円安・株高の“必勝パターン” 21年ぶりに崩れる 2023年は?

円安・株高の“必勝パターン” 21年ぶりに崩れる 2023年は?
株式市場の格言に「とら千里を走る」とありますがとら年の2022年は、ロシアの軍事侵攻や世界的なインフレに翻弄された1年でした。外国為替市場では歴史的な水準まで円安ドル高が進みましたが、円安が株高につながるという東京市場の必勝パターンが21年ぶりに崩れた年でもありました。2023年はうさぎのように軽やかに“跳ねる”相場となるのか。うさぎ年生まれの記者が来年のマーケットを展望します。(1987年生まれ 経済部記者 仲沢啓)

大納会

2022年の最後の取り引きとなった12月30日の東京株式市場。
日経平均の終値は、2万6094円50銭と、2021年の年末の終値と比べ2697円、率にして9.3%の値下がりとなり、4年ぶりに前の年の終値を下回りました。

1年の株価の動きを振り返ると、格言のように「千里を走る」とはいきませんでした。

スタートダッシュも失速

2022年最初の取り引きとなった大発会の1月4日、日経平均株価は、2021年の年末と比べて500円以上値上がりし、さい先の良いスタートを切りました。

株価は翌日も値上がりし、2万9332円をつけます。しかし、結果的にこれが終値での2022年の高値となりました。

その後、新型コロナからの経済活動の再開に伴う物価上昇に対応するため、各国の中央銀行が利上げなどの金融引き締めに転じるという見方が広がり、株価は低迷します。

ロシアによるウクライナ侵攻、資源価格高騰

2月24日にはロシアがウクライナに侵攻し、原油などの資源価格の高騰が株式市場に追い打ちをかけました。
日経平均株価は3月8日におよそ1年4か月ぶりに2万5000円を割り込み翌日の9日には2万4717円と終値としてことしの安値をつけました。

3月にはアメリカのFRBがコロナ禍で2年間続けてきたゼロ金利政策を解除し、利上げに踏み切ります。

一方、日銀は長期金利の上昇を抑えるため、指定した利回りで国債を無制限に買い入れる措置をとります。
その結果、日米の金利差の拡大が強く意識されて円安ドル高が加速。4月に円相場はおよそ20年ぶりの円安ドル高水準となる、1ドル=126円台をつけました。

急速な利上げによる景気減速懸念

株式市場では、企業の業績が改善するという期待から、8月に日経平均株価が2万9000円台を回復する場面もありましたが、その後、低迷が続きます。市場が意識したのは、アメリカの利上げの動向です。
8月になってもアメリカの記録的なインフレは収まる気配がなく、FRBのパウエル議長は、8月下旬のジャクソンホール会議で家計や企業に「痛み」があったとしても、インフレの抑え込みを優先する姿勢を鮮明にしました。

これをきっかけに円安がさらに加速。9月1日、円相場は24年ぶりに1ドル=140円台まで値下がりしました。

政府・日銀が市場介入に踏み切る

日米の金融政策が発表された日本時間の9月22日には、アメリカのFRBが大幅な利上げに踏み切った一方、日銀が大規模な金融緩和を維持。

黒田総裁の利上げを否定する発言もあって円相場は、1ドル=145円台後半まで急落し、政府・日銀はおよそ24年ぶりとなるドル売り円買いの市場介入に踏み切りました。

その結果、円相場は一時的に円高方向に振れますが、日米の金融政策の方向性の違いは変わらないとみた投機筋や「ミセスワタナベ」と呼ばれる日本のFX取引参加者などが安くなったドルを買う動きを強めます。
再び円安が進み、日本時間の10月21日深夜から22日の未明にかけて1ドル=151円台後半まで下落したところで、政府・日銀が介入の事実をあえて明らかにしない「覆面介入」を実施。円相場は1ドル=144円台半ばまで一気に7円以上円高が進みました。

11月10日には、アメリカで発表された消費者物価指数が市場の予想を下回ったことをきっかけに利上げのペースが減速するという見方が強まり、さらに円高方向に動きます。

サプライズとなった日銀の実質利上げ

そして、12月20日、市場に大きな衝撃が走ります。日銀が金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅を0.5%程度に拡大すると発表したのです。
市場では、事実上の金融引き締めだという受け止めが広がり急速に円高が進みました。

円相場は1ドル=151円台をつけてからわずか2か月で、1ドル=130円台まで一気に値上がり。円高が進んだことで日経平均株価は年末にかけて下落傾向を強めていきました。

21年ぶりの円安株安同時進行

この結果、日経平均株価は2021年の年末より9.3%下落。円相場は年初から17円程度、円安が進んだことになります。

円相場の上下の変動幅は、1月下旬につけた1ドル=113円台半ばから10月下旬の151円台後半まで実に38円余りとなりました。
円安が企業の業績を伸ばし、株価は上昇する。

2021年までの20年で見ると、年間で円安が進んだ年は8回ありましたが、例外なくその年は株高となっています。円安から株高へというのは日本経済の“必勝パターン”ともいえる構図でした。

しかし2022年は円安のメリットが株価に生かされることはありませんでした。

1年とおして円安と株安が同時に進んだのは2001年以来、実に21年ぶりのことです。

日本企業が生産拠点を海外に移したことで、円安のメリットが以前ほどはなくなったという指摘もあります。

うさぎ年は“跳ねる”か

2023年、うさぎ年の相場格言は“跳ねる”ですが、格言どおりに飛躍できる年となるのか。

注目点について、みずほ証券金融市場調査部の上野泰也チーフマーケットエコノミストは以下の3つをポイントに挙げています。
1 賃上げ率
2 世界経済減速
3 日銀総裁人事
1 賃上げ率
「業績が良好な企業の間では一定の賃上げは前向きに対処すべきだという動きがあり、2023年の実績を超える賃上げ率で妥結する可能性が高い。企業の賃金の上昇率が高まればサービス分野を中心に物価の上昇に結び付き、賃金と物価の好循環が生じて日銀の物価目標の達成も見えてくる」

2 世界経済減速
「金融引き締めは一定の時間差を置いてから実体経済に影響を及ぼす。したがって2023年は、欧米を中心に世界経済が悪くなると見るのが普通の見方だ。日本経済にとっても直接間接に影響が及ぶので、どこまで経済が悪くなるかは、よく見ていく必要がある」

3 日銀総裁人事
「新たな日銀総裁が就任しても金融緩和が続くと考えざるをえない。ただ、金融緩和の長期化で金融市場のゆがみが指摘されているほか、財政規律が緩み巨額の補正予算の編成が恒常化している問題もある。新体制になってから2023年4月の金融政策決定会合でどのような政策を打ち出すのか見ていきたい」

“癸卯”は悪い物事が終わり、跳ねる年になるか?

2023年の干支(十干と十二支の組み合わせ)は、「癸卯(みずのとう)」です。

癸は「物事の終わりと新たな循環の始まりに備えた状態」を意味しているそうです。
2023年は、ロシアによる軍事侵攻や記録的なインフレ、コロナなど世界経済の波乱要因が終息し、日本経済にとってうさぎのように軽やかに跳ねる年となることを願うばかりです。
経済部記者
仲沢 啓
2011年入局
福島局 福岡局を経て現所属
金融・証券業界を担当