知床観光船沈没事故 “ハッチから海水流入か” 国の運輸安全委

知床半島沖の観光船の沈没事故について、国の運輸安全委員会は船の前方のハッチのふたが十分に閉まっていない状態で運航し、そこから海水が流入したなどとする報告書を公表しました。
船底を仕切る壁に開いた穴から浸水が広がったと考えられ、隔壁を密閉していれば沈没を回避できたとしています。

知床半島の沖合で観光船「KAZU 1」が沈没した事故では、国の運輸安全委員会が事故原因について調査を進めていて、沈没の原因がおおむね解明されたとして経過報告書をまとめ、公表しました。

それによりますと、船底にあった損傷箇所は船の内部まで通じていなかったことなどを踏まえ、浸水については、船の前方の甲板から船の倉庫=船倉につながる「ハッチ」から相当量の海水が流入したと推定されるということです。
具体的には、ハッチのふたの留め具が削れていたことや、事故の2日前に行われた訓練でふたを確実に閉めることができなかったという証言があることから、ハッチのふたが十分に閉まっていない状態で運航するなか、船体の揺れでふたが開き、海水が流れ込んだ可能性があるということです。
また、甲板の下にある2つの船倉と、エンジンがある機関室などを仕切る3か所の壁に穴が開いていたことで浸水が全体に広がったと考えられ隔壁を密閉していれば浸水の拡大を防ぎ、沈没を回避できたとしています。
さらにハッチのふたが外れて客室前方のガラス窓に当たって割れたことで、大量の海水が流入し沈没を早めたとみられています。

一方、船長や乗客の通話内容などから20分ほどで急速に浸水が進んだとみられることもわかったということです。
調査結果を踏まえ、運輸安全委員会は、小型旅客船の事業者に対するハッチの点検や、隔壁の水密化について検討するよう国土交通大臣に意見を出しました。

この事故では20人が死亡、今も6人の行方がわからなくなっていて、海上保安庁は捜索を続けるとともに、業務上過失致死の疑いで捜査を進めています。

20分ほどで急速に浸水が進んだか

報告書では沈没の原因に加え、
▽携帯電話から発信されたGPSの位置情報の解析や、
▽船長や乗客の通話内容についての聞き取り調査などから船の航跡や事故発生に至る経緯についても記しています。

それによりますと、浸水が始まった正確な時間はわかっていないものの、午後1時2分の時点では乗客が親族に電話で下船後の昼食などについて話していて、異常を認識していなかったとみられています。

当時、船は航行ルートの復路に入り、右やや前方から風や波を受ける形で航行していて午後1時3分の時点では、時速およそ6キロから8キロまで速力が落ちていたということです。

気象データなどから沈没現場付近では、2メートル以上の波を受けていたとみられています。

そして午後1時7分ごろ、船長から連絡が入ります。

「スピードが出ないので、戻る時間、結構かかりそうです」と話し、まもなくして「浸水している」とか「救命胴衣を着せろ」といった声が無線から聞こえ、様子が一変したということです。

その後、午後1時21分からおよそ5分間、乗客が親族にかけた電話では、「船首が浸水して船が沈みかかっている。浸水して足までつかっている。冷たすぎて泳ぐことはできない。飛び込むこともできない」と話したということで、船長が異変を伝えてから20分ほどで急速に浸水が進んだとみられています。
そして、この電話を最後に船内からの連絡は途絶え、午後1時26分以降、短時間のうちに沈没したと推定されるということです。

運輸安全委員会は、ハッチのふたが閉まらないなど船体の構造上の問題に加え、
▽荒天時に運航の判断をしたことや、
▽安全管理規定にしたがっていなかったことなどの問題が重なった結果、事故が発生したとみていて、今後さらに調査・分析を進め、最終的な報告書をとりまとめることにしています。

松野官房長官「報告書受け必要な対策図っていく」

松野官房長官は記者会見で「報告書を受け、国土交通省において、年内に予定されている事故対策検討委員会の取りまとめに反映するなど、必要な対策を図っていく」と述べました。

そのうえで「6人が依然行方不明となっていることから、捜索の継続を望む家族の意向も踏まえ、引き続き気象・海象の条件が許すかぎり、巡視船艇や航空機などによる捜索を継続していく。政府としては、二度と今回のような痛ましい事故を起こさないよう、しっかり取り組んでいきたい」と述べました。