってください。連絡先は受験票に記載されているので、あらかじめ確認し、いざというときはなるべく早く連絡してください。

大切なのは「被害を受けたその日の試験が終わるまで」に連絡すること。試験時間が終わると、追試を受けるのに必要な申請ができなくなるので注意してください。

<試験時間>
・1日目…14日(土)午前7時半~午後6時10分
・2日目…15日(日)午前7時半~午後5時50分
大学入試センターの広報担当者
「試験当日に痴漢の被害に遭えば誰でも混乱すると思います。受験生のみなさんには、追試の対象になりえるということを、あらかじめ心に留めておいてもらえればと思います」
最後に、受験生のみなさん。

痴漢は、絶対に許されない犯罪行為であり被害になんて遭わないことが一番です。万が一、被害に遭ってしまったとしても、あなたは悪くないし、受験の機会を守る制度はあります。

実力を出し切り、悔いなく受験を終えられることを私たち一同、願っています。

そして、周りにいる大人のみなさん。

スマホから時々顔を上げて、困っている受験生がいないか、見てあげてください。