ガス会社が育てる意外なものって?

ロシアのウクライナ侵攻によって大きく揺れているのが、「LNG=液化天然ガス」の供給をめぐる情勢だ。
その渦中にいるガス会社でいま、ある意外なものが育てられているという。
いったい何を、なぜ育てているのか?
会社の戦略に迫った。
(名古屋放送局記者 野口佑輔)
その渦中にいるガス会社でいま、ある意外なものが育てられているという。
いったい何を、なぜ育てているのか?
会社の戦略に迫った。
(名古屋放送局記者 野口佑輔)
LNGの“冷たさ”活用とは
名古屋市に本社を置く東邦ガス。
この会社の「知多緑浜工場」は愛知県知多市の海沿いに立地している。
この会社の「知多緑浜工場」は愛知県知多市の海沿いに立地している。

なぜ海沿いかと言えば、都市ガスの原料となるLNG=液化天然ガスを海外から船で運んできて、ここで陸揚げするからだ。
このLNG受け入れ基地で、実は魚の養殖が行われている。
このLNG受け入れ基地で、実は魚の養殖が行われている。

敷地内に設置された直径10メートルの巨大な円柱型の水槽の中で泳ぐ元気な魚たち。
これらの魚は「ニジマス」、別名「トラウトサーモン」だ。
これらの魚は「ニジマス」、別名「トラウトサーモン」だ。

オレンジがかった赤い身が特徴の、すしネタなどでおなじみの魚だ。
なぜ、こんな場所で養殖を?
私の疑問に担当者は、このLNG受け入れ基地がサーモンの養殖に最適な環境なのだと語った。
その説明はこうだ。
LNGは海外から船で輸入されてくる際、体積を小さくして効率よく輸送できるよう液体の状態になっている。
まさに液化天然ガスだ。
温度はー162℃。
このLNGが流れる大型チューブに海水をかけてあたためることで気化し、都市ガスの原料となる。
一方、このとき使われた海水はLNGの冷たさによって、逆に2度から4度ほど冷却される。
なぜ、こんな場所で養殖を?
私の疑問に担当者は、このLNG受け入れ基地がサーモンの養殖に最適な環境なのだと語った。
その説明はこうだ。
LNGは海外から船で輸入されてくる際、体積を小さくして効率よく輸送できるよう液体の状態になっている。
まさに液化天然ガスだ。
温度はー162℃。
このLNGが流れる大型チューブに海水をかけてあたためることで気化し、都市ガスの原料となる。
一方、このとき使われた海水はLNGの冷たさによって、逆に2度から4度ほど冷却される。

これまでは、発生した「冷たい海水」を海にそのまま捨てていたが、社内会議でトラウトサーモンの養殖に使えるのではないかというアイデアが出たのだという。
トラウトサーモンは海で養殖するニジマスのことだが、冷たい水温を好むため海水温が高くなる夏場などには飼育が難しい。
冷たい海水を有効利用すれば、サーモンを年間を通して養殖できるメリットもある。
そこで、大手食品メーカーの協力のもと養殖に乗り出したというわけだ。
トラウトサーモンは海で養殖するニジマスのことだが、冷たい水温を好むため海水温が高くなる夏場などには飼育が難しい。
冷たい海水を有効利用すれば、サーモンを年間を通して養殖できるメリットもある。
そこで、大手食品メーカーの協力のもと養殖に乗り出したというわけだ。
サーモンが高級魚に?
私(記者)が最初にこの話を聞いた時の印象は、「大きな需要が見込める話ではないだろう」というものだった。
もちろん、エネルギーの有効活用は意義ある話だが、「大手ガス会社がユニークな事業に乗り出した」という以上のニュースにはならないのではないかと考えていた。
しかし、東邦ガスの担当者の思いは違った。
「食の持続性に貢献したい。将来的には主要事業の1つに育て上げることも視野に入っている」という。
担当者がこう語る背景には、トラウトサーモンを含む「サケ・マス類」の需要が、世界的に高まっていることがある。
水産庁によると、世界の「サケ・マス類」の養殖生産量は近年急激に伸び続け、2020年には403万トンあまりと、水産白書に掲載されている1960年以降で最も多くなった。
もちろん、エネルギーの有効活用は意義ある話だが、「大手ガス会社がユニークな事業に乗り出した」という以上のニュースにはならないのではないかと考えていた。
しかし、東邦ガスの担当者の思いは違った。
「食の持続性に貢献したい。将来的には主要事業の1つに育て上げることも視野に入っている」という。
担当者がこう語る背景には、トラウトサーモンを含む「サケ・マス類」の需要が、世界的に高まっていることがある。
水産庁によると、世界の「サケ・マス類」の養殖生産量は近年急激に伸び続け、2020年には403万トンあまりと、水産白書に掲載されている1960年以降で最も多くなった。

国別の輸入量を見ても、中国など人口が多く需要が旺盛な国のほか、欧米各国でも増加傾向となっている。
なぜサーモンの人気が高まっているのか。
水産物の流通や需給などに詳しい鹿児島大学水産学部の佐野雅昭教授によると、世界的人気の背景にあるのは「日本食ブーム」、とりわけ「すし」などに代表される“生食人気”だという。
なぜサーモンの人気が高まっているのか。
水産物の流通や需給などに詳しい鹿児島大学水産学部の佐野雅昭教授によると、世界的人気の背景にあるのは「日本食ブーム」、とりわけ「すし」などに代表される“生食人気”だという。

佐野雅昭教授
「欧米などでは、健康志向の高まりもあり、ヘルシーな日本食の人気が高まっています。中でも人気なのがすしで、すしレストランのほか、すしをベースにした創作料理のテイクアウトなども増加しています。東南アジアなどの新興国でも、所得の高まりによって日本食が流行の最先端になり、富裕層は好んですしを食べます」
「欧米などでは、健康志向の高まりもあり、ヘルシーな日本食の人気が高まっています。中でも人気なのがすしで、すしレストランのほか、すしをベースにした創作料理のテイクアウトなども増加しています。東南アジアなどの新興国でも、所得の高まりによって日本食が流行の最先端になり、富裕層は好んですしを食べます」
「ただし、生食が可能な魚は限られている。その点、サーモンは、養殖に大きな資本が投入され、主な産地のノルウェーやチリでは、生食を前提に加工や流通網が成長してきた。ほかの魚で、生食用のサプライチェーンがこれだけ強固な魚はありません」
サーモンの価格は、世界的な需要の高まりを反映して上昇している。
主な産地のノルウェーやチリなどでは企業が大規模な養殖事業を行い、国際的な販路拡大を進めているため、私たちが回転ずしで食べるサーモンも、ほとんどがノルウェー産かチリ産だ。
東京都中央卸売市場で取り引きされた、輸入の「サケ・マス類」の価格は、去年9月に1キロ=1579円だったが、ことし9月には1キロ=2178円。
1年間で40%近く上昇した。
主な産地のノルウェーやチリなどでは企業が大規模な養殖事業を行い、国際的な販路拡大を進めているため、私たちが回転ずしで食べるサーモンも、ほとんどがノルウェー産かチリ産だ。
東京都中央卸売市場で取り引きされた、輸入の「サケ・マス類」の価格は、去年9月に1キロ=1579円だったが、ことし9月には1キロ=2178円。
1年間で40%近く上昇した。

佐野教授によると、需要の高まりに加えて、急速な円安の進行、飛行機などの燃料価格の高騰、ロシアのウクライナ侵攻によってシベリア上空の最短ルートが規制され遠回りを余儀なくされていることなども値上がりの要因ということだ。
サーモン養殖 課題は?
東邦ガスが乗り出したサーモンの養殖。
課題はないのだろうか。
まっさきに私が思い浮かべたのが、コストの問題だ。
課題はないのだろうか。
まっさきに私が思い浮かべたのが、コストの問題だ。

東邦ガスによると、サーモン養殖では、海水温は20度以下が適しているという。
冷たい水温を保ったり、水を濾過するのに多くの電気代がかかりコストがかさむのではないか。
電気代の高騰が続く中、果たして事業として成り立つのか。
東邦ガスの担当者にそんな懸念をぶつけると、明確な回答が返ってきた。
海水の温度はLNGの冷たさで元々下がっているので、冷やすための追加電力は不要。
そして水の濾過についても不要。
それは「かけ流し式」を採用しているからだという。
次々に発生する冷たい海水を水槽に取り込み、そのまま海に流してしまう。
この方法が可能なのはLNGの受け入れ基地ならではのメリットだという話だった。
冷たい水温を保ったり、水を濾過するのに多くの電気代がかかりコストがかさむのではないか。
電気代の高騰が続く中、果たして事業として成り立つのか。
東邦ガスの担当者にそんな懸念をぶつけると、明確な回答が返ってきた。
海水の温度はLNGの冷たさで元々下がっているので、冷やすための追加電力は不要。
そして水の濾過についても不要。
それは「かけ流し式」を採用しているからだという。
次々に発生する冷たい海水を水槽に取り込み、そのまま海に流してしまう。
この方法が可能なのはLNGの受け入れ基地ならではのメリットだという話だった。
ガス会社のサーモン 広がるか?
東邦ガスがLNGを使って養殖したサーモンは、ことし6月に初水揚げが行われ、スーパーなどに出荷された。
ブランド名は「知多クールサーモン」。
LNGの冷たさを利用した「かっこいい」養殖魚という意味を込めて名付けたそうだ。
11月からは2回目となる養殖に取り組んでいて、今後、養殖規模の拡大に向けて、実証実験を重ねていく予定だ。
どちらかといえば無機質な印象のガス工場の中で、元気に泳ぐトラウトサーモン。
世界的なサーモンの獲得競争が活発化する中で、もしかしたら、日本の都市ガス工場では当たり前の光景となる日が来るかもしれない、取材をしながらそんなことを考えた。
ブランド名は「知多クールサーモン」。
LNGの冷たさを利用した「かっこいい」養殖魚という意味を込めて名付けたそうだ。
11月からは2回目となる養殖に取り組んでいて、今後、養殖規模の拡大に向けて、実証実験を重ねていく予定だ。
どちらかといえば無機質な印象のガス工場の中で、元気に泳ぐトラウトサーモン。
世界的なサーモンの獲得競争が活発化する中で、もしかしたら、日本の都市ガス工場では当たり前の光景となる日が来るかもしれない、取材をしながらそんなことを考えた。

名古屋放送局記者
野口佑輔
2011年入局
経済部を経て2020年から名古屋局経済キャップ
野口佑輔
2011年入局
経済部を経て2020年から名古屋局経済キャップ