防衛費増額の財源「復興特別所得税」活用 慎重意見も 自民税調

防衛費増額の財源を賄うための増税策をめぐり、自民党税制調査会は、党の所属議員が広く参加する形での議論を始めました。増税に理解を示す意見の一方、「復興特別所得税」の活用は慎重に対応すべきだという指摘が相次ぎました。

自民党税制調査会は13日午前、幹部らおよそ30人が出席する会合を開き、2027年度以降、1兆円余りの財源が不足するとして、岸田総理大臣が与党の税制調査会に増税を検討するよう指示したことを踏まえ、意見が交わされました。

出席者からは、「国を守る気概を国民で共有するため税で対応すべきだ」と増税に理解を示す意見の一方、「大事な議論であり、もっと時間をかけて慎重に行うべきだ」と拙速な議論を控えるよう求める声も出されました。

また、税制調査会の幹部が検討している3つの税目を組み合わせる増税案のうち、東日本大震災からの復興予算に充てる「復興特別所得税」を活用することについて、「復興に対する間違ったメッセージになりかねない」などと、慎重に対応すべきだという指摘が相次ぎました。

会合のあと、宮沢税制調査会長は「増税の税目や施行期日など、岸田総理大臣から指示された結論を出さなければならない」と強調し、14日に増税案のたたき台を示して議論する考えを明らかにしました。

党の税制調査会は午後からは党所属のすべての国会議員が参加できる会合を開いて同様の議論を行いました。

会合にはおよそ100人が出席し、今週中に増税の具体的な案をまとめることや「復興特別所得税」の活用などに対して反対する意見が相次ぎました。

自民 茂木幹事長「再来年度以降 段階的導入で議論進むのでは」

自民党の茂木幹事長は、記者会見で「来年の増税は不要だが、『再来年の2024年度以降の適切なタイミングで、その年度の不足分を充足する段階的導入を行っていく』という考え方で議論は進むのではないか」と述べました。

一方、岸田総理大臣が与党に増税の検討を指示したことに、自民党内や閣僚の一部から反対意見などが出ていることについて「決まったら、その方針に従っていくのがこれまでの慣例だったと考えている」と述べました。

自民 世耕参院幹事長「税目を議論する前に説明が先決」

自民党の世耕参議院幹事長は、記者会見で「国民の納得と理解を得たうえで協力してもらえるものにしなければならない。税目を議論する前に、どういう装備にどの程度の金額がかかるのかをしっかり説明することが先決ではないか」と述べました。

そのうえで、岸田総理大臣が増税の検討を与党に指示したことについて「トップダウンで物事を決めることはわが党でもあるが、最終的には党内でコンセンサスを得られなければならない。岸田総理大臣や官邸がしっかり努力すべきだ」と指摘しました。

一方、高市経済安全保障担当大臣の一連の発言については「閣議決定前なので閣僚間での自由な意見交換はあってしかるべきだ」と述べました。

秋葉復興相「復興財源の総額確保が大前提」

秋葉復興大臣は、閣議の後の記者会見で「あくまで復興財源の総額を確保することが大前提での議論だと認識していて、復興予算の総額が削られるということは断じてないと確信している。政府としては復興のための財源を損なうようなことは考えていないということで閣内一致している」と述べました。

西村経済産業相「中小企業への影響も配慮し議論を」

防衛費の増額で不足する財源を賄うため、政府・与党の間で法人税を軸に増税の検討が進められていますが、西村経済産業大臣は、企業への増税に慎重な立場を示しています。

これについて西村大臣は、13日の閣議のあとの会見で「内閣の一員として、岸田総理大臣の指示の内容は十分に理解している。そのうえで、経済産業政策を預かる立場から、今は賃上げや投資に集中し、成長軌道に乗せて税収の上振れにつなげるべきであり、これらを阻害すべきではないという観点から発言した」と述べました。

そのうえで「今後は与党税調で議論が行われるわけだが、国民全体で負担するという考え方に基づき、中小企業への影響も含めてバランスの取れた議論がなされることを期待している」などとして、中小企業への影響にも配慮した議論を行うべきという考えを示しました。

西田参院議員「復興特別所得税を充てる話 ありえない」

自民党安倍派の西田昌司参議院議員は、税制調査会の会合のあと、記者団に対し「復興特別所得税を防衛費に充てる話はありえず、間違ったメッセージになる。所得税に比べて法人税は圧倒的に少ないので、このゆがみを正すための議論を行っていけば、必然的に答えは出てくるのではないか」と述べ、法人税の増税などを中心に財源を確保すべきとの認識を示しました。

片山元地方創生相「3年くらいは国債で対応するしかない」

自民党無派閥の片山さつき元地方創生担当大臣は、記者団に対し「国民は防衛力増加に賛成しているが、急に増税一辺倒になったから生活が苦しい人は法人も個人も反対するのは当たり前だ。『復興特別所得税』の期間を延ばすなら、新しい『防衛税』をとるのと同じになり、そう言えばいい。3年くらいはつなぎの国債で対応するしかない」と述べました。

根本元復興相「道筋を整理することが政治の責任」

福島県選出で、岸田派に所属する根本元復興大臣は記者団に「増税というより、国を守るためにどう財源を確保していくかという財源手当の問題だ。安全保障は国民全体の問題で、財源確保の具体的な道筋をしっかりと整理することが政治の責任だ。税の手段は当然入る」と指摘しました。

また、「復興特別所得税」の活用が検討されていることについては「復興に充てるための財源であり減るようなことは断じてありえない。福島はこれからもさらなる復興を迎えるので、財源はきちんと確保することになると思う」と述べました。

石破元幹事長「復興特別所得税活用は論理的ではない」

石破元幹事長は記者団に対し、「復興特別所得税」の活用が検討されていることについて「復興に遅れが生じず、困る人が出ないのであれば考え方の一つだと思うが、『そこにあるから回す』ということはあまり論理的に結び付く話ではない。取れるところから取ろうという発想だとしたら、税の公平性の観点から正しい考え方とは思わない」と述べました。

務台衆院議員「国債の償還年限見直しなど幅広い議論を」

麻生派の務台俊介衆議院議員は「国債が財源としてカウントされていないことは合理的な説明になっていない。国債の償還年限の見直しなど幅広い議論をしたほうがいい」と述べました。

また、「ほかの出席者からも増税について相当慎重な意見があった。特に法人税を対象とすることは賃上げなど企業が負担する中でそれに冷や水を浴びせるような対応はよくないという議論があった」と述べました。

牧原衆院議員「深く時間をかけた議論必要」

自民党谷垣グループの牧原秀樹衆議院議員は、記者団に対し「国債は本当の危機の時に発行する余力があることが大事であり、防衛のように今から費用がかかることがわかるものは、安定財源を確保すべきだ。ただ、国民への負担をできるだけ回避することは当たり前で、生活や経済を守りながら防衛を強化するバランスを議論するには、3日では全然足りない。もう少し深く時間をかけた議論が必要だ」と述べました。

稲田元防衛相「国民に税負担は責任ある政治のあり方」

自民党安倍派の稲田・元防衛大臣は記者団に対し「令和9年度には非常に厳しい安全保障環境になっていることが予想され、恒久的な安定財源が必要だ。国民に税負担をお願いすることは責任ある政治のあり方で、ダラダラといつまでも議論するのではなく、ここでしっかり決めるべきだ」と述べました。

中村衆院議員「国民の不安あおり政治の信頼ぐらつく」

自民党麻生派の中村裕之・衆議院議員は、記者団に対し「こうした形で増税議論を行うことは国民の不安をあおり、政治の信頼がぐらつくのではないか。安定財源を確保することが政治の責任だという言い方をする議員もいたが、予算が足りないから全部、国民に押し付けるというのが政治の責任になるかというと、非常に疑問だ。あすの段階で一任をとるのは、難しい状況ではないか」と述べました。

立民 泉代表「政権の体をなしておらず混乱の極み」

立憲民主党の泉代表は、党の常任幹事会で「国民も大混乱・大反発で、自民党の中が大混乱している。政権の体をなしておらず、混乱の極みだ。国民生活が厳しい状況で、防衛費が何のために5年間で43兆円なのか、全然分かっていない中で増税というのはけしからん。岸田総理大臣のリーダーシップは間違っている」と批判しました。

また「今一番怒っているのは、東日本大震災の復興に一生懸命歩んでいる東北各県の皆さんではないか。『復興特別所得税』がいつの間にか防衛費に転用されるのは納得できず、本当におかしい」と述べました。

立民 岡田幹事長「復興特別所得税の流用はありえない」

立憲民主党の岡田幹事長は、記者会見で「『復興特別所得税』の流用とはいったい何なのか。目的は法律で定まっており、全然違うことに流用するのは民意を踏みにじるものでありえない。政党や政治家には歳出に見合う歳入を説明する責任があり、政府は説明責任を果たすべきだ」と述べました。

共産 田村政策委員長「戦争をする国家づくりのために増税か」

共産党の田村政策委員長は、記者会見で「日本の在り方を変えて戦争をする国家づくりのために増税をするのか。コロナ危機や物価高、賃金も上がらない経済停滞のもとで増税を行えば、日本の経済は破壊される。政府・与党には対決姿勢で臨んでいかなければならない」と述べました。

国民 玉木代表「増税の議論は適切ではない」

国民民主党の玉木代表は、記者会見で「経済回復に向けて、賃金が持続的に上がっていくマインドをつくることが今は大事なので、増税の議論は適切ではない」と述べました。

また、高市経済安全保障担当大臣が先週末、ツイッターに、岸田総理大臣が防衛費増額の財源として増税を検討するよう求めたことを「真意が理解できない」などと投稿したことについて「高市大臣の趣旨は私も理解できる。ただ、閣内に入っているので、ツイッターに書くのではなく、閣内でよく議論して政府の方針を決めてほしい」と述べました。

経済同友会 櫻田代表幹事「慎重に検討すべき」

経済同友会の櫻田代表幹事は13日の記者会見で、「取りやすいところから取るというのは税の理論としていかがなものか。企業が賃上げや、人や設備への投資に備えようとしている中で水を差す結果になることはほぼ間違いなく、気持ちとしては反対というところが強い」と述べ、慎重に検討すべきだという考えを示しました。

そのうえで「予算規模として想定されている金額が本当に必要なものなのか、そもそも執行可能なのか、議論が全然できていない。財源の議論が先走っていてバランスが取れていない感じがする」と述べ、防衛力の強化に向けた計画の中身と、それに必要な財源の議論をバランスよく進めるべきだという考えを示しました。