男性の両親は旧統一教会の熱心な信者で、母親は地区の女性信者の取りまとめ役だったといいます。物心ついたころから毎週日曜は礼拝に行き、断食などもしました。
小学校高学年の時、インターネットで旧統一教会について調べると、教義を否定するような情報が次々と出てきました。そのころから疑問を感じるようになりました。
しかし、その疑問を家族の間で口にすることもできず、教義に基づく習慣を続けました。

誰にも相談できず 親にも言えず ずっと自分の中に押し殺して…
「誰にも相談できず、親にも言えず、ずっと自分の中に押し殺して生きてきました」
旧統一教会の信者の両親の元に生まれた男性(22)は静かにつぶやきました。小学生のころから教義に疑問を感じていました。
中学時代には交友関係をチェックされ、恋人がいることが知られると「気持ち悪い。早く別れなさい」と叱られました。
家族以外の相談先も分からず、うつ病になるまで悩み続けましたが、一つの出会いが彼を変えました。
彼の20年を通して、信仰の強制に疑問を持つ未成年“宗教2世”の苦悩と支援のヒントを探ります。
小学生のとき教義に疑問 しかし口にすることはできず


朝4時に開かれる勉強会に参加し、教義を教え込まれました。平日でも大きな行事が行われ、学校を休んで参加しました。
「自分の体についた霊を落とすために歌を歌ったり、ほこりを払うように軽く体をたたかれたりしました。信仰心がない自分にとっては非常につらかった」
「自分の体についた霊を落とすために歌を歌ったり、ほこりを払うように軽く体をたたかれたりしました。信仰心がない自分にとっては非常につらかった」
SNSのやりとり勝手にチェックされ『こんな汚いことを』と…
中学生のころ、スマートフォンを持つことは許されましたが、SNSでの友人とのやりとりは勝手にチェックされました。
中学1年のときに恋人ができました。しかし・・・。
男性
「彼女とのLINEのやりとりを勝手に見られ、『こんな汚いことをしていたのか。気持ち悪い。早く別れなさい』と言われました。別れさせられ、罪を清算するために『聖酒』と呼ばれる液体を飲まされました。すごくつらかったです」
結婚前の自由恋愛を否定する信者は多く、男性の家庭でも、同年代の女性との会話が禁止されていたのです。
中学1年のときに恋人ができました。しかし・・・。
男性
「彼女とのLINEのやりとりを勝手に見られ、『こんな汚いことをしていたのか。気持ち悪い。早く別れなさい』と言われました。別れさせられ、罪を清算するために『聖酒』と呼ばれる液体を飲まされました。すごくつらかったです」
結婚前の自由恋愛を否定する信者は多く、男性の家庭でも、同年代の女性との会話が禁止されていたのです。
本音は言えず 周りに助けを求めようとも思わず
男性はこうした経験を重ねても、両親に「旧統一教会の教えを信じていない」とは言えませんでした。10代後半のころからは不眠や頭痛に苦しむようになりました。およそ3週間、ほとんど眠れない日々が続いたこともありました。
しかし、病院に行こうとはなかなか思えませんでした。その理由を問うと、以前あったエピソードを教えてくれました。
「自分が体調を崩したときに親に相談したら、願い事を書いて神様がかなえてくれるという『祈願書』を教団の施設で買ってきた。自分のことのすべてを教義に結びつけられて、自分の人生を決められるので、その後は病院のことも相談しようと思わなくなった」
19歳のころには症状がさらに深刻になり、耐えきれず親にないしょで病院に行きました。うつ病と診断され、目指していた大学進学を諦めざるを得ませんでした。
これだけ苦しんでも親には本音は言えず、行政など周りに助けを求めようとは思いませんでした。
「行動は間違っていても、両親は子どものためによかれと思ってやっている。仮に『信じていない』と話したとしても、『信仰が足りない』と余計に押しつけられる恐怖があり、言えずに心のバランスが崩れた。行政に相談しても、『身内で解決する問題だ』などと言われると思っていたので、頼っても仕方ないと思っていた」
しかし、病院に行こうとはなかなか思えませんでした。その理由を問うと、以前あったエピソードを教えてくれました。
「自分が体調を崩したときに親に相談したら、願い事を書いて神様がかなえてくれるという『祈願書』を教団の施設で買ってきた。自分のことのすべてを教義に結びつけられて、自分の人生を決められるので、その後は病院のことも相談しようと思わなくなった」
19歳のころには症状がさらに深刻になり、耐えきれず親にないしょで病院に行きました。うつ病と診断され、目指していた大学進学を諦めざるを得ませんでした。
これだけ苦しんでも親には本音は言えず、行政など周りに助けを求めようとは思いませんでした。
「行動は間違っていても、両親は子どものためによかれと思ってやっている。仮に『信じていない』と話したとしても、『信仰が足りない』と余計に押しつけられる恐怖があり、言えずに心のバランスが崩れた。行政に相談しても、『身内で解決する問題だ』などと言われると思っていたので、頼っても仕方ないと思っていた」
家出を計画するように そのころ偶然の出会いが

「このまま生きていくのがつらい」と感じていた男性は、家出を計画するようになりました。ちょうどそのころ、偶然の出会いがありました。
SNSなどを通じて宗教2世の相談に乗り続けている、社会福祉士の松田彩絵さんです。男性はSNSで知り合った同じ境遇の2世に紹介され、松田さんと会いました。
SNSなどを通じて宗教2世の相談に乗り続けている、社会福祉士の松田彩絵さんです。男性はSNSで知り合った同じ境遇の2世に紹介され、松田さんと会いました。

松田彩絵さん
「男性と出会ったときのとても苦しそうな様子はいまも鮮明に覚えています。『家出したい、でも未成年だから…』と悩む男性に手を差し伸べることができるかずっと考えていました。過去に行政の窓口で対応してくれなかったケースも経験していたので、私も不安な気持ちはありました」
松田さんは、男性に代わって行政と掛け合うようになり、うつ病で就労できないとして生活保護の受給を認めてもらったほか、居場所を親に知られないための手続きも行いました。
支援団体にもつないで家具などももらいました。松田さんの支援で、男性は20歳を機に家を出て、家族との連絡を絶ちました。
松田さんは今も定期的に連絡を取って男性をサポートしています。
「男性と出会ったときのとても苦しそうな様子はいまも鮮明に覚えています。『家出したい、でも未成年だから…』と悩む男性に手を差し伸べることができるかずっと考えていました。過去に行政の窓口で対応してくれなかったケースも経験していたので、私も不安な気持ちはありました」
松田さんは、男性に代わって行政と掛け合うようになり、うつ病で就労できないとして生活保護の受給を認めてもらったほか、居場所を親に知られないための手続きも行いました。
支援団体にもつないで家具などももらいました。松田さんの支援で、男性は20歳を機に家を出て、家族との連絡を絶ちました。
松田さんは今も定期的に連絡を取って男性をサポートしています。
”いつか役に立てる人間に”

男性は家出をしてから今までの2年間、両親に居場所を知られるのを防ぐため、地元の友人とも連絡をとらず、ほぼ1人で暮らしました。いまは自立を目指し、治療を続けながら就職活動を行っています。
独学で得たプログラミングなどの知識を生かし、ゲームの仕事に携わるのが夢だと言います。「いつか自分も、境遇や宗教を超えて誰かの役に立てるような人間になりたい」。
独学で得たプログラミングなどの知識を生かし、ゲームの仕事に携わるのが夢だと言います。「いつか自分も、境遇や宗教を超えて誰かの役に立てるような人間になりたい」。
声を上げられない未成年の”宗教2世”を助けるには

厚生労働省はことし10月、児童相談所がある自治体などに通知を出しました。宗教に関することを理由に消極的な対応を取ることがないよう求め、身体的暴力や子どもの心を傷つけるような児童虐待に適切に対応することとしています。
助けを求めていても声を上げることができない2世を支援していくために、どうすればよいのでしょうか。
宗教社会学が専門で、これまで長年にわたり旧統一教会の元信者への聞き取りを行ってきた北海道大学の櫻井義秀教授は、松田さんのような支援者の存在が一つのヒントになるといいます。
助けを求めていても声を上げることができない2世を支援していくために、どうすればよいのでしょうか。
宗教社会学が専門で、これまで長年にわたり旧統一教会の元信者への聞き取りを行ってきた北海道大学の櫻井義秀教授は、松田さんのような支援者の存在が一つのヒントになるといいます。

北海道大学 櫻井義秀教授
「未成年の2世が悩みを抱えても、数ある行政の窓口の中から適切な窓口を探すことが困難です。どこに助けを求めていいかわからない、助けを求めても支援につながらないと考え、苦悩を深めてしまう状況にあります。こうした状況を解決するためにも、社会福祉士や精神保健福祉士、公認心理師など専門的な知識を持った支援者が2世と適切な行政の窓口を橋渡しする役目を担うことが重要です。そうした支援が途切れないよう、行政は支援者への補助も含めて、体制を整備していくことが望ましいのではないか」
「未成年の2世が悩みを抱えても、数ある行政の窓口の中から適切な窓口を探すことが困難です。どこに助けを求めていいかわからない、助けを求めても支援につながらないと考え、苦悩を深めてしまう状況にあります。こうした状況を解決するためにも、社会福祉士や精神保健福祉士、公認心理師など専門的な知識を持った支援者が2世と適切な行政の窓口を橋渡しする役目を担うことが重要です。そうした支援が途切れないよう、行政は支援者への補助も含めて、体制を整備していくことが望ましいのではないか」