【解説動画】軍事侵攻支える「プーチン閥」コワルチュク氏とは

ロシアでは今、ウクライナでの苦戦に伴い、目立つのが強硬派の存在です。

その象徴的な人物がロシアの民間軍事会社・ワグネルの代表、プリゴジン氏です。

しかし、実はこうした強硬派の背後にいるのが、保守系財閥のコワルチュク氏。

プーチン政権の今後に影響を与える財閥の動きについて、元モスクワ支局長で、ロシア取材歴34年の石川一洋 専門解説委員の解説です。

「プーチンの料理人」プリゴジン氏 最近の言動

ワグネルの代表、プリゴジン氏の最近の行動ははめを外しています。

ゼレンスキー大統領が東部のドネツクの激戦地バフムトを訪れたとき、みずからのSNSに次のような投稿をしました。

「本部でゼレンスキーが着いたと聞き、バフムトへ急いで出発した。(ゼレンスキー氏に)その気があればいつでも会おう」

まるで、みずからがロシアの指導者であるかのような言動ぶりも目立っています。

しかし、「プーチンの料理人」と言われるプリゴジン氏だけの財力や力でワグネルを動かすのは無理で、その背後にはさらに大きな財閥と国家組織の存在があるとみられています。

国家組織としては、軍諜報部GRUとのつながりが指摘されています。

そしてプリゴジン氏の背後で、いわば手駒として操る保守系財閥としてユーリー・コワルチュク氏の存在が注目されています。

「プーチン閥」コワルチュク氏とは

コワルチュク氏は、プーチン大統領と同じサンクトペテルブルク出身で、優秀な物理学者でした。

ソビエト連邦崩壊後、ビジネスに転じ、副市長だったプーチン氏と親しくなりました。

現在は、メディアグループ「ナショナル・メディア・グループ」を組織し、全国ネットの第1チャンネルや有力紙イズベスチヤのほか、かつて独立系だったテレビ局も今は傘下に収めています。

もう一つは金融です。

「プーチンの銀行」とも言われる民間銀行「ロシア」の事実上のオーナーです。

さらに兄は原子力研究の最高峰、クルチャトフ研究所の所長で、息子はロシア最大の電力会社の社長です。

そして、際立つのがプーチン大統領との近さです。

1996年には共同で別荘を所有し、コワルチュク氏ら共同所有者がプーチン政権の下で富を蓄積し、「プーチン閥」と言われています。

2人の関係を象徴する2人の女性

コワルチュク氏がいかにプーチン大統領と近いか、それを象徴するのが2人の女性の存在です。

ひとりは新体操の金メダリストでプーチン氏の愛人と言われるアリーナ・カバエワさん。

もうひとりが娘のカテリーナ・チホノワさんです。

カバエワさんはプーチン大統領の間で複数の子どもをもうけたと言われていますが、ナショナル・メディア・グループの取締役会の会長も務めています。

また、娘のカテリーナさんのさまざまな活動を支えているのもコワルチュク氏と言われています。

自分の大切な女性を任せているところからも、プーチン大統領のコワルチュク氏への信頼がうかがえます。

思想面でプーチン大統領を支える

コワルチュク氏は、非常に危険な影響をプーチン大統領に与えたと言われています。

コワルチュク氏の父は歴史学者で、コワルチュク氏とプーチン氏はともに歴史への関心が深く、ウクライナとロシアは統合されるべきだという非常に保守的な考えも共通しています。

ウクライナへの軍事侵攻開始前、大統領は多くの時間をコワルチュク氏と過ごしたとも言われています。

彼は、エネルギーやアルミ、鉄鋼など実業ではなく、いわばプロパガンダと金融で財をなした財閥です。

プリゴジン氏の過激な言動もプーチン大統領を動かすための手段ともいえます。

思想面でプーチン大統領の危険な行動を支える財閥と言えます。

プーチン氏退任の可能性は… 2023年 ロシアの動きに注目

2024年3月にロシア大統領選挙があります。

しかしプーチン大統領の揺らぎや変調も目立っています。

この12月、プーチン大統領は年末恒例の内外記者会見を中止しました。

大統領は、自分は国民の心がわかると固く信じており、ポピュリスト・プーチンみずからが国民に訴える重要なツールでした。

ことし中止になったのは、もしかしたら、プーチン大統領は国民の心がわかるという自信が揺らぎ、「いつ戦争が終わるのだ」「どのような形で終わるのだ」という国民の声を恐れてきたのかもしれません。

コワルチュク氏ら強硬派がプーチン大統領への圧力を強める一方、ガス、石油、鉄、アルミなど実業を握る大財閥は戦争についてほとんど発言をしていません。

彼らもプーチン体制の柱ですが、コワルチュク氏ら強硬派と違い、戦争からの出口を探っている可能性はあります。

出口を見つけるために、プーチン氏が大統領選挙の前に退任する可能性はあると私はみています。

プーチン大統領が再選を目指すのか、和平への糸口を見いだすため後継者を立てるのか、クレムリンの中を含めてプーチン体制の中で暗闘が始まっている感じがします。