「特定秘密」漏えいで初の処分 海上自衛隊1等海佐を懲戒免職

防衛省は、高度な情報保全が求められる「特定秘密」が含まれる情報をOBに漏らしたとして、海上自衛隊の1等海佐を26日付けで懲戒免職の処分にし、特定秘密保護法違反などの疑いで書類送検しました。「特定秘密」を漏らしたとして処分者が出たのは初めてです。

懲戒免職の処分を受けたのは、海上自衛隊の幹部学校に勤務する井上高志1等海佐(54)です。

防衛省によりますと、井上1佐は情報業務群の司令を務めていたおととし3月、すでに退職していた元自衛艦隊司令官のOBに対して最新の安全保障情勢に関する説明を行った際、特定秘密保護法で定められた「特定秘密」にあたる日本周辺の情勢に関する情報のほか、自衛隊の運用状況に関する秘密の情報などを漏らしたということです。

井上1佐とOBは過去に上司と部下の関係だったことがあり、おととし1月ごろ、OBから説明の依頼を受けたということで、OB以外への情報漏えいは確認されなかったとしています。

また、井上1佐とは別に、当時の自衛艦隊司令官と自衛艦隊司令部の情報主任幕僚の1等海佐もOBから依頼を受け、司令部から井上1佐にOBへの説明を指示したということです。

防衛省は2人が井上1佐に対し、OBへの説明の内容を確認せず、指揮監督の義務違反などがあったとして、当時の情報主任幕僚を停職5日の懲戒処分にしたほか、すでに退職している当時の自衛艦隊司令官について減給の懲戒処分にあたるとして自主返納を要請するとしています。

また、すでに退職している当時の海上幕僚長についても、指揮監督の義務違反があったとして、戒告の懲戒処分に相当するとしています。

自衛隊内部の捜査機関の警務隊は26日、井上1佐を特定秘密保護法違反と自衛隊法違反の疑いで横浜地方検察庁に書類送検しました。

「特定秘密」を漏らしたとして処分者が出たのは初めてで、防衛省は「防衛省・自衛隊において、秘密の漏えいはあってはならず深刻に受け止めている」として、再発防止を図るため、副大臣をトップとする検討委員会を26日に設置しました。

酒井海上幕僚長が謝罪「国民の負託を裏切る行為」

海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長は、今回の処分を受けて会見を開き「幹部による情報漏えいは関係国との信頼を損ない、防衛省・自衛隊に対する国民の負託を裏切る行為で、決して許されるものではない」と述べ謝罪しました。

そのうえで、OBとの関係について「OBは、見識や経験を有していて、自由な立場での発言は有意義だ。他方で、秘密の情報については、アクセス権がないという認識を持っていただき、自衛隊としてもOBに開示できる情報がどういうものかを認識していくことが大事だ」と述べました。

海上自衛隊では今後、現役の隊員に情報保全の意識を高める教育を行うほか、OBに対しても、周知などを行って再発防止に努めるとしています。

発覚の経緯や背景は

今回の漏えいは、情報業務群司令の1等海佐が秘密の情報をOBに漏らした可能性があるという情報が、おととし3月、防衛省に寄せられ、発覚したということです。

OBへの説明は神奈川県横須賀市にある情報業務群の司令部内で口頭で行われたということです。

OBは講演などの機会があり、正確な情報を把握するため可能な範囲で説明を依頼したということで、「特定秘密」など秘密の情報の提供依頼はなかったとしています。

防衛省は、1等海佐が「特定秘密」の情報を漏らした背景について、このOBへの畏怖や関心を引きたいという思いがあったなどとしています。

「特定秘密」とは

「特定秘密」は、防衛や外交、スパイやテロといった分野の情報のうち、国や国民の安全に関わる特に保全が必要な情報について、大臣など行政機関の長が指定します。

2014年に施行された特定秘密保護法では、「特定秘密」を漏えいした公務員らに対し、最高で懲役10年を科すほか、漏えいをそそのかした者にも5年以下の懲役を科すとしています。

「特定秘密」の指定期間は最長5年で、何度でも更新できますが、通算で30年を超える場合は、内閣の承認を得る必要があり、暗号や自衛隊の装備品の性能など一部の例外を除いて60年後までにすべて公開するとしています。

内閣官房によりますと、「特定秘密」はことし6月末時点で693件が指定されています。
内訳は
▽防衛省が392件と最も多く、
次いで
▽内閣官房が108件、
▽警察庁が49件、
▽外務省が43件などとなっています。

防衛省によりますと、「特定秘密」を扱う資格のある自衛官や職員は去年12月末時点で、12万人余りだということです。

特定秘密保護法をめぐっては、新聞各社やNHKなどでつくる日本新聞協会が法律の施行を前に、「国民の知る権利や取材・報道の自由を阻害しかねない」といった懸念が、すべて払拭されたとは言い難いなどとする意見書をまとめ、当時の法務大臣に提出しています。

海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長は26日の会見で、今回の処分によって取材への対応にも影響が出るのではないかと記者から問われたのに対し、「適正な窓口での取材というのは従来と同じく対応できるものと認識している」と述べています。

「情報業務群」とは

「情報業務群」は、海上自衛隊で唯一の情報の専門部隊として平成9年に発足した組織です。

日本周辺の海域や重要な海上交通路のほか、アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で派遣されている部隊のために、外国の船舶などに関する情報収集や分析を行っていたということです。

自衛艦隊に所属し、任務については自衛艦隊司令部から指示を受ける関係にありました。

「情報業務群」はおととし10月、「艦隊情報群」に改編されています。