空港の保安検査場に長蛇の列 なぜ? 年末年始の移動にも影響?

空港の出発ロビーを半周するほどの長い列…。

12月下旬に福岡空港で手荷物検査を待つ乗客たちの様子です。

この長蛇の列、例年の年末年始の混雑とは異なる事情があります。

空の安全を守り、テロや犯罪の防止に欠かせない保安検査の現場でいま、ある問題が起きているのです。

私たちが空港を利用する際に、混雑緩和のためにできることもお伝えします。

Q.いま各地の空港で何が起きているの?

A.航空需要が戻りつつある中で、各地の空港では検査を待つ利用客で長い列ができています。

12月26日の朝8時ごろ、とりわけ混雑が激しいという福岡空港を取材をしてみると、国際線のターミナルでは出発ロビーを半周するほどの行列ができていました。

国内線でも発着便が相次ぐ朝や夕方などの時間帯には、日によって検査に1時間以上待つ場合もあるということです。
一方で、発着便が多い時間帯でも検査のためのレーンがすべて使われることはありません。

この日の国際線は6レーン中、3レーンしか稼働していませんでした。

Q.なぜそうした事態が起きているの?

A.コロナ禍で保安検査員が大きく減ったまま戻らないからです。

国土交通省の調査で、全国の保安検査員は2022年9月の時点で5600人と、おととし4月のおよそ7400人から4分の1に当たる1800人減少したことがわかりました。

国内の航空会社では、2021年の利用者数が感染拡大前に比べて国内線で60%、国際線で95%減少しました。

こうした需要の減少に伴い保安検査員の離職が相次いだ上、航空需要が上向いてきたいまも新たな人手の確保が難しく深刻な人手不足に陥っているというのです。

Q.現場の状況は?対策は取れないの?

A.福岡空港で保安検査を担う会社では、保安検査員の数が感染拡大前と比べて4割以上減っています。

このため、忙しい時間帯には支社長も含めた社員総出で対応しているほか、空港会社や航空会社の応援も得ていますが、検査場のすべてのレーンを稼働させることはできないといいます。

各地の空港でも同様の事態が起きていることから、国は11月から、検査員の配置基準を緩和し、安全に運用できることが確認できれば、国際線でも1レーンごとの検査員の人数を減らせるようにしました。

福岡空港でも、1レーンあたり5人から4人に減らす対策を始めています。

また、国は会社が行う採用活動への補助を行うことも決めています。

ただ、保安検査をめぐる構造的な問題もあり、抜本的な解決に至っていません。

Q.日本の保安検査員の“構造的な問題”ってなに?

A.国土交通省によりますと、日本の場合、空港の保安検査は航空会社が責任の主体で、航空会社が警備会社と契約し委託する形で行われています。

このため、契約の形態が複雑で検査員の賃金が上がりにくいことや、サービスを意識して利用客にきぜんとした態度をとりづらくクレーム対応へのストレスを抱えていることなどが指摘されてきたといいます。
一方、欧米各国では、国や空港運営者などが責任主体となっているところが多く、利用者から集めた保安料金や政府の予算を使って検査が行われています。

このうちアメリカやカナダは2001年のアメリカ同時多発テロ事件を受け責任主体を航空会社から国や公の法人に見直しています。

こうした中、国土交通省では労働環境の改善を進めてきたほか、2022年3月には、搭乗前に保安検査を受けることを法律で義務化し、違反した際の罰則も設けました。

現在、有識者会議で保安検査の役割分担や費用負担のあり方の議論も進めています。

Q.空港のほかの職種の状況は?

A.航空需要が回復している中で、空港ではほかの職種でも人手不足が課題となっていて、企業が採用活動を活発化させています。

その1つが、地上で航空機への荷物の積み降ろしや、発着機の誘導などを行う「グランドハンドリング」のスタッフで、日本航空のグループ会社ではコロナ禍で採用を絞ったことで一時は220人、8%ほど減少しました。

一方で、グランドハンドリングを請け負う海外の航空会社の運航は、成田空港では一時は感染拡大前の2割まで減っていたのが、2023年1月には8割まで回復する見通しです。

ほかの会社の中には人員不足で請け負えなくなっているところがある影響で発注が増えているものの、人繰りが厳しく離着陸の時間帯などを調整せざるを得ないケースも出ているといいます。

このため会社では採用を拡大し、2023年4月には、コロナ前の3倍にのぼるおよそ300人の入社を予定しているほか、スタッフの社内資格の取得を急ピッチで進めています。
JALグランドサービス 酒井仁課長
「今後、海外の航空会社からの発注の増加が見込まれ、今の人手では態勢を保てないおそれがあるので採用や教育訓練に力を入れたい」

Q.空港の人手不足について 有識者の意見は?

A.国の有識者会議の座長を務める桜美林大学の戸崎肇教授は、
「空港の大きな機能の1つに安全をいかに担保するかがあるが、例えば保安検査など経験値が非常に必要でこれがおろそかになれば危険なものがすり抜けてテロの脅威になる。経済活動においても島国の日本は空港が要で、人材が足りずに人やものが円滑に移動できないことは大きなマイナスになる。これから外国人観光客が増えてくるタイミングで、大きな人手不足が顕在化することが懸念される」と指摘しています。

そのうえで、「新型コロナによって航空業界あるいは空港関連業界がこうした事態に非常に弱いことがわかり、テレワークに慣れた人からも一時的に敬遠されるかもしれないが、ある程度落ち着けば人気は戻ってくるだろう。ただ、それまでの間、空港が健全な形で機能するよう国は人を確保する対策として人件費の補助などを中心に暫定的な措置を取っていくことも必要だ」と話していました。

Q.年末年始 私たち利用者にできることは?

A.この年末年始の空の便の予約は、国内線が感染拡大前の8割余りまで回復し、国際線も前の年の5倍に増えています。

保安検査会社の関係者は、深刻な人手不足の中で迎える今回の年末年始について「例年とは違う忙しさになる」と危惧しています。
私たち利用者も以下の点を注意したうえで、ふだんよりゆとりを持って空港を訪れることで混雑の緩和に協力できそうです。

【空港に向かう前】

◆航空機への持ち込みが禁止されているものや持ち込みに注意が必要なものを確認。モバイルバッテリーやヘアアイロン、ライターなどは種類によって制限が異なるので要注意。

◆機内に持ち込める手荷物の個数制限を確認し、最小限に。多くの航空会社では、ハンドバッグや傘などの身の回り品のほか、スーツケースなどの手荷物は1個まで。

【空港に到着したら】

◆紙やスマートフォン上の搭乗券がチェックインの状態になっているか確認。保安検査を受ける前にあらかじめカバンなどから取り出し、準備しておく。

◆手荷物の中に液体物や危険物が入っていないか事前に確認。

◆保安検査場ではコートやジャケット、くるぶしを覆う靴などはあらかじめ脱ぎ、トレーに入れる。

◆ポケットの中には何もいれない。鍵や小銭、スマートフォンなどの金属類はトレーに入れる。

◆ノートパソコン・タブレット端末などの電子機器全般は、あらかじめ取り出しておく。
さらに詳しい内容は、国や航空会社のホームページなどに掲載されています。

すぐには人手不足が解消しない中、国や事業者は少しでもスムーズに検査ができるよう協力を呼びかけています。