ロシア国際政治学者“プーチン政権は国家存亡に関わる賭けに”

ロシアを代表する国際政治学者のドミトリー・トレーニン氏がNHKのインタビューに応じ、「仮にロシアが敗北すればすべてが失われる」と述べ、プーチン政権は国家の存亡にも関わる賭けに出ているという見方を明らかにしました。そのうえで、軍事侵攻の終結に向けて「解決できるのは2人だ」と述べ、最終的にはロシアとアメリカの首脳による決断によってしか、停戦などは望めないという見通しを示しました。

トレーニン氏は、プーチン政権に外交アドバイスを行うこともある著名な国際政治学者で、今月8日にNHKのインタビューに応じました。

この中で、トレーニン氏は欧米との関係について、「完全に崩壊した」と述べ、なかでもアメリカについては、「戦闘に直接参加していないが、ロシア兵はアメリカの砲弾やミサイルで死亡している。これは、ロシアとアメリカの代理戦争だ」と述べました。

そのアメリカが主導するNATO=北大西洋条約機構との対立をめぐって、トレーニン氏は「加盟国は、冷戦時代よりも敵対的な立場をとっている。激化する危険性はある」と述べ、ロシアとNATO加盟国が直接、軍事衝突する危険性は排除できないという見方を示しました。

そして、「今起きていることは、第1次世界大戦に匹敵する戦争だ。仮にロシアがこの戦争で負けるとしたら、私たちが、いま見ているロシアは存在しなくなるかもしれない。敗北すればすべてが失われる。私たちは、これがロシアという国家の存在をかけた戦いであることを理解しなければならない」と述べ、プーチン政権は、理念や歴史を含むロシアの存亡にも関わる重大な賭けに出ているという見方を明らかにしました。

そして、「交渉や停戦協定について多くのことが言われているが、現実味はない」と述べ、現時点で停戦交渉の再開などは見通せないとしたえで、「戦争は何か月もかかるだろう。2年かかるかもしれない」と悲観的な見方を示しました。

また、軍事侵攻の終結に向けた道筋を巡って、トレーニン氏は、経済制裁など欧米側の圧力がきっかけになる可能性については「ありえない」と否定した一方、「プーチン大統領が目指しているのは常に1つだ。アメリカがロシアの国益の合法性を承認することだ」と述べました。

そのうえで、「解決者は2人いる。1人はモスクワにいて、もう1人はワシントンにいる」と述べ、最終的には、ロシアとアメリカの首脳による決断によってしか、停戦などは望めないという見通しを示しました。

ロシアの核戦力について、トレーニン氏は「私たちには、アメリカとその同盟国がウクライナへの紛争に直接参加することを排除するのに十分な核兵器がある」と述べ、プーチン政権は核戦力による脅威が抑止力になると考えていると指摘し、現時点でウクライナで使われる可能性は低いとしています。

一方、ロシア国内の現状についてトレーニン氏は、ロシア社会には強い不安感が漂っているとして、「およそ80年間で初めて、人々は国益のために命を犠牲にする必要性に直面した。人々は、これは過去のことで、生活はよりよくなり、より自由に生きて、国家に対する義務は最小限になると思っていた」と述べ、第2次世界大戦以来となる国民の動員が、社会の空気を一変させたと指摘しました。

そして、政権基盤は安定しているという認識を示したうえで、「政権にとって国内の前線は、いつでもあらゆる外部の前線より重要だ」と述べ、プーチン大統領は、独自の調査を実施するなど、世論を慎重に見極めながら政権運営にあたっていると明らかにしました。

ただ、トレーニン氏は「ロシアは社会を変え、内政も外交政策も変え、国際関係などすべて変えた」として、ウクライナ侵攻によって激変したロシア社会の将来に憂慮を示すとともに、「この国が肯定的な方向に変化することを願っている。それは、もはや欧米のモデルに従ったものではない。私たちがいるのはここしかないのだ」と述べ、欧米との関係が完全に断絶したなかで、独自の道を模索していかざるをえない局面にいるという認識を示しました。