NISA拡充 インボイス制度 税制改正はどうなる?

来年度の税制改正をめぐり、自民・公明両党は、防衛費増額をめぐる増税策以外の主要項目では合意しています。
個人投資家を対象にした優遇税制「NISA」の拡充や来年10月に始まる消費税のインボイス制度の負担軽減策など、我々の暮らしに深いつながりがある税はどうなるのでしょうか。

【NISA】 拡充 年間の投資 上限額360万円に

今回の税制改正で注目を集めたのが「NISA」の拡充をめぐる議論です。

NISAは個人の資産運用を後押しするために作られた税制の優遇制度で、購入した株式や投資信託などの売却益や配当金が一定の範囲内で非課税となります。

現在は、株式や投資信託が購入できる「一般NISA」と長期の運用を想定して投資対象を一定の投資信託に限定した「つみたてNISA」があります。いずれも期限付きの措置で資産の購入額に上限が設けられています。

▼「一般NISA」は投資期限が2028年までで非課税で保有できる期間は最長5年間となっています。年間の購入額の上限は120万円。非課税で保有できる投資総額は最大600万円です。

▼一方「つみたてNISA」は投資期限が2042年までで非課税で保有できる期間は最長20年間。年間の購入額の上限は40万円で非課税で保有できる投資総額は最大800万円となっています。

この制度はどちらか1つしか選ぶことができません。

ではどう変わるのか。
今回まとまった新たな制度では、
▼長期の積み立てを目的に投資信託だけを購入対象とする「つみたて投資枠」と、
▼上場企業の株式などを購入できる「成長投資枠」を設けます。

新制度は再来年1月から(2024年)スタートし、どちらも利用できるようにします。その上で、制度は恒久的なものとして、非課税で保有できる期間も無期限とします。

年間の投資の上限額については
▼「つみたて投資枠」が120万円
▼「成長投資枠」は240万円、合計で360万円とします。

さらに非課税で保有できる資産の限度額は2つの枠の合計で最大1800万円とし、株式などの枠はこのうち1200万円以内に抑えることとしています。

従来の「一般NISA」や「つみたてNISA」で投資をしている人も、新たなNISAは、上限額まで利用することができます。

例えば現在の「一般NISA」で上限の600万円の資産をすでに保有している人も、これとは別に新制度のNISAで1800万円まで非課税で保有できます。

政府は先月「資産所得倍増プラン」の実現に向けた具体策として、NISAの投資額を今後5年間で56兆円と現在の規模から倍増させる方針を示していて、NISAの大幅な拡充でプランの実現につなげたい考えです。

NISA拡充に期待の声

東京 港区で金融教育を行っている企業が13日「NISA」をテーマにしたオンライン講座を開き受講者からはNISAの拡充を期待する声が聞かれました。

オンライン講座には、およそ800人が参加しました。

講座では、講師が▼これまでの期限が撤廃され、制度が恒久化されることや、▼年間の投資額の上限があわせて360万円に拡充される見通しになったことなどを説明しました。
受講者からは、「NISAを始める場合、一定の投資信託に限定した『つみたて』と株式なども購入できる『一般』のどちらがいいか」といった質問が出され、講師が「恒久化すると制度が1つになり、選択の心配はなくなる」などと答えていました。

受講した都内の30代の女性は「恒久化されたことでどのタイミングで投資を始めてもいいので、投資のハードルが下がったと思います。お金に向きあうきっかけになると思います」と話していました。
講師を務めた「グローバルファイナンシャルスクール」の市川雄一郎校長は、「参加者が非常に多く関心度の高さがうかがえた。新たな制度では売却して投資の枠が空けば、再投資できるようにもなっていて、今後、NISAを利用する人が増えると思う」と話していました。

【インボイス制度】 小規模事業者に負担軽減策

今回の税制改正では、来年10月に始まる「インボイス」制度で影響を受ける小規模事業者の負担軽減のためどういった措置を導入するかが焦点となっていました。

インボイスとは事業者の間で消費税の税率や税額を証明する公式な請求書にあたり、消費税の控除や還付を受ける際に必要となります。

インボイスを発行するために税務署に登録すると現在は消費税の納税が免除されている年間の売り上げが1000万円以下の事業者も「課税事業者」となり、新たに納税しなければなりません。

このため来年度の税制改正ではこうした事業者を対象に負担軽減策が導入されます。

消費税の納税額は、売り上げにかかる税額から仕入れの際などに支払った消費税を差し引いて計算します。

「課税事業者」の登録手続きも柔軟に

また、インボイスを発行するため「課税事業者」として登録するための手続きも柔軟にします。

これまでは制度が始まる来年10月1日に登録を受けるためには、原則として来年3月末までに申請書を提出するよう求め、4月以降に申請する場合「困難な事情」があることを記載するよう求めていました。

しかし、事業者の準備状況を考慮して「困難な事情」の記載がなくても4月以降に登録ができるよう改めます。

また年間の売り上げが1億円以下の事業者に対する負担軽減措置も導入します。

仕入れ額が1万円未満であれば、インボイスは不要とする措置を来年10月から6年間実施します。
例えば事業者が税率10%の商品やサービスを販売して700万円を売り上げた場合、売り上げにかかる税額は70万円となります。

その際、事業者が仕入れなどで40万円の消費税を払っていたとすると、70万円から40万円を引いた30万円がこの事業者の納税額となります。

今回の税制改正では、売り上げが1000万円以下の事業者が「課税事業者」になった場合、仕入れなどで払った消費税がいくらであろうと、売り上げにかかる消費税のうち、一律で2割だけ納めればよいという軽減措置を導入します。

つまり売り上げが700万円、消費税率が10%だった場合、納税額は70万円の2割=14万円となります。

政府・与党はこの措置によって、新たに課税事業者となった人たちが税額を計算する手間が大幅に省ける上、多くの場合、納税額も抑えられると見込んでいます。

この軽減措置は、来年10月の制度開始から3年間適用されます。

津軽塗の職人「これを機会に取引をやめることも」

インボイス制度について、青森県津軽地方の伝統工芸品「津軽塗」の職人からは、影響を懸念する声があがっています。

青森市に津軽塗の工房を構える福士武昭さんは、商品作りや、販売、経理などの事務作業まで1人でこなしています。

年間の売り上げが1000万円以下の個人事業主のため、消費税の納税が免除されていますが、インボイスの発行を選択すると、これまでは免除されていた消費税を支払う義務が生じてしまいます。

また、事務作業に時間をとられるということで、現時点ではインボイスの発行に必要な手続きは行わないとしています。

ただ、インボイスを発行しなければ県内の土産物店や仏具店などの取引先が、税金の控除を受けられなくなるため今後、発行を求められる可能性もあります。
福士さんは「年も年で、だんだん作業もできなくなっているので、これを機会に取引をやめることも考えている。収入はもちろん落ちるけど、年金だけで頑張るしかない。インボイスを導入していなくてもほかの誰も作っていないような商品を作って取引をやめたら相手が困るような存在にならないといけない。そこに向けて頑張りたい」と話していました。

インボイス制度「理解している」14%にとどまる

消費税のインボイス制度について都内のIT企業が個人事業主900人あまりにことし9月にアンケート調査を行った結果、「制度を理解している」と回答したのは14%にとどまりました。

アンケートは都内のIT企業がフリーランスや自営業者などの個人事業主926人に実施しました。

この中では「インボイス制度を知っているか」を聞いたところ
▼「制度の内容を知っていて、理解している」と回答したのは14.4%にとどまりました。
このほか
▼「名前は知っているが制度の内容はなんとなくしか知らない」は32.6%、
▼「名前を聞いたことがある程度で制度の内容は全く知らない」は26.3%、
▼「聞いたことすらなかった」は26.7%でした。
このIT企業ではインボイス制度に対応する登録申請書や請求書を作成するサービスを無料で提供していて、13日開いた会見ではこうしたサービスの周知も行いました。
IT企業「freee」の尾籠威則さんは「インボイス制度についての認知度はあがってきていますが具体的にどう対応すれば良いのかわからないという人が多いと感じます。インボイス制度の開始で請求書の保存に関しては電子化やペーパーレス化のニーズも高まると思う。手続きなどが複雑だと思うのでサービスの提供でそうした負担が減らせるようにしたい」と話していました。

個人に対する課税 さまざまな改正

今回の税制改正では相続税・贈与税の見直しや、エコカー減税の適用基準の厳格化など、個人に対する課税でもさまざまな改正が盛り込まれます。

相続税と贈与税は一体的な見直しがなされます。

【暦年課税見直し】

生前に贈与を受けた財産は、毎年110万円までは贈与税がかかりません。

ただ亡くなった日から3年前までに受けた贈与については、死後に相続した財産と合算して相続税を納めることとなっています。
来年度の税制改正では、平均寿命が延びて生前に贈与できる期間が長くなっているなどという指摘をふまえ死後に合算する対象の期間を7年に拡大する方針です。

合算期間は2027年1月以降、段階的に延ばし2031年1月に7年となります。

ただ延長した4年分については総額100万円まで相続財産に加算しないとしています。

【相続時精算課税】

また2500万円までの贈与をいったんは非課税とした上で、相続の際にその分も合算して課税額を計算する「相続時精算課税制度」も見直します。

これまでは少額の贈与でもすべて申告しなければなりませんでしたが、毎年110万円までは贈与を受けても相続時に申告しなくてもよいように改正します。

制度の使い勝手をよくすることで、高齢世代の資産を子育て世代などに移転するよう促す狙いがあります。

【教育・結婚目的贈与】

さらに原則として30歳未満の人が祖父母や親から学校の授業料や塾代などの教育目的で1500万円を上限に一括で贈与を受ける場合、贈与税が非課税になる優遇措置も来年3月末の期限を3年延長します。
ただし相続税の課税対象の財産が5億円を超える富裕層については、非課税とする条件を厳しくするなど要件を見直します。

また結婚や出産などにかかる資金を祖父母らから援助してもらう場合に、1000万円を上限に贈与税を非課税としている措置についても、来年3月末の期限を2年延長する方針です。

【エコカー減税】 来年末まで据え置きへ

車の燃費性能に応じて自動車重量税を軽減する「エコカー減税」は来年4月末に期限を迎えますが、半導体不足などで車の納期が遅れていることなどを考慮して、今の制度のまま来年末まで据え置きます。

その後2026年4月まで減税措置を延長しますが、減税対象となる車の燃費基準を段階的に引き上げます。

減税の割合は2030年度の燃費基準の達成度に応じて決まっています。

現在、最も減税率が低い25%の減税を1回目の車検で受けるには2030年度基準を60%達成しなければなりません。
今回の税制改正では、この達成基準を2025年5月までに段階的に80%達成に引き上げます。

2030年度の燃費基準は車両重量が1200キロの車で1リットルあたり26.1キロメートル。

60%達成だと15.66キロメートルですが、80%に引き上げられると20.88キロメートルとなります。

現在の車の環境性能を前提とすると、普通車の場合対象はハイブリッド車などに限定されるとみられます。

同様に50%減税や免税となる基準も段階的に引き上げますが、電気自動車や燃料電池車などは今後も2回目の車検まで免税となります。

また自動車を購入した際に、燃費性能に応じて税金が課される「環境性能割」も再来年1月以降、燃費基準を段階的に引き上げます。

一方、電気自動車や燃料電池車などを対象に自動車税と軽自動車税を、1年限りで75%減税する「グリーン化特例」は、来年度末の期限を3年延長します。

【富裕層課税強化】

富裕層への課税も強化される方向です。

所得税は給与などには累進課税が適用されているのに対して、株式や土地など資産の売却益については、原則として税率が一律となっていることから、資産所得の多い富裕層ほど優遇され、統計上、1億円の所得を境に税の負担率が下がるいわゆる「1億円の壁」という問題が指摘されています。

今回の改正では、税の公平性の観点から1年間の総所得が30億円を超えるような富裕層のうち、非上場株など資産による所得が多い人を対象に2025年分の所得から追加の課税を始める方向です。

【空き家対策の税制】

住宅への課税では、空き家対策の税制も延長されます。

親などから相続した家屋や敷地について、
▼建物が現在の耐震基準を満たすよう改修したり、
▼家を取り壊してさら地にしたりすることを条件に、売却によって得た所得から最大3000万円を所得税の課税対象から控除する措置を来年12月末の期限以降も4年間延長します。相続した日から3年以内に売却する場合に限られていて、相続した家屋を放置することなく積極的に売却するよう促し、増え続ける空き家の抑制につなげたい狙いがあります。

【スタートアップ企業】 再投資を優遇

岸田政権が重視するスタートアップ企業の育成につながる内容も盛り込まれました。その1つが、個人投資家を対象にした優遇税制です。

投資家が株式を売却して得た利益をその年のうちにスタートアップ企業に再投資する場合、売却益から最大20億円まで所得税の課税対象から外します。

投資対象の企業は▼設立から5年未満で、▼利益を十分にあげておらず資金的な支援が必要な企業に限定することにしています。

創業初期で資金を必要とする企業を支援する狙いがあります。

また、この税制では、株式の売却で得た資金を使って自ら起業する場合も、同様に、20億円を上限に課税対象から外すことにしています。

オープンイノベーション促進税制

企業がスタートアップ企業に出資した場合の優遇措置も拡充します。

現在は、企業がスタートアップ企業が新規に発行した株式を取得した場合、一定の条件が整えば費用の25%を法人税の課税対象から差し引くことができます。

来年度の改正では、発行済みの株式もこの優遇措置の対象とします。

その際は、株式の過半数を取得して買収することとし、その後5年以内にスタートアップ企業の売り上げが1.7倍以上に成長することや、研究開発費が2.4倍以上となることなどが条件となります。

みずからを買収した企業の支援を得ながらスタートアップ企業がさらに成長する流れをつくる狙いがあります。

研究開発税制

また、研究開発の支援も拡充します。

企業がスタートアップ企業などと共同で行った研究開発については、これまで経済産業省が認定したファンドから出資を受けたスタートアップ企業などと研究した場合に限って法人税額から一定の控除が受けられました。

来年度の税制改正では、この共同研究の対象となるスタートアップ企業の条件を大幅に緩和することで、大企業とスタートアップ企業との共同研究を活発にしようとしています。

【航空機燃料税】

航空機に積み込む燃料に課税する「航空機燃料税」について、新型コロナで打撃を受けた航空業界を支援するための軽減措置を2年間据え置いた上で段階的に引き上げます。

航空機燃料税は一昨年度の1キロリットルあたり1万8000円から今年度は1万3000円に軽減されています。

来年度から2年間は現在の水準に据え置いた上で、その後、5年後の2027年度までに段階的に1万8000円まで引き上げることにしています。

一方、航空機の燃料に課されている「地球温暖化対策税」を企業側に還付する措置は来年度も継続します。