“しめ縄”いつまで飾ります?

“しめ縄”いつまで飾ります?
玄関などに掲げる「しめ縄」。新年を迎えるのに欠かせない存在ですよね。でも、いったいいつ頃まで飾っていますか?松の内?1月いっぱい?中にはなんと一年中飾っている地域もあるとか。いったいなぜなのか。“しめ縄の謎”を取材してきました。
(津放送局記者 鈴木壮一郎)

年中飾るしめ縄?

「志摩市や伊勢市などでは、どうして一年中玄関にしめ縄を飾っているのでしょうか」

視聴者の方からこんな質問が寄せられました。

「えっ?三重県にそんな風習があるの?」

神奈川県出身の私(記者)の最初の反応は、そんな感じ。実家では年の暮れに玄関先にしめ縄を飾り、松の内が過ぎる頃には片づけていました。

全国的にはこのような期間に飾るのが一般的なようです。
三重県では2度目の勤務、通算8年目を迎えたものの、恥ずかしながら「年中飾るしめ縄」なんて風習は知りませんでした。

早速、現場に行って取材することにしました。

そこかしこにしめ縄がある!

投稿を頼りに向かったのは、伊勢市二見町。

2つの岩が、寄り添う夫婦のように見える“夫婦岩”や、セイウチやトドを、ありえないくらい間近で見られる「伊勢シーパラダイス」など、観光地としても有名な地域です。

その景色の美しさに、「倭姫命が二度振り返った」ことから、「二見」と呼ばれるようになったという言い伝えがあるほど、風光明媚な土地で知られています。(諸説あり)
早速、町なかを歩いて回ってみると…

ありました~!!しめ縄です。

歩き始めてわずか数分で発見。はやっ。

一緒に取材するカメラマンのシゲさんと「すぐあったね」なんて話しながらさらに歩みを進めると。

ここにも、あそこにも。
あるわ、あるわ。どこのお宅の玄関先にもしめ縄が飾られているのです。

兵庫県出身のシゲさんも、しめ縄を年中飾る風習は聞いたことがないとのこと。

取材したのは10月下旬。ちょっとした衝撃でした。

手がかりは“ソミンショウライ”

地元の人に声をかけてみると、「さも当然」とでもいうように、「ここらの風習として、1年間、(しめ縄を)飾っていますよ」と教えてくれました。

しかし、なんで年中しめ縄を?さらなる手がかりを求めて話を聞き回っていると、農作業中の女性が重要なヒントを教えてくれました。
「あ~、ソミンショウライさんね」

女性によると、町内にある神社に「ソミンショウライ」という人物にまつわる古い言い伝えが関係しているとのこと。
すっと、女性が指さした方向へあるいて行くと…

たどり着いたのが地区の氏神神社「松下社」です。観光客でにぎわう観光地からそれほど離れていない場所にありますが、うっそうと茂る木々に隠れるようにひっそりと、その神社はありました。
氏子総代の三橋良平さんに境内を案内してもらうと、本殿の脇にたたずむ小さなほこらを指して「あそこに祭られているのが蘇民将来ですわ」と教えてくれました。

伊勢昔話「蘇民将来」

ここからは、伊勢市が制作した紙芝居でお伝えしましょう。
この地に伝わる伊勢昔話の始まりです。

“昔々、伊勢の神宮にほど近い、二見浦のそばの大きな森のかたわらにある里に「蘇民」と「巨旦(こたん)」という兄弟がおったそうな。
あるとき、この里に、素性を隠した素戔嗚尊(すさのおのみこと)が、宿を求めて立ち寄ったんじゃ。

みすぼらしい身なりに裕福な兄・巨旦は、冷たくあしらった。
一方、貧しいものの心の優しい弟の蘇民は、あたたかくもてなしたそうな。
さて、歓待を受けた素戔嗚尊は、その夜、蘇民の家を藁を寄り集めた縄でぐるりと取り囲んだ。

不思議に思う蘇民。
翌朝、目覚めると、村には悪い病気が広がっておったが、村中で蘇民の家族だけが疫病から難を逃れられたんじゃ。
しめ縄が、疫病から蘇民を守った話にあやかって、この地域では「蘇民将来子孫家門」と書いた札をしめ縄に下げて、一年中戸口に飾るようになったとさ――

しめ縄で疫病退散!

話は現代に戻ります。

令和の幕開けからまもなく、日本中で新型コロナウイルスという疫病がまん延しました。疫病退散の御利益にあやかろうと、蘇民将来のしめ縄を求め全国から注文が相次いでいるといいます。

松下社を訪ねたこの日も、しめ縄の制作に向けた作業が行われているというので、訪ねてみました。

稲わらに囲まれ、2人の男性がしめ縄に使う藁をなめしていました。
「北は北海道から、南は沖縄まで、各地から注文が来るんですよ」

2000~3000件は寄せられるという注文に応えるため、黙々と作業にあたる2人。しかし、このしめ縄作りもいつまでできるかわからないと言います。
「将来は無理やわね。人口が減っているからなぁ。あと15年したら難しいんちゃうか」

古くから伝えられてきたしめ縄作りの現場にも、人口減少、そして担い手不足の波が押し寄せているのです。

しめ縄に込められた先人の願い

地域の伝承を守り、伝えていくことにどういう意味があるのか。

三重の風習に詳しい皇學館大学の齋藤平教授に話を聞いてみました。
齋藤教授
「かつてから疫病というのは、恐ろしいものでした。しかしここ最近、私たち人類は疫病とは無縁な暮らしをしてきました。そこに、新型コロナウイルスが登場して、『やっぱり疫病というのは、大変なものなんだ』ということを身をもって私達は経験したわけです。昔の人も『疫病は恐ろしい』ということを伝えたかったはず。だからこそ、蘇民将来のしめ縄をずっと飾り続けてきたし、物語も語り伝えてきたんだと思います」
いつの世も変わらない、疫病から家族や友人を守ってほしいという人々の願い。

“しめ縄を一年中飾る”。

そのことに、そんな深い思いが込められていたと思うとなんだかグッときました。

古くから伝わってきた伝承と共に、これからもなんとか守り続けてほしいと思います。
津放送局記者
鈴木壮一郎
2008年入局
神戸局や政治部を経て、初任地の津局に再び赴任
豊かな自然に囲まれた三重県が大好きです