「生態系破壊」野生のシカ 昨年度72万頭捕獲も食害が深刻化

日本国内ではいま、野生のシカが増え、森林や山岳の生態系が脅かされる被害が深刻化しています。

環境省によりますと、全国のニホンジカの生息数はおよそ200万頭と推計されています。

昨年度は過去、最も多いおよそ72万5000頭が捕獲されていますが、適正な生態系に戻すために管理が追いついていない状況です。
神奈川県小田原市を拠点にシカによる被害を防ぐ活動をしているNPO法人では、田畑や林業用の木がシカに荒らされる被害が相次いでいることから被害が出た現場の周辺にわなをかけて捕獲するなどの活動を行っています。

こうした活動の中で、箱根山の林道ではシカが地面に生えた笹を食べ尽くしたり、植樹したブナやスギの芽を食べて枯らしてしまったりする被害が顕著に見られるようになるなど各地で被害が広がっているといいます。

シカが土を覆っている背の低い草を好んで食べるため土の表面が露呈し、雨が降ると土が流れ出して植物が育ちにくい環境になってしまっていると懸念を示しています。
NPO法人「おだわらイノシカネット」の小川晋一さんは「シカによって、森のサイクルが崩れてきている。早く対策を取って、シカの数を押さえ込まないと、生態系が崩れていく」と危機感を募らせています。
環境省の調査によりますと、昭和53年からの40年間でニホンジカの生息分布域はおよそ2.7倍に拡大し、特に近年は、これまでシカが確認されてこなかった地域、例えば長野県松本市の標高1500メートルの上高地や白神山地の世界遺産地域でもシカが確認されるようになったほか、南アルプスではコマクサやクロユリなどの希少な高山植物が食べられる被害が報告されています。

またシカの生態に詳しい専門家によりますと、ヨーロッパや北アメリカなどでもシカの増加による生態系への悪影響が指摘されているということです。

専門家「温暖化による雪の減少や狩猟者の減少など複数の要因」

ニホンジカが増えた要因について、シカの生態に詳しい静岡県森林・林業研究センターの大橋正孝森林育成科長は地球温暖化によって地面を覆う雪が減ったために、冬でもエサを食べて越冬しやすくなったことやシカを捕獲する狩猟者が減ったことで、地域で管理ができなくなったことなど、複数の要因をあげ「どの要因もシカにとってはプラスだった」と分析しています。

大橋さんは「シカは1頭で1年間に1トン近くの草を食べるとされているので、希少な植物にとってはひとたまりもない。希少な植物や生態系は一度ダメージを受けてしまうと取り戻せないため、増えすぎたシカの数を減らすことと同時に、希少な植物を守ることが必要だ」と指摘しています。

そのうえで「多様な生物が存在することは天変地異が起きて、なにか困難に直面したときに、その困難に役立つ成分を持った植物が発見されたり特効薬ができたりする可能性が増えるということだ。逆に多様性が失われると、困難を乗り越えにくくなくなってしまう。生物の多様性を守るためにも目的意識をみんなでひとつにして連携することが大事だと思う」として、生物多様性の保護に向け世界が目標を決めて協調していくことの大切さを指摘していました。