近く閣議決定へ “安保3文書”って何ですか?どうなるの?

防衛力強化に向けた「国家安全保障戦略」など3つの文書の案について、自民・公明両党が実務者協議で合意しました。両党は、アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の取得を新たに文書に盛りこむことも確認していて、政府は近く閣議決定することにしています。

3つの文書とは何なのか、どう変わるのでしょうか?

Q. “3つの文書”とは?

A. 国の安全保障に関する「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」を指します。
政府は防衛力の抜本的な強化に向けて年末にかけて改定する方針で、今の「防衛計画の大綱」が「国家防衛戦略」に、「中期防衛力整備計画」が「防衛力整備計画」に名称が変わることになります。

このうち、
▽「国家安全保障戦略」は外交・防衛の基本方針を定めたもので、平成25年に初めて策定されました。10年程度の期間を念頭に置いていて、改定は初めてになります。今の戦略では、基本理念に「積極的平和主義」の立場から国際社会の平和と安定に寄与することを掲げる一方で、中国の対外姿勢や軍事動向を「国際社会の懸念事項」と明記しています。

▽「国家防衛戦略」と名称が変更される「防衛計画の大綱」、いわゆる「防衛大綱」は日本の防衛力整備の指針で、10年程度の期間を念頭に防衛力のあり方や保有すべき水準を規定しています。昭和51年以降、過去6回、策定されています。改定されれば、平成30年以来となります。

▽「防衛力整備計画」に名称が変更される「中期防衛力整備計画」、いわゆる「中期防」は、「防衛大綱」に基づいて具体的な装備品の整備の規模や防衛費の総額などを定めたものです。今の「中期防」は、令和元年度から5年度までの5年間の計画で、防衛力整備の水準を総額27兆4700億円程度としています。

Q. なぜ改定するの?

A. 政府は覇権主義的な動きを強める中国と、過去に例のない頻度で弾道ミサイルを発射している北朝鮮、そして国際秩序の根幹を揺るがすロシアなど、日本を取り巻く安全保障環境が急速に厳しさを増していることを背景に挙げていて、これまで自民党と公明党は防衛力の抜本的な強化に向けて協議を重ねてきました。

Q. 改定内容は?

では、具体的にどのように改定されるのでしょうか。それぞれについて詳しく見ていきます。

A. 「国家安全保障戦略」 中国の動向 “最大の戦略的な挑戦”

「国家安全保障戦略」では中国の動向に関する記述について「国際社会の懸念事項」としていたのを「わが国と国際社会の深刻な懸念事項であり、これまでにない最大の戦略的な挑戦」と表現しています。

A.「国家防衛戦略」“反撃能力の保有”明記

「国家防衛戦略」には敵の弾道ミサイル攻撃などに対処するため、ミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」を保有することが明記されています。

具体的には、日本ではこれまで弾道ミサイルへの対処は迎撃に限られていましたが、攻撃を防ぐのにやむをえない必要最小限度の措置として相手国のミサイル発射基地などをたたくことができることになります。

反撃能力については「日本に対する武力攻撃が発生し、弾道ミサイルなどによる攻撃が行われた場合、武力行使の3要件に基づき、攻撃を防ぐのにやむをえない必要最小限度の自衛の措置として相手の領域でわが国が有効な反撃を加えることを可能とする『スタンド・オフ防衛能力』などを活用した自衛隊の能力」と定義しています。

「反撃能力」の保有が明記されたことについて、「国家防衛戦略」では日本へのミサイル攻撃が現実の脅威となっている中で、迎撃によるミサイル防衛だけでは対応できなくなっているためだとしています。

一方で、「反撃能力」は「必要最小限度の自衛の措置」などと定義し憲法や国際法の範囲内で行使されるとした上で、先制攻撃は許されないとして専守防衛の考え方に変わりがないことを強調しています。

A.「防衛力整備計画」 “スタンド・オフ防衛能力”に5兆円

3つの文書のうち「防衛力整備計画」では来年度から5年間の防衛費、およそ43兆円の内訳が明記されています。

それによりますと
▽敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」の分野におよそ5兆円の経費を盛り込んだのをはじめ、
▽航空機や艦船といった装備品の維持や整備におよそ9兆円、
▽新たな装備品の確保におよそ6兆円を計上しています。

また
▽自衛隊の隊舎や宿舎の老朽化対策などにおよそ4兆円、
▽弾薬や誘導弾の購入などにおよそ2兆円のほか、
▽無人機の早期取得や宇宙分野、サイバーの分野にそれぞれおよそ1兆円などとしています。
「反撃能力」を行使するための「スタンド・オフ防衛能力」などの装備として、
▽国産のミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良型や
▽島しょ防衛に使う「高速滑空弾」を開発・量産するほか、
▽アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」を念頭に外国製のミサイルの着実な取得を進めることが盛り込まれています。

令和元年度から5年度までの5年間の計画で総額27兆4700億円程度だったのが、来年度から5年間でおよそ43兆円になるとしています。

Q. 課題は?

A.「反撃能力」をめぐって、政府は行使のタイミングは相手が武力攻撃に着手した時点であり、先制攻撃は行わず、専守防衛を堅持するとしていますが、武力攻撃の着手をどう判断するのか難しいという指摘も出ていて、先制攻撃にあたらず、専守防衛の考え方に変わりがないことに理解を得られるかが課題となります。

また「反撃能力」を行使する装備として念頭においている国産の誘導ミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良型についても、配備先となる地域の理解がえられるかどうかも今後の焦点となる見通しです。

最後まで調整続いた「国家防衛戦略」の記述

最後まで調整が続いてきた、中国の弾道ミサイルが日本のEEZ=排他的経済水域の内側に落下したことをめぐる「国家防衛戦略」の記述については、公明党が、外交上の配慮を主張したことを受けて「わが国および地域住民に脅威と受け止められた」としていた当初の記述から「わが国」を削除し「地域住民に脅威と受け止められた」とすることで決着しました。

また両党は装備品の整備規模などを定める「防衛力整備計画」に敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」としてアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の取得を新たに盛りこむことも確認しました。

自民・公明両党は、13日にそれぞれ党内の意見集約を図ることにしていて、政府は近く閣議決定することにしています。