長く着たら、お得? ~アパレル業界の大量廃棄を減らせ!~

長く着たら、お得? ~アパレル業界の大量廃棄を減らせ!~
着なくなった衣料品、どうしていますか?
団体に寄付、リサイクルボックスで回収、フリマアプリで販売。どれもサステイナブルに見えますが、そもそも手放さずに“長く着る”ことができれば、処分の手間もかからず、新しく買う費用も節約できるのでは。
大量廃棄が課題となっているアパレル業界では、長く着てもらうための取り組みが広がっています。(経済部記者 河崎眞子)

ユニクロ、補修サービスを試験導入

東京都世田谷区にある「ユニクロ」の店舗では、10月から補修サービスを試験的に始めました。

自社の商品が対象で、穴があいたり、糸がほつれていたり、しみになったりしても、技術的に直せるものは、もう一度着られる衣料品に直します。
冬の時期に多い注文は、ダウン。

外側のナイロン生地を何かに引っかけてしまった場合には、裂けた部分を縫い合わせたり、似た色合いの生地を上から縫いつけたりします。

ニットのほつれやジーンズの股裂けなどにも対応しています。

写真にある補修品はサンプルなので目立つ色の糸を使っていますが、実際の補修では生地に合わせた色を使って、目立たなくしています。
さらに、補修した上から刺しゅうを施すこともできます。

柄は動物や花、数字などおよそ100種類あり、自分好みにカスタマイズすれば、新品を買ったような気分になって同じ商品を2度楽しめるといいます。

新品を買うより安い?!

こうした補修・リメイクの料金は1か所500円から。

直す部分が多くなければ、新品を買うよりも補修するほうがお得です。

初めてこのサービスを利用したという男性は、襟が破れたシャツを持ち込んでいました。
サービスを利用した客
「こちらの商品はそれほど高くないので、補修費用とのバランスも考えましたが、手ごろな値段で直せるのであればいいかなと思います。これまで着られなくなった服はだいたい捨てていましたが、この商品は愛着があるので直してほしいです」。

客をつなぎ止めるアフターサービス

こうした補修サービスはヨーロッパやアジアの8つの国・地域で行っています。

このうち日本では来年3月まで試行したうえで改善点を洗い出し、大型店舗を中心に導入したい考えです。

とはいえ、メーカーにとっては新商品を買ってもらうほうが売り上げにはつながります。

そのことを率直に尋ねると、こう答えが返ってきました。
花田彩さん
「商品を1回買ってもらうよりも、お客様との関係を作っていくことが重要だと考えています。ご購入いただいたあとも、アフターサービスでお客様とコミュニケーションをとって、服を一緒にケアしていくことで、関係性を深くしていきたいです」

アパレル業界は“世界2位の環境汚染産業”!?

ユニクロを展開する「ファーストリテイリング」のほかにも、百貨店を中心に「23区」や「組曲」などを出店するアパレル大手「オンワード」のグループが、不良品としてメーカーの倉庫に戻ってきた商品の補修サービスをしています。

こうした大手企業がサービスを始めた背景には、国連貿易開発会議で「アパレル業界は世界第2位の環境汚染産業」と指摘されたことも影響しています。
環境省の推計によると、国内で供給されている衣料品全体で、原材料の調達から製造までに排出されるCO2=二酸化炭素の量は年間9万キロトン。

1着あたりに換算するとおよそ25.5kgで、500mlのペットボトルをおよそ255本製造する際の排出量に匹敵します。

環境に大きな負荷をかけているにもかかわらず、国内の衣料品の供給量は2019年の時点でおよそ35億点にのぼり、1990年の1.7倍に増えています。

低価格化が進んでいることも、“たくさん買う”消費行動を促しています。

消費者ができることは

一方、私たち消費者もすべきことはあります。

環境省の推計によると、国内の家庭から手放された衣料品全体のうち7割は再利用されずに焼却や埋め立てされ、その量はおよそ48万トンにのぼります。

これは、1日あたり平均で大型トラック130台分に相当するのです。

しかし、1着をもう1年長く着るだけでも削減につながります。

長く着たくなる服って何?

こうした大量廃棄の問題に向き合うベンチャー企業も出てきました。

2012年に創業した「FABRIC TOKYO」は、独自のオーダーメード方式で客にフィットするスーツを徹底的に追求することで、1着を長く愛用してもらおうとしています。
大きな特徴は、客への細かな聞き取りを通じて、体型や好みだけでなく、ライフスタイルもフィットしたスーツを手ごろな値段で提供していることです。

そんなことも質問するの?

全身のサイズを細かく丁寧に採寸するだけでなく、客に対して、仕事の内容や生活習慣、好みなど、その人に合わせた30の質問を行い、生地の選定や仕上がりの寸法に反映させています。
例えば、通勤手段。

自転車通勤であれば、こぎやすいようにスラックスの太もものサイズにゆとりを持たせたり、伸縮性が高い生地を使うことを提案したりします。

車や電車での通勤であれば、毎日の往復で座席に座ってもすれにくい生地を勧めます。

生地は500種類も用意されているので、機能面と好みの両方で満足のいく選択ができます。

また、スーツを着て行う業務の内容も聞き取ります。

例えば、デスクワークが多くて猫背が習慣になっている人だと、立ったときに体も前かがみになってしまうため、ジャケットの前方にシワが寄ってしまうといいます。

そこで、前方の丈をわずかに詰める一方、背中側を長くして、猫背でも見栄えがよくなるよう補正します。
このブランドで、スーツを仕立てた30代の会社員に話を聞きました。

小学校から大学まで剣道に打ち込んできたこの男性は、肩に筋肉がついていることで既製品ではサイズが合わないことが悩みだとヒアリングで伝えました。

すると、細かいところまで目配りし、スーツを仕立ててもらえたといいます。
スーツを注文した客
「ヒアリングがお医者さんの問診みたいに、細かな項目や自分が思いもしなかったところも測ってもらって、ここまでしてくれるんだと新鮮でした。既製品も4、5着持っていましたが、ジャケットはパツパツになってしまう。オーダーメイドだと、羽織ったときに肩回りがきつくならなくて、すごく手が動かしやすくなりました。お店に来て気づいたのですが、私は腕の長さも若干違うみたいで、左腕の丈をミリ単位で短くしてもらいました」
男性は、このスーツを3年前から着ていますが、スーツが届いたときの感動は今も忘れられないといいます。
「新しく2着、3着買ったとしても使わなければ意味がないので、しっかり使える形に直しながら、自分にフィットしながら使い続けていきたいです」

オンラインも生かしたコスト削減で安さを

こうしたスーツは1セット3万8000円から買え、平均購入額も5万円ほど。

実店舗とオンラインを融合したサービスで、コスト削減を進めたことが手ごろな価格につながっているとしています。
また、最初に実店舗で採寸してもらえば、2回目以降はオンラインで注文することも可能。

採寸データを生かして、自社のサイト上で、客のニーズにあった商品を高い精度でリコメンドすることも可能で、こうした仕組みを使えば、たくさんの店舗を展開する必要はないといいます。

さらにインターネット広告に特化しているため、宣伝効果を目的に大通りの1等地に出店する必要がなく、賃料が比較的安い路地裏の店舗などでも集客できるとしています。

採寸も予約制で、従業員の配置も効率的に行えるため、固定費の削減につながっています。
こうしたコスト削減の一方、客にフィットしたスーツ作りにはこだわります。

オンライン上で定期的にアンケートを行い、ライフスタイルに変化がないかどうかを把握し続けます。

例えば、子どもが生まれれば、送り迎えで通勤手段が変わる可能性もあり、昇進などで業務内容が変われば、スーツを着る場面も変わるかもしれないからです。

アンケートの結果は随時、リコメンドに反映するため、オンラインで購入する場合でも、客のニーズにあった服を提供できるとしています。

将来的にはスーツだけでなく、カジュアル衣料品へも独自のオーダーメードを拡大する計画で、1着を長く愛用する習慣を定着させたいとしています。
長倉紀子さん
「アパレル業界で大量廃棄が大きな社会課題になっている中、オーダーメイドは受注した分しか作らないという非常にサステナブルな衣料品の買い方です。テクノロジーを活用すれば気軽にオーダーメイドを楽しめるので、これが当たり前になると少しずつ社会もよくなっていくのかなと考えています」

“環境にも財布にもやさしい”

「大量生産、大量消費、大量廃棄」のことばに象徴されるように、多くの消費者に大量の商品を売りさばくビジネスモデルが長年続いていますが、いまは環境問題への対応が急務となっています。

今回取材した衣料品を長く着続けようという動きはまだ始めたばかりですが、消費者の意識が変わっていくことで、“環境にも財布にもやさしい”取り組みとして、持続可能な仕組みを築く流れにつながることを期待しています。
経済部記者
河崎眞子
2017年入局
松山局を経て、流通やアパレル業界を担当。
フリマアプリも活用中。