【詳しく】日本の安全保障の大転換 “安全保障3文書”閣議決定

政府は、臨時閣議で「国家安全保障戦略」など3つの文書を決定しました。敵の弾道ミサイル攻撃に対処するため、発射基地などをたたく「反撃能力」の保有が明記され、日本の安全保障政策の大きな転換となります。

安全保障3文書とはどういったものなのか。
安全保障上の課題とは。

詳しくまとめています。

安全保障3文書とは

政府はアメリカの戦略文書との整合性を踏まえ、安全保障関連の3つの文書の体系や名称を見直しました。
このうち、外交・安全保障の最上位の指針である「国家安全保障戦略」は2013年に策定されて以来初めての改定です。

おおむね10年程度の期間を念頭に、外交・防衛に加え、経済安全保障、サイバーなどの政策に戦略的指針を与える文書となります。

防衛の目標と手段を示す「国家防衛戦略」は、防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」に代わる文書です。

武力行使が起きた際に同盟国アメリカなどの支援を受けつつ、日本が責任を持って対処することなど、日本が目指すべき3つの「防衛目標」を設定し、その達成に向けた方法と手段を示すものと位置づけています。

「防衛力整備計画」は、防衛費総額や装備品の整備規模を定めた「中期防衛力整備計画」に代わる文書で、計画の期間をこれまでの「5年」から「10年」に延長しています。

自衛隊の体制については、おおむね10年後の体制を念頭におく一方、防衛力整備の水準や主要な装備品の整備規模は前半の5年間を対象に明記しています。

安全保障上の課題は?

「国家安全保障戦略」は安全保障上の課題として、中国、北朝鮮、ロシアの順に記述しています。

9年前に策定したこれまでの戦略では、北朝鮮、中国の順に記述していましたが、覇権主義的な動きを強める中国への警戒感がより反映された形となっています。

また新たに、ウクライナへの侵攻を続けるロシアが盛り込まれました。

中国

中国の動向について、沖縄県の尖閣諸島周辺での領海侵入や領空侵犯を含めて、東シナ海や南シナ海の海や空で力による一方的な現状変更の試みを強化し、日本の安全保障に影響を及ぼす軍事活動を拡大・活発化させていると指摘しています。
さらに、ロシアとの戦略的な連携を強化し、国際秩序への挑戦を試みていると指摘しています。

また、台湾への武力行使の可能性を否定せず、台湾周辺で軍事活動を活発化させており、国際社会全体で急速に懸念が高まっているとしています。

その上で、「わが国と国際社会の深刻な懸念事項であり、これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記述しています。

これはアメリカの「国家安全保障戦略」の中で、中国の動きをアメリカ軍の抑止力の維持・強化にとって「対応を絶えず迫ってくる挑戦」と表現していることと足並みをそろえた形です。

北朝鮮

北朝鮮の動向については、近年かつてない高い頻度でアメリカ本土を射程に含むICBM=大陸間弾道ミサイル級や変則軌道で飛行するミサイルなど新たな態様での発射を繰り返しているとして、「わが国の安全保障にとって従前よりもいっそう重大かつ差し迫った脅威となっている」と指摘しています。

ロシア

ロシアの動向については、ウクライナへの侵攻によって国際秩序の根幹を揺るがし、ヨーロッパ方面では「安全保障上の最も重大かつ直接の脅威」と受け止められていると指摘しています。

また、日本を含むインド太平洋地域における軍事動向について、中国との戦略的な連携強化とあいまって「安全保障上の強い懸念だ」と指摘しています。

周辺の国や地域との関係は?

一方、「国家安全保障戦略」には周辺の国や地域との関係について次のように記述しています。

韓国

地政学的にも日本の安全保障にとっても「極めて重要な隣国」と位置づけています。

そして北朝鮮への対応などを念頭に安全保障面を含めて、日韓、日米韓3か国の戦略的な連携を強化するとしています。

一方、日本固有の領土である島根県の竹島の領有権問題は日本の一貫した立場に基づいて毅然と対応し、平和的に解決するため、粘り強く外交努力を行う方針を示しています。

台湾

民主主義を含む基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人の往来がある「極めて重要なパートナーであり、大切な友人」としています。

そして、台湾海峡の平和と安定は国際社会の安全と繁栄に不可欠で、台湾問題の平和的解決を期待するとの立場でさまざまな取り組みを継続していくとしています。

反撃能力

敵の弾道ミサイル攻撃などに対処するため、発射基地などをたたく「反撃能力」を保有する理由やその定義、それに装備については次のように盛り込まれています。

保有の理由

保有の理由として、極超音速ミサイルや、弾道ミサイルが大量に撃ち込まれる「飽和攻撃」など日本へのミサイル攻撃が現実の脅威となっている中で、迎撃による今のミサイル防衛だけで対応することは難しくなっていると指摘しています。

その上で、ミサイル防衛を強化して、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からのさらなる攻撃を防ぐため「反撃能力」が必要だとしています。

反撃能力の定義

「反撃能力」を、「やむをえない必要最小限度の自衛の措置として相手の領域でわが国が有効な反撃を加える自衛隊の能力」と定義しています。

行使のタイミングは、武力行使の3要件に合致した場合で、武力攻撃の手段として弾道ミサイルなどによる攻撃が行われた場合としています。

一方、反撃能力は憲法や国際法の範囲内で行使され、先制攻撃は許されないとして、専守防衛の考え方に変わりがないことを強調した上で、日米が協力して対処するとしています。

反撃の対象は具体的に明示されていませんが、文書に関して続けられてきた自民・公明両党の実務者協議では、政府側は、国際人道法を踏まえて反撃の対象は「軍事目標」に限られ、相手の攻撃を防ぐのにやむをえない必要最小限度の措置とすると説明しています。

反撃能力の装備

「反撃能力」を行使するための装備として敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の研究開発や量産を前倒しして、2027年度までに早期の装備化を推進し、おおむね10年後までに十分な数量を保有するとしています。
具体的には、射程を大幅に伸ばした陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」の改良型と、島しょ防衛に使う「高速滑空弾」の開発を進めて配備を2026年度から順次始め、音速の5倍以上の速さで飛行する「極超音速誘導弾」などの開発も進めるとしています。

また、アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」をはじめとする外国製のミサイルの着実な導入も進めます。

「トマホーク」の配備は2026年度からを予定し、艦艇への配備を検討しているということです。

このほか、潜水艦に搭載可能な垂直型のミサイル発射システムを開発するほか、「スタンド・オフ・ミサイル」を保管するための火薬庫を増設するとしています。

与党協議は

「反撃能力」の保有は防衛力強化に向けた自民・公明両党の実務者協議で先月25日から議論が始まり、3回の協議を経て、今月2日に合意に至りました。

協議の過程で自民党は「現在の装備では国民の安心を確保できず、反撃能力は必要だ」と主張したのに対し、公明党は「戦後、長い間、政策判断として保有してこなかったものを変更するものになる」として丁寧な議論を求めました。

また、公明党は「反撃能力の行使は自衛権行使の一環であることをしっかり強調してほしい」として、敵から攻撃を受けた際などに作る「対処基本方針」の中で、事態認定の経緯や前提となった事実を明確に盛り込むよう求めました。

両党の協議では、日本が直接攻撃されていない、同盟国アメリカなどへの武力攻撃にも、集団的自衛権の行使として反撃能力を発動することも排除しないことを確認しました。

防衛費増額 岸田首相が主導

防衛費の増額について、岸田総理大臣はたびたび「内容と予算と財源の3点をセットで議論する」と説明してきました。

決定にあたっては岸田総理大臣みずからが主導し、相次いで3回にわたって閣僚や自民党に指示を出す形で進められました。

来年度から5年間の防衛費をめぐり、当初は防衛省が48兆円程度が必要だとする一方、財務省は30兆円台半ばに抑えたいとして双方の隔たりは10兆円を超えていました。

1回目の総理指示は先月28日。

岸田総理大臣は浜田防衛大臣と鈴木財務大臣を官邸に呼び、5年後の2027年度に防衛費と関連する経費もあわせてGDPの2%に達する予算措置を講じるよう指示しました。

5年後に到達すべき水準を明確に示すことで、両省の歩み寄りを促した形で、幅は40兆円から43兆円程度まで縮まります。

2回目は今月5日。

岸田総理大臣は再び両閣僚を官邸に呼び、来年度から5年間の防衛費について総額およそ43兆円を確保するよう指示し、防衛費の大枠が決着します。

3回目は今月8日。

岸田総理大臣は防衛費増額で不足する1兆円を超える財源として与党に対し、年末までに税目や施行時期を含めて増税を検討するよう指示しました。

税制改正大綱の決定を翌週に控えた中で、直前に与党にとりまとめを迫った形です。

わずか10日程度のうちに3回にわたって総理指示を出すことで、防衛費増額に向けた道筋がつけられました。

「GDPの2%」「43兆円程度」

3つの文書の中には、今後の防衛費増額の目安として2つの数字が明記されています。

1つは「国家安全保障戦略」に明記されている、2027年度に防衛費と関連する経費をあわせて達成する予算措置の「GDPの2%」。

もう1つが「防衛力整備計画」に明記されている、来年度から5年間の防衛力整備の水準「43兆円程度」です。

いずれも岸田総理大臣が指示した数字です。

GDP2%の内訳は

GDP2%は現在のGDPをもとにした目安で計算すると11兆円程度になります。

政府は、このうち防衛費で9兆円程度関連する経費で2兆円程度を見込んでいます。

防衛費9兆円の内訳は
▽今の防衛費の水準の5兆2000億円に加え
▽歳出改革で1兆円余り
▽年度内に使われなかった「決算剰余金」の活用で7000億円程度
▽国有資産の売却などで得られる税外収入などをためておき防衛力整備にあてる「防衛力強化貸金」で9000億円程度で、
それでも不足する1兆円余りを増税で賄う方針です。

また関連する経費2兆円の内訳は、海上保安庁の予算などNATO=北大西洋条約機構の基準を参考にした他省庁の予算に加え、新たに研究開発、公共インフラ、国際的協力、サイバー安全保障の4つの分野をあてることにしています。

これらをあわせてGDPの2%にあたる11兆円を達成することにしています。

43兆円の内訳は

来年度から5年間の防衛力整備の水準の43兆円程度の内訳について、政府は40兆5000億円程度は各年度の当初予算で措置するほか、自衛隊の隊舎や宿舎などを整備するためにあてる1兆6000億円程度の財源については公共事業に使われる「建設国債」をあてる方針です。

建設国債はこれまで防衛費にあてることは認められておらず、国債発行のあり方を転換することになります。

財源確保の課題

政府はこのように防衛費増額の財源を確保する方針ですが、高齢化の進展による社会保障費の増加や、少子化対策のためのこども子育て予算の増加など、防衛費のほかにも重要な課題解決に向けて歳出の増加圧力が強まる中、歳出削減は簡単なことではありません。

政府は歳出改革の具体的内容を現時点では明らかにしておらず、思うように財源が捻出できるのか、不透明な状況です。