みかんのこと どこまで知ってますか

みかんのこと どこまで知ってますか
この2つのみかん、見比べてどちらが甘いかわかりますか?食べてみなければわかるはずない?実は私もそう思っていました。そう、柑橘の資格のことを知るまでは。(松山放送局記者 勅使河原佳野)

柑橘のソムリエ?

「私、柑橘ソムリエの試験に受かったんだ」

八幡浜で出会った友人がそう話すのを聞いて、興味を持ちました。
この地域は、柑橘の生産で知られる愛媛県の中でも、特に生産が盛んで、「真穴みかん」や「日の丸みかん」といったブランドみかんがあることで知られています。

八幡浜支局で数々のニュースを書いてきた私は自分の知識がどれほどのものか力試しをしたいと思い立ち、11月の試験に挑戦することにしました。

「柑橘ソムリエライセンス制度」は2020年秋に始まりました。

宇和島市で3代続く柑橘農家の二宮新治さんが、知人から「ワインや野菜のように柑橘のソムリエがいたらおもしろいのではないか」というアイデアをもらったことをきっかけに、同世代の農家を中心とするメンバーと一緒に立ち上げたのです。
二宮新治 理事長
「柑橘は愛媛にとって大きな存在ですが、収穫量や売上げなど経済目線で語られることはあっても文化的な楽しみ方があるかというとちょっと弱いと思ったんです。柑橘農業は後継者不足や耕作放棄地の増加といった課題があります。おもしろい取り組みをして柑橘を盛り上げたいと思いました」
何となくみかんを食べるのではなく、「おいしい」だけではない味の特徴や、その背景にある栽培や流通の現場を知って食べてもらうことで、サブカルチャーのように柑橘を楽しんでもらいたいと二宮さんは考えています。

資格をとるには?

「柑橘ソムリエ」の資格をとるためにはまず、運営する「NPO法人柑橘ソムリエ愛媛」に申し込む必要があります。
試験は今回が5回目で費用は受講料を含めて2万5000円と決して安くありませんが、募集開始から数日で、私を含めて25人の定員の枠が埋まったそうです。

試験を受けるためには、2日間で計10時間の講座を受ける必要があります。

今回は、松山市内の会場で開かれました。受講生25人のうち半数は県外からの参加者でした。

なぜ、皆さん「柑橘ソムリエ」を目指したのでしょうか。
東京の大学生
「大学のみかん愛好会に入って販売の活動もしていますが、せっかくなら正しい知識を持ちたいと応募しました」
伊方町の女性
「出身は名古屋ですが、柑橘農家になりたくて愛媛に移住しました。この資格をとっていろんな表現で柑橘の魅力を広めたいです」
講座で使うテキスト、その名は「柑橘の教科書」。

NPOのスタッフが1年半かけて作成したもので、全82ページの冊子には「柑橘の歴史」から「おいしい柑橘の見分け方」まで、さまざまな知識が網羅されています。

何を勉強するの?

講座を通じて身につけるのは「目利き」「味覚」「表現」の3つの力です。

「目利き」は、食べずに見た目からおいしい柑橘を見分ける力です。注目するポイントは色づきや皮のはり具合、へたの付き方など、さまざまです。

一例として、へたの部分に注目してみます。冒頭で紹介したみかんを改めて見てみましょう。
軸は水分や養分の通り道ですが、柑橘はそもそも多くの水分や養分を必要としない果実です。水分や養分が通りすぎない、軸が細いもののほうが、味が引き締まっておいしいと言われています。

2つのみかんを見比べると、左の軸のほうが細くなっていますね。

という訳で、冒頭の質問の答えは、「左側のみかんが甘い」となります。

「味覚」は、実際に食べて味を判断する力を養います。
果実の甘みや酸味だけではなく、「うまみ」や「味の長さ」など、10個の項目で味を表します。

そして、ソムリエとして特に大切なのは、柑橘の魅力を人に伝える「表現」です。食べたときの印象やその柑橘に関するエピソードなどを盛りこみながら、魅力を言語化します。

例えば、このような感じです。
勅使河原記者
「最初に甘さがきて次に酸味がやってきますがそれはすぐに引きました。しつこくない味です」

参加者
「とても自然な甘さなので飲み込んだあとにもまだいるような。痕跡が口の中にずっとある感じ」

試験は5時間

講座を受けてから2週間後、いよいよ試験です。私は取材の移動時間にテキストを読み込んだり、毎日みかんを食べたりして、久しぶりの試験勉強に臨みました。
試験は筆記試験と、実技試験に分かれています。

筆記試験では、テキストに書かれている内容や、講座で勉強した知識などが選択式と記述式で出されます。記述式の問題も多く、制限時間ギリギリまでかかりました。

いったいどのような問題が出されるのか、気になりますよね?その一例を、今回は二宮さんの許可を得て特別にお伝えします。
1「甘平の品種の掛け合わせは?」

2「温州みかん発祥の地は?」

3「目利きではどのような部分を見るのが大切か?」
皆さん、答えが分かりますか?正解は
1「西之香×ポンカン」

2「鹿児島県」

3「果皮の色やキメ、ヘタの向きや軸の太さのほか、果頂部の引き締まり具合や重さを見ること」
また、実技試験では、講座で勉強した「目利き」と「味覚」、そして「表現」をそれぞれ実践していきます。
限られた時間の中で、果実を見たり触ったり食べたりしながら判断し、その特徴をことばにして伝えます。試験中は五感をフルに活用して、ヘトヘトになりました。

そんな私の結果は…記事の最後でお伝えします。

全国各地で活躍する柑橘ソムリエ

2年前にソムリエ資格の制度ができてからこれまでに5回の試験が行われ、県内外に75人のソムリエが誕生しています。

ソムリエの資格があると、どんなことに役立つのか。松山市内の産直市で働く梅本葉月さんはおととし試験に合格して柑橘ソムリエになりました。
梅本葉月さん
「柑橘の選び方などの知識がとても増えました。お客さんにはかなり細かいところも見ておすすめができるようになりました」
梅本さんは規格外の柑橘を使用したオリジナルのジュースの開発も担当していますが、ここにもソムリエとしての知識が生かされました。
梅本葉月さん
「去年作った温州みかんのジュースはちょっと酸味が強かったので、ことしは収穫時期をわざと遅らせたみかんで作りました。去年より甘みも酸味もあるちょうどいいジュースになりました。これからも新しい品種などを食べて柑橘博士になりたいと思います」

記者の試験結果は…

ところで私の試験結果はどうだったのでしょうか。

試験を受けてからおよそ1か月半。みかんの収穫で農家が最も忙しい時期に皆さんが丁寧に採点してくれた結果が、ついに届きました。

ドキドキしながら封筒を開けると…
合格!!!やったー!!!

合否通知には、学科・実技試験のそれぞれの点数も書いてありました。それぞれ100点満点で、私は学科試験が69.5点、実技試験が82.8点の合計152.3点でした。
合格のボーダーラインは135点です。

さらに、実技試験のそれぞれの項目の評価もあります。目利きは5点中4点、味覚は5点中3.75点、表現は6点中5.5点でした。

最後の総評の部分には「実技においては秀逸な成績を残し、とくに表現の中にたしかな知識と柑橘愛が随所に感じられるなど、得点以上の実力があるように思います」と書かれていました。

うれしいコメントですが、学科試験の点数が低かったことは反省して、これからも勉強していきたいと思います。

「柑橘を文化に」関係者の思い

ソムリエを目指す講座では、マニアックな品種について熱く語っている人や、詩人のように表現豊かに柑橘の魅力を語る人など、さまざまなタイプの柑橘好きに出会い、全国に熱狂的な柑橘ファンがいることに驚きました。

柑橘ソムリエになると、ほかのソムリエとの交流会や勉強会、園地での研修などに参加できるようになるということで、柑橘好きのコミュニティーに参加して、柑橘愛を存分に語れることも、魅力の一つなのだと思います。
愛媛の柑橘農家は、担い手不足などの課題に直面しています。

「柑橘を文化にしたい」とは二宮さんのことばですが、コアなファンが増えて柑橘の魅力を発信することは、農業のイメージアップにもつながると思います。

私もこれから柑橘ソムリエとして、愛媛が誇る柑橘の魅力を伝えたいと思います。
松山放送局八幡浜支局記者
勅使河原佳野
2019年入局
最近は異なるみかんを買っては見比べ、食べ比べて「柑橘研究」にいそしんでいます
イチオシは「媛小春」です