仕事で信念を貫くには?女性経営者の“みずからを信じる力”

仕事で信念を貫くには?女性経営者の“みずからを信じる力”
「その体型と体重の、あなたのような見た目の人から化粧品を買う女性はいない」

こんなふうに容姿を否定されても諦めず、自分で立ち上げた化粧品会社をアメリカの有名ブランドに成長させた女性の経営者がいます。

ジェイミー・カーン・リマさん。

テレビショッピングにみずから素顔で出演し、赤みのある肌をさらして商品の効果をアピールすることで、消費者の心をつかみました。

自分を信じ、信念を貫くにはどうすればいいのか。

ジェイミーのメッセージに迫ります。

(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

単なる成功物語ではない自伝

アメリカでベストセラー入りした本、「Believe It」。
化粧品業界を知らない素人だったジェイミー・カーン・リマさんが、「IT Cosmetics」というブランドを創業し、最終的に化粧品大手ロレアルに12億ドル、約1600億円で買収されるほどまでに成長させた経緯がドラマチックにつづられています。

読むまでは、すごい人のサクセスストーリーだろうと思っていましたが、読後感は違いました。

彼女が経験したことは、きっと働く私たちのヒントになる、そう確信してインタビューを申し込みました。

11月中旬にロサンゼルスのホテルで待ち合わせをすると、ジェイミーはパワフルなオーラをまとって現れました。
ジェイミー
「私の物語は、自分を信じられなかった女性が、どうやって自分を信じられるようになったのかについてです。だから、私の使命の1つは、自分を信じるにはどうすればいいのか、皆さんに伝えることだと思っています」

あなたのような見た目の人から買う女性はいない

彼女の生き方の特徴は、いくら否定されても諦めず、自分の信念を貫き通す姿勢です。

ジェイミーは、もともと西部オレゴン州・ポートランドなどの地方テレビ局でキャスターとして働いていました。
多忙な毎日で20代後半で肌に赤みが出る病気を発症してしまったことをきっかけにテレビ局の仕事を辞め、高品質の化粧品を作ろうと思い立ちます。

しかし、当然ながら初めての連続で、商品はなかなか売れません。

特に衝撃的だったのが、ある投資家から彼女に浴びせかけられた次のひと言でした。

「その体型と体重の、あなたのような見た目の人から化粧品を買う女性がいるとは思えない」
記者
「自分の本質を見てもらえず、表面的に判断された時、私たちはどう対処すべきでしょうか」
ジェイミー
「人生においても仕事においても最も大事なことは、私たちの周りの外野の、私たちを否定してくる声のボリュームを下げることです。そして、自分の中にある声に耳を傾けること。他人はあなたが成功した後に信じてくる、それが人間です」

「『あなたを信じられない』『見た目がよくない』『いい学校に行っていない』、誰かからそう言われることもあるでしょう。そして、多くの場合、私たち自身がこうしたことを自分自身に言ってしまっています」

「自己不信は他の何よりも夢を壊すのです。否定する声のボリュームを下げる、自分はそのままで充分だと信じましょう」

女性たちはリアルを求めている

ジェイミーが否定されたのは、この投資家からだけではありません。

商品を置いて欲しいと頼んでも、小売店からは見向きもされず、商品が売れずに会社が倒産してしまうのではないかというところまで追い詰められます。

それでも、彼女は、自分の直感と信念に従います。

投資家は間違っている。

ほかの化粧品ブランドも間違っている。

世の女性たちは、自分とかけ離れたシミの1つもないモデルの広告にうんざりしているに違いない。

それであれば、リアルなモデルを使おう。

テレビショッピングでこのクリームを使えば、実際にシミが隠れる、効果が十分にある様子を実演して見せたらどうだろうかーーー。

そして、テレビショッピングに肌に赤みがある自分が素顔で出演してリアルを追求。
すると、商品が飛ぶように売れ始めたというわけです。
記者
「否定され続けて普通なら諦めると思いますが、あなたはNoをYesに変えるまで決して諦めなかった。仕事で否定されても自分を信じ続けるにはどうすればいいのでしょうか」
ジェイミー
「私は化粧品のブランドを立ち上げるにあたり何百というNOを突きつけられました。もちろん、多くの間違いも犯しましたが、1つ正しいことをしたとすれば、否定を恐れなくなったことです」

「もし今あなたがこれまでに一度も行われていなかった何かをやろうとしていて、専門家たちが『うまくいくはずない』と言ってあなたを信じなくても驚かないで下さい。みんな前例があることばかりをうまくいくと信じるんです。でも世界を変えることができるのは、これまでにやったことがないことを、できると信じ続ける人です」

「人生で、ビジネスで、キャリアで、成功するための大きなカギは、あなたができるかどうかを疑うほかの誰かの疑念を、自分自身の疑念に変換しないことです。とても難しいですが大切なことです」

美しさとは何か? 常識を変える

さまざまな年代や肌の悩みを抱えたモデルに出演してもらうリアルを追求したテレビショッピングでの販売方法が当たり、会社は急成長。

肌に優しいのに、シミなどを隠すカバー力もあると評判になったCCクリームなどが売れ、アメリカでは有名ブランドとして知られるようになります。

2016年には、化粧品大手ロレアルが彼女の会社を買収し、ジェイミーはロレアルの100年以上の歴史で初の傘下企業の女性CEOとなりました。
しかし、彼女の挑戦はここで終わりません。

ジェイミーは2017年、化粧品の業界団体が選ぶ美容業界に貢献したリーダーに贈られる賞を受賞しました。

その授賞式のスピーチで、業界の重鎮たちにこれまでの美の常識を変えてもらいたいと、次のように呼びかけました。
ジェイミーのスピーチ
「あなたたちの使っているブランドの広告やモデルの姿を見て、不安になったことはありませんか?幼い女の子だったころ、こうした美のイメージを見たことによってどういう影響を受けましたか?」
記者
「あなたを容姿で判断した投資家も、偏った美のイメージに支配されていたということでしょうか」
ジェイミー
「その投資家は意地悪をしようとしたわけではないんです。こうすれば売れると美容業界から長年にわたって教え込まれてきた美しさのイメージに影響されていただけだと思うんです」

「私たちは実はみな、そのイメージに影響されています。すべての女性は美しい、すべての人は美しい、すべては主観的であり、美しさとは私たちそのもののことだと思います」

「愛を感じない時、美しさを見いだすことはできません。祖母の瞳や、自分の子どもや、誰かを愛情を持って見つめる時、そこには美しさがあります。外形的な美しさの定義は時代によって変化していくと思いますが、変わらないのは、いつもそこに愛があるかどうかです」

クレイジーじゃない ただ、最初なだけだ

買収後、最初の2年間でビジネスの規模を2倍に成長させたジェイミーは、2019年にブランドのCEOを退きました。

現在は、自分を信じるためにはどうすればいいのか、化粧品ブランドの立ち上げで得た自分の経験をより多くの女性起業家たちに届けようとさまざまなイベントに登壇してメッセージを伝えています。

中でも私の心に刺さったのが「あなたはクレイジーじゃない、ただ誰よりも先にやろうとしている、最初なだけだ」ということばでした。
ジェイミー
「目標に向かう時、とても孤独に感じます。1番身近な家族ですらあなたを理解できないからです。『自分を誰だと思っているの?クレイジーなの?』と家族に思われてしまう。だから、『自分はクレイジーじゃない、ただ誰よりも先にこれをやろうとしているだけなんだ、最初なだけだ』と忘れずにいることが自分にとってはとても大事なことでした」

「そして、今やっていることを、なぜやっているのか、『Why(=なぜ)』を大事にしてください」

「ある人にとっては、今の仕事自体は好きじゃないけれど、ここで働いたお金で本を書いて出版したい、アート作品を作って世界に発信したい、という目標があるかもしれない。なぜその仕事をやるのか、その答えが必要です。自分よりも大きな『Why』がないといつまでたっても満たされることはないからです」

自分の仕事は好きですか?

ジェイミーはインタビューの中で「本当にやりたい仕事なのか、追求したいキャリアなのか、本物だったら自分でわかるはず。人生の終わりを迎える日、振り返った時に、私は成し遂げたと思いたい。神様が与えてくれたすべてを使い、世界をよりよい場所にしたと思いたい」と語っていました。

取材の後まっすぐな瞳で「あなたは自分の仕事が好き?」と聞かれました。

日々の仕事に追われ、なぜ今の仕事をしているのか、わからなくなってしまうことは誰にでもあると思います。

自分の中の「Why」は1つではないし、変化していっても構わない。

ただ、「Why」の答えを追求し続けることが大事なのではないかと感じます。

周りにちょっとクレイジーだと思われてもいい、きょうからあともう一歩だけ、自分を信じて前に踏み出してみようと思います。
ロサンゼルス支局記者
山田奈々
2009年入局
長崎局、経済部、国際部などを経て現所属