今回の安全対策では、事業者の参入段階で、安全意識の低い事業者を排除し、船員の資質を向上させるなどして事故を防ぐことを目的にしています。
また、不測の事態が起きた際に被害を軽減させるため、船舶の安全基準も強化します。
安全対策は、7つの分野で合わせて66項目に上ります。
【1.事業者の安全管理体制の強化】
観光船の沈没事故では、出航の判断などを行う「運航管理者」について、当日、事業所にいなかったことや、選任されていた社長が実務経験がほとんどないにもかかわらず、国に対し虚偽の届け出をしていたことなど、安全管理に問題があったことが明らかになっています。
このため、運航管理者の試験制度を設けるとともに、責任を明確化するとしていて、
▽資格を持った運航管理者らが確実に管理業務にあたれる体制を確保するよう事業者に義務づけ、乗船中の船長が兼務することは原則、禁止します。
また、
▽資格を持たない人が代行することも禁止し、必要に応じて運航管理者を複数選任し、交代で担当するよう求めるということです。
【2.船員の資質の向上】
事業用操縦免許を厳格化するなど船長の要件を創設します。
また、ハッチカバーが確実に閉まっていることの確認を含む出航前の検査を実施するよう求めます。
小型旅客船の初任の船員に対しては、緊急時に避難する港での出入港も含めた訓練を行うことなども盛り込まれました。
【3.船舶の安全基準の強化】
水温が10度未満の水域を航行する旅客船などに、救命いかだの設置を義務づけます。
また、国の船舶検査で、電波の届かないエリアがある携帯電話が船の通信設備として認められていたことを踏まえ、法定無線設備から携帯電話を除外し、業務用無線設備などの導入を促進します。
【4.監査・処分の強化】
罰則を強化するほか、違反点数制度や船舶使用停止処分などを導入し行政処分制度を見直します。
また、法令違反や事故のリスクが高い事業者への監査を重点的に行うため、各地の運輸局に通報窓口を設け、利用者や従業員から安全運航に問題があると思われる情報を受け付けています。
【5.船舶検査の実効性の向上】
日本小型船舶検査機構=JCIの検査方法の総点検・是正と監督の強化を行います。
また、検査の際には、国の職員が現場に随時立ち会って確認するということです。
【6.安全情報の提供の拡充】
「KAZU 1」の運航会社は複数の規程違反で「行政指導」を受けたものの、公表されていませんでした。
事業停止や許可取り消しなど、「行政処分」を受けた事業者については公表されていましたが、処分に至らない「行政指導」を受けたケースも対象に加えられ、公表期間もこれまでの2年から5年に延長されました。
【7.利用者保護の強化】
旅客傷害賠償責任保険の限度額引き上げや、旅客名簿の備え置き義務の見直しを行います。
観光船沈没事故受け 国が旅客船の安全対策66項目取りまとめ
北海道の知床半島沖の観光船の沈没事故を受けて、国土交通省は、罰則の強化や出航前のハッチカバーの確認など、66項目に上る旅客船の安全対策について、取りまとめを行いました。
知床半島沖の観光船の沈没事故を受けて設置された旅客船の安全対策を検討する国の委員会では、これまでの議論を踏まえた取りまとめの案が示され、了承されました。
それによりますと、安全対策は「事業者の安全管理体制の強化」や「船員の資質の向上」、「船舶の安全基準の強化」など7つの分野の66項目に上ります。
具体的には、▽運航管理者の試験制度の創設や▽教育訓練の導入、▽通信設備として携帯電話を除外すること、▽罰則の強化などで、今月、国の運輸安全委員会が留め具に不具合があったハッチから海水が流入したなどとする報告書を公表したことを受けて、▽出航前のハッチカバーの確認も盛り込まれました。
また、▽国の代行機関として検査を行う日本小型船舶検査機構=JCIによるハッチカバーの確認が十分ではなかったとして、検査方法も変えるということです。
これらの実施スケジュールも示され、
▽令和6年度をめどに改良型救命いかだの設置を原則義務化するほか、
▽令和7年度をめどに運航管理者の試験制度を創設するなどとしています。
一方、運輸安全委員会の報告書で、船底の隔壁に穴がなければ沈没を回避できたと指摘されたことから、国土交通省は、隔壁の水密化の義務づけなどを検討する有識者の検討会を設置し、来年3月末までに結論を出すことにしています。
国の安全対策の詳細
斉藤国交相「提言を実行していく仕組みづくりを」

安全対策が取りまとめられたことについて、斉藤国土交通大臣は、委員会の中で、「輸送の安全の確保は旅客船事業の大前提だが、今回の事故によりかけがえのない命が失われてしまったことを重く受け止め、このような痛ましい事故を二度と起こさないことを強く決意した。今回の提言を実行していく仕組みづくりをしっかりと行っていきたい」と述べました。
また、国の検討委員会の委員長を務める一橋大学の山内弘隆名誉教授は終了後、「できるところから対策を講じていくことを念頭に議論を進めたことで、これらの対策や法改正につなげることができたのではないか」と話していました。
また、国の検討委員会の委員長を務める一橋大学の山内弘隆名誉教授は終了後、「できるところから対策を講じていくことを念頭に議論を進めたことで、これらの対策や法改正につなげることができたのではないか」と話していました。
知床小型観光船協議会 “点検など今まで以上にきちんと”
国土交通省が取りまとめた旅客船の安全対策について、斜里町ウトロの小型観光船の事業者でつくる「知床小型観光船協議会」の神尾昇勝会長は「事故が起こった時の対応を含めて、より安全に運航できる体制がとれると思う。事業者としては、運航開始前の点検などを今まで以上にきちんとしていかなければならない」と話しました。
一方で、改良型救命いかだなど、新たな設備投資が求められることについては「補助金があるとはいえ、事故の影響で観光客が少ない中、経費がさらに上乗せになる。救命いかだを先に用意した事業者に乗客が集まってしまう可能性もあり、事業の存続に不安がある」と懸念を示しました。
また、今後の国や関係機関への要望としては、「事業者がやらなければならないことが多岐にわたり、分からない部分や不安な部分が出てくると思うので、行政側と連絡を取り合えるネットワークが重要だと思う。事業者の声を聞いてもらえる環境を作ってもらえればありがたい」と話しました。
一方で、改良型救命いかだなど、新たな設備投資が求められることについては「補助金があるとはいえ、事故の影響で観光客が少ない中、経費がさらに上乗せになる。救命いかだを先に用意した事業者に乗客が集まってしまう可能性もあり、事業の存続に不安がある」と懸念を示しました。
また、今後の国や関係機関への要望としては、「事業者がやらなければならないことが多岐にわたり、分からない部分や不安な部分が出てくると思うので、行政側と連絡を取り合えるネットワークが重要だと思う。事業者の声を聞いてもらえる環境を作ってもらえればありがたい」と話しました。
斜里町長「実効性を伴っていくことが大事」
北海道斜里町の馬場隆町長は「検討を進めてきたものがまとまったことは、よかったと思う。ただ、まとめて終わりではいけないので、今後は事業とのバランスをとりながら実効性を伴っていくことが大事になると思う」とコメントしています。