フードバンク 支援要請増加も 電気代の値上がりなど運営に影響

物価高の影響が続く中、NHKが困窮家庭などに食料支援を行う20のフードバンクに取材したところ、16の団体で支援の要請が増加している一方で、12の団体で、電気代の値上がりなどが運営に影響を及ぼしていることがわかりました。
全国フードバンク推進協議会は「支援に必要なランニングコストをどう負担していくのか、多くの団体が頭を悩ませている」と話しています。

フードバンクは、生活が困窮する家庭などに食料支援を行う団体で、NHKは全国フードバンク推進協議会に加盟する関東と近畿の20の団体に取材しました。

その結果、16の団体で物価高の影響が深刻化した去年1年間は、前の年に比べ支援の要請が増加していました。

このうち奈良県のフードバンクは、先月の支援先は、前の年よりも200世帯増えて950世帯にのぼり、特に新型コロナの影響で仕事が減ったシングルマザーの女性から、物価高で生活が苦しいという声が多く聞かれるということです。

また、半分以上の12の団体が、電気代やガソリン代などの値上がりで、支援物資の運搬や管理の費用がかさみ運営を圧迫していると答えました。

このうち神奈川県のフードバンクは、食品を保管する冷蔵庫などで、夏場は電気代が2倍近くに上がったため、現在は事務所でエアコンを入れずに活動しているということです。

和歌山県のフードバンクは、冷蔵庫の利用などで電気代が月に5万円ほど高くなったほか、物資を配るためのガソリン代も値上がりし、ボランティアの持ち出しで賄う費用が増えているということです。

全国フードバンク推進協議会の米山廣明代表理事は「支援に必要なランニングコストをどう負担していくのか、多くの団体が頭を悩ませている。すでに私たちが支援できる限界に来ているとも言える」と危機感を募らせています。

公共の冷蔵庫「コミュニティフリッジ」で支援

賞味期限切れが迫り破棄されていた食品を、困窮家庭の支援につなげる公共の冷蔵庫「コミュニティフリッジ」という取り組みが、全国で広がりをみせています。

このうち埼玉県草加市では、地元の商工会議所が去年6月から、市内のスーパーの敷地内に大型の公共冷蔵庫を設置しました。

ここには、市内の食品加工会社や小売店などが賞味期限が近づいていため、これまで廃棄されていた食品を持ち寄ります。

そして、事前に登録していた、児童扶養手当や就学援助を受けている家庭およそ450世帯が、保管されている食品を無料で受け取ることができます。

公共冷蔵庫は、人目を気にせずに受け取れるよう無人で、利用者は、あらかじめ受け取っている電子キーで中に入り、24時間、好きな時間に訪れることができるようになっています。

正月明けの、この日は、隣接するスーパーの店長が、売れ残った鏡餅や賞味期限が迫った納豆や豆腐などを冷蔵庫に運び込んでいました。

この公共冷蔵庫には、一日に20組ほどが訪れるということで、冷蔵庫のそばに置かれたノートには、「妻が病気になり、子どもたちの食事を用意していますが、食べ盛りが3人いて、物価高の中、とてもありがたいです」とか「光熱費や食費がかなり値上がりしていて、おせち料理は用意できない状態だったので、すごく助かっています」といった、利用者の声が書き込まれています。

この日も、親子で訪れている家族もいて、さいたま市から40代の母親と訪れた中学2年生の男子生徒は、米や餅を手にしながら、「ふだんは、おなかがすいても好きなだけ食べていいのか迷いますが、きょうは餅も米ももらえたので、家に帰ったらすぐに食べます。楽しみです」と話していました。

この公共冷蔵庫は、企業にとっても社会貢献の意味合いに加えて、食品の廃棄コストを削減できるメリットがあるということで、2年前に岡山県で初めて立ち上げた団体によりますと、現在は全国で8か所にまで広がっているということです。
公共冷蔵庫が設置されているスーパーを経営し、草加商工会議所の青年部の会長を務める植田全紀さんは「賞味期限まであと1日のものもありますが、あすはスーパーが休みで、廃棄するしかないので持ってきました。いつでも取りに来てもらえるので、フードバンクには寄付できない賞味期限が迫った食品もお渡しできるのが喜ばれています」と話していました。

新型コロナ後遺症で休職 シングルマザーは

公共冷蔵庫「コミュニティフリッジ」を利用しているシングルマザーの43歳の女性は、物価高騰に直面する中での支援は、育ち盛りの子どもたちにとって大変ありがたいと話します。

女性は、スーパーで働きながら小学1年生と3年生の2人の息子を育てています。

しかし、去年1月に新型コロナウイルスに感染したことをきっかけに、けん怠感や頭痛などの症状が続いているということです。

女性は、感染でスーパーの仕事を休職し、いったん復職しましたが、症状が悪化したため、去年12月に再び休職し、今も症状を抑えるため、一日24錠の薬を飲み続けています。

現在は仕事による収入がなく、傷病手当や児童扶養手当で生活していますが、水道代が月に5000円値上がりしたことから、冬でも湯船に入らずシャワーで済ませているということです。

子どもたちをテーマパークに連れて行けないため、近所のスーパーでハロウィーンなど、イベントの飾りつけがあれば、その前で写真を撮って雰囲気を楽しんでいるということです。

女性は「コロナの後遺症になるとも思っていなかったし、こんなに苦しむことになるとは思わなかった。経済的に厳しいなと思っていた時に物価高騰に直面して、子どもに我慢をさせないといけない申し訳なさでいっぱいです」と話していました。

こうした中、公共冷蔵庫でもらったものを食べられることは、育ち盛りの子どもたちにとってありがたく、苦しい気持ちが晴れるということです。

年末年始も特別な場所には行けませんでしたが、寄付された、くりきんとんを子どもたちと一緒に食べたということです。

長男は、公共冷蔵庫にあるノートに、「くりきんとんでおしょうがつがたのしめます。ありがとうございます。小3」と書き込みました。

女性は「ここが無ければ子どもが食べたいというものに我慢を重ねていましたが、子どもは大喜びで、家で出せば食べてくれる。『助けてもらっているね、ありがたいね』と言いながら食べられている喜びが、子どもにも伝わっていると思います」と話していました。

賞味期限が短い野菜も継続的に寄付 全国初の実証実験

これまで寄付が難しいとされてきた、賞味期限が短い野菜を物流の方法を工夫することで、必要とする人たちに継続的にまとまった量を寄付しようという全国で初めての実証実験が、先月から始まっています。

実証実験は、東京 世田谷区の企業が神奈川県の農業協同組合などと協力して始めたもので、豊作で採れすぎたことによって、野菜の価格の暴落を防ぐためや、大きさが規格外だったことなどを理由に、産地で廃棄されてきた野菜を有効活用します。

こうした野菜を、通常どおり出荷する野菜と一緒に市場に運んで倉庫で保管し、必要に応じて子ども食堂やフードバンクなどに提供します。

農家にとって廃棄する野菜を減らせるうえ、新たな流通のコストがかからないメリットがあり、子ども食堂やフードバンクなどにとっても、栄養価の高い新鮮な野菜を受け取ることができます。

先月25日の初日には、神奈川県三浦市農協に所属する農家、飯島真一さん(66)が、畑で育った大根をおよそ3500キロ収穫し、箱詰めしていきました。

このうち500キロ分は、通常のサイズよりも大きすぎることを理由に、これまで廃棄されていたもので、今回は寄付に活用されることになりました。

飯島さんは「私も生産者として廃棄してしまうのは非常に心苦しいので、一本でも多く食べてもらいたい。こういう形で協力させてもらえるのはありがたい」と話していました。

このあと、箱詰めされた大根は出荷される通常の大根とともに、農協の倉庫に運ばれていきました。

翌日、さらに世田谷区の市場に通常の出荷分の野菜とともに運ばれ、企業の担当者によって各地の子ども食堂に配られていきました。
このうち世田谷区の子ども食堂では、大根を受け取った子どもたちが、さっそくスタッフとともに料理作りに取り組み、できあがった大根餅や天ぷらなどを、うれしそうに食べていました。

子ども食堂を運営するNPO法人の代表の女性は「寄付が非常に少なくなり、活動自体もすごく苦しいので本当に感激していて、うれしいです」と話していました。

三浦市農協では、おととしは、年間およそ2000トンの大根が廃棄されていましたが、これまで子ども食堂では、一度に大量に受け入れることができないため、寄付は一部にとどまっていました。

しかし、今回数日間行った実証実験では、通常の市場を通じて、首都圏や名古屋などの子ども食堂を中心に31トンが寄付されたということです。

この取り組みを企画した企業、ネッスーの木戸優起さんは「農家の方たちの気持ちが子どもたちに届くのが本当によかったなと思いました。今後、全国の子どもたちに、その思いを届けられるように仕組みを大きくしていきたい」と話していました。

専門家 “国や自治体が支援を考えなければならない時期に”

食品の流通に詳しい、日本女子大学の小林富雄教授は「生活がぎりぎりの方たちは、これまでかなり無理をして家計を回してきたと思うが、急激な今回の物価高で、行政のサービスを待っている時間が無かった。その中でスピーディーに支援の手を差し伸べられる仕組みがあるのは非常に有効だ。特に生鮮食品は鮮度の問題もあり、非常にこれまで寄付されにくかったが、これで栄養面を解決できたら、本当の意味で食料支援の効果があるのではないか」と評価しました。

そのうえで、「アメリカなど海外では、危機に直面した時に、国が食品を買い上げて貧困世帯に配布するなど、政府が介入する制度があるが、日本は民間が中心になってこういう取り組みを行っている。国や自治体がどういうふうに支援に関わっていくのか考えなければならない時期に来ている」と話していました。